やってはいけない外国語の授業あれこれ

菅正隆

やってはいけない 外国語の授業あれこれ[第5回]黒板の使用方法あれこれ 無駄な板書百害あって一利なし

トピック教育課題

2021.04.09

やってはいけない 外国語の授業あれこれ[第5回]
黒板の使用方法あれこれ 
無駄な板書百害あって一利なし

大阪樟蔭女子大学教授 
菅 正隆

『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月

1.そもそも黒板とは

 全国黒板工業連盟によると、1872(明治5)年の学制発布とともに、大学南校(東京大学の前身)のアメリカ人教師スコットによって、「ブラックボード」がアメリカから日本に持ち込まれたとされる。1874(明治7)年に新しい授業制度がスタートし、1877(明治10)年には全国に黒板が広がり、名前も「ブラックボード」からそのまま翻訳され「黒板」となった。以降、素材や製造方法に少しの変化は見られたものの、基本的に150年もの間黒板は大きく変わってはいない。

 ある企業の説明には、黒板は「書く」「見る」「伝える」を繰り返す大切な伝達手段としての製品である一方、今は「楽しみ」「飾る」「見せる」の要素が加わり、黒板は身近な製品として変貌し徐々に進化していると書かれている。

 黒板が最も使用されているのは学校現場であることに疑いの余地はない。しかし、この150年もの間、黒板の使用方法に改善や改革が見られたか。また、企業の説明にある「書く」「見る」「伝える」から進化できたか。「楽しみ」「飾る」「見せる」要素は見られたか。否である。黒板がホワイトボード、そして、スクリーンに取って代わろうとしている。黒板はただのアナログ製品であって、次世代には古きよき遺物になっているかもしれない。

2.英語教育にとっての黒板の役割とは

 英語教育では4つの技能の向上をめざしている。「聞く」「話す」「読む」「書く」である。これらと黒板の板書との関係を校種別に効果効率の面から考えてみる。

〈小学校中学年:外国語活動〉
 外国語活動で向上を図る技能は「聞く」「話す」であり、極端なことを言えば、黒板の板書は無用である。板書された文字や日本語を頼りに英語を聞いたり話したりするのではなく、英語を聞いて日本語と英語との音声の違いに気付いたり、生まれながらに母語の日本語に触れてきたように、直接英語に触れることが以後の英語教育の礎となる。もし黒板を活用するのであれば、まさに「楽しみ」「飾る」「見せる」ために、言語活動において、絵カードを貼るボードとして活用することである。

〈小学校高学年:外国語〉
 高学年では4つの技能の向上を図ることから、特に「書く」ことにおいては、板書が有効である。4線を使った文字や文の書き方は、板書で「伝える」「見せる」ことで真似させる指導が重要である。「聞く」「話す」「読む」では、中学年同様に音声を重視し、板書は極力避ける。英語教育の基礎・基本は音声を聞くことであって、視覚的な効果は中学校以降でも十分である。

〈中学校:外国語〉
 中学校では、小学校高学年からさらなる4技能の向上を図ることにある。「聞く」ことの音声スクリプトや「話す」ことのモデルスキットは個別のワークシートが効果的であり、「読む」ことにおいても書画カメラやパワーポイントに板書はかなわない。ここでも、「書く」ことや文法説明において、全体に解説したり、注意喚起する場合に効果がある。ただ書き写すためだけの黒板の活用はやめるべきである。

●やってはいけない板書のパターン

□(1)何でもかんでも板書する
 教師が一方的に、説明したいことや注意点など全てを板書する人がいる。子供は一心不乱にノートに書き写している。教師側からすれば教えているという錯覚に陥るが、子供は意味も解さずにただ手を動かしているに過ぎない。子供の思考が停止している状態で、写経のような深遠なものでもない。このことを教えるとは言わない。よく言えばただの手の運動、指の運動である。英語教育は他の教科と板書の意味合いが異なる。先に述べたように音声中心の科目であり、実技も多く取り入れる。知識も大切だが技能の向上も大きな課題である。音楽や体育の授業で板書に多くを頼らないことを考えれば答えが出る。

 では、どうすると効率がよく効果的か。ポイントは以下のとおりである。

・教師が板書で必要以上に書きすぎないこと。子供たちに考える余地を残すこと。子供たちが板書を見ながら考える状況を設定すること。

・教師が板書を黙々としないこと。子供は集中が途切れ、黒板に注目しなくなる。必ず板書しながら口頭で同じことを伝える。視覚と聴覚の両面で刺激を与えることである。

 例えば以下の文を板書する。対象は6年生及び中学生。

 What(  )do you like?
 英語を読みながら書き進め、
 “What word would fit in this blank?”
 「( ? )に何が入るかな」
 ── I like …science… . “The answer is ‘subject’.”

・板書のスピードを速くせず、量も最小限にすること。子供は書くスピードがまちまちである。速く雑に書く子供もいれば、ゆっくり丁寧に書く子供もいる。書き写す時間に極端に差を生じさせないためにも、スピードと量を調整することである。

□(2)ユニバーサルデザインを考えていない
 板書する際や、絵カードなどを貼る際には、常に支援の必要な子供に配慮する必要がある。よく目にするのは、小学校では、絵カードの貼り方の雑さである。グチャグチャに貼って、子供たちが戸惑うシーンをよく目撃する。横列や縦列を綺麗に統一したり、ジャンル別に並べたりするなど、ちょっとした配慮で救われる子供は多い。また、全国的に行われている黒板左端に書く「今日の授業の流れ」。これ自体は配慮としては適切だが、時として実際の授業が「今日の授業の流れ」とどのように呼応しているのか分からない子供がいる。できれば、今、どこを行っているのかが分かる工夫、例えばマグネットを貼るなどしてあげた方が子供に優しい。一方、中学校では学習する英文の量が増加することから、特に注意喚起したい部分の板書は避け、書画カメラで教科書を投影することである。支援の必要な子供にもどこが焦点となっているのかが分かりやすい。また、クラス全体に板書で文法等の説明をする場合には、できる限り文を厳選して、大きな字で書くことが大切である。

 □(3)板書以前の問題
 英語の授業だけではないが、板書以前の問題が多いことに気付く。例えば、以下のことが分かる。

・漢字を間違う、英語を間違う

 板書は子供たちにとって学ぶモデルであり、教科書と同じ役割である。なのに、漢字を間違ったり、英語の綴りや英文を間違ったりする。ある小学校の校長は私に嘆いた。「最近の先生は漢字を知らない、漢字の書き順なんて無茶苦茶。英語なんて英語じゃない」と。私も人のことは言えないが、その改善策としては、勉強するか板書を極力避けるかである。私は後者を選んだ。その結果、英語指導には好都合であった。

・字がきたない、小さい

 教室後方から見えないほど文字が小さく、アルファベットの活字体に似つかわしくない字を書く人がいる。日本とは異なり普段から目にしない英語の文字である。できるだけ大きく、子供たちの目に焼き付くようなしっかりした字体で書くことが絶対に必要になる。英語が苦手な教師でも、この点は容易に改善できるはずである。

Profile
菅 正隆(かん・まさたか)
岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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菅正隆

大阪樟蔭女子大学教授

岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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