授業力を上げるためにリーダーは?

寺崎千秋

授業力を上げるためにリーダーは?[第5回]教材解釈・教材開発の力量を高める

トピック教育課題

2021.04.06

授業力を上げるためにリーダーは?
[第5回]教材解釈・教材開発の力量を高める


一般財団法人教育調査研究所研究部長 
寺崎千秋

『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月

教材の意義を共通理解する

 未来を拓き未来に生きるために必要な「資質・能力の三つの柱」を身に付けるため、「主体的・対話的で深い学びの実現」に向けた授業の質の向上が一人一人の教師に求められている。コロナ禍の中で3密を回避しながらの授業づくりは苦労も多く、リーダーは若手と協働して取り組んでいることであろう。

 「授業は教師・子供・教材の関係で成立する」と言われてきた。教師と子供の関係は、本連載第2回「児童生徒理解の重視と生かし方」で取り上げた。子供と教材をつなぎ学習の質を高めることについては、第3回「これからの授業の統率力」、第4回「指導技術の向上」で明らかにした。残るは「教師と教材」の関係である。教師と教材をつなぐのは「教材研究」が中心であり、専門職としてその力量が問われる。

 教材研究には教科書等すでに教材として存在しているものの意義や価値、その扱い方を再度確認する「教材解釈」と、これから新たな教材を作成する「教材開発」の二面がある。教材解釈の過程から発展して新たな教材を開発したり、開発したと思ったらすでに作成されていたものだったなど、両者は截然とは区別できないところもある。リーダーによる若手の指導の際には、日々、毎時使用する教科書の教材研究からが始めの一歩となろう。しかし、社会科や生活科などの地域教材等は教材開発も必要であり、状況に応じて両者に取り組むことになろう。

教科書の教材研究を深める

 教科書は、かつては知識・理解を教えるための教材であったが、今や、思考力・判断力・表現力の育成が重視され、子供たちの主体的な学び、協働的な学びが中心となり、教科書も大きく変わってきた。

 出発点は学習指導要領である。教科書は「主たる教材」であり指導要領に基づいて編集されている。各教科の目標や内容、特に資質・能力の三つの柱としてどのような内容が示されているか、どのような指導が求められているかなど、内容の理解と指導計画の作成のためには各教科の「解説書」を紐解くことが必要である。指導要領は法規文なので表現は簡潔で素っ気ない。意味がよく分からないところもあろう。それを補うのが「解説書」である。熟読してポイントを把握するようにする。若手教員の必読書でもある。

 その上で、指導内容等が教科書にどのように取り上げられ編集されているかを検討する。その際、教科書会社発行の「指導書」が参考になる。指導書には取り上げている教材の意味や価値、扱い方、教科書を活用する指導計画、指導案等が掲載されている。しかし、「指導書」を鵜呑みにするのではなく、何を参考にしどう活用するかを教える必要がある。「指導書」が示す事項はいわば全国向けである。その示す内容を学校、地域、子供の実態、教師の力量に応じて考慮する必要がある。自らの学級の実態に即した指導計画・指導案を作成し実践するよう助言する。

教材開発の面白さを体験する

 自前の教材を作成して使用する教材開発は、いわばゼロからの出発。思い付きで行ってはならない。まずは、学習指導要領の目標や内容、指導計画作成と内容の取扱い等をよく吟味し把握する。次に、内容等に相応しい素材を見つけて教材になるか素材研究をする。可能性が高ければ教材化を図る。素材の内容を子供が見たり読んだりなどして、内包されている指導内容にアプローチし、考えたり理解したりできるようにすることが教材開発と言えよう。

 素材の多くは机上だけでは見つからない。校外に出て自らの足で歩き、地域の自然、人々、公共施設や機関などを自ら見て聞いて触れるなどして素材を探し教材化できるかを探ることを大切にする。最初はリーダーが若手と一緒に地域などを案内しながらすでに教材化されている場所や人、施設等を紹介する。どの教科等でどのように教材化されているか、その過程や工夫、苦労などを教える。これを参考にして次は自分でやってみる。このときに忘れてならないことは子供たち。クラスの子供はこれを教材化したらどのように反応し学ぶだろうかを考えながら進める。

 開発した教材は指導計画・指導案に位置付け、授業で子供たちに提供する。その反応や学習の成果を評価し、さらなる改善を行うようにする。期待した成果があれば教師としてのやりがいがさらに高まることであろう。リーダーはそれを応援したい。

学習材、デジタル教材へのチャレンジ

 子供たちの主体的な学び・対話的な学び・深い学びの重視により、教師は教材に関する新たな視点でのチャレンジが求められている。一つは学習材の視点、他の一つがデジタル教材の視点である。

 学習材の視点とは、教材という教える材料ではなく自ら学ぶための材料となるようにすることである。教師が教材化した材料を使って目標に導くのではなく、子供自身が学習材をもとに自ら学べるようにすることである。あるいは子供自身が自分の課題解決に必要な材料(資料)を収集し、それを使って主体的に学ぶことである。今後、学習材の考え方と学習材化の取組はリーダー、若手が一体となってともに研究していくべき課題である。

 デジタル教材については、コロナ禍の中でのオンライン授業・学習の取組が一気に進み、タブレット等がすべての子供に配布されることなどから、急激に浮上してきた。すでに多くの教材が公私ともに作成・公開され、活用が進んでいる。デジタル教科書の使用も一層進展することが予想される。

 デジタル教材の解釈や開発は、校内での研修を通して、作成の意図、ねらい・内容、指導計画などを吟味しシミュレーションし、自校の指導計画に位置付けるようにする。基本は教材解釈、教材開発の項で述べたことと同じである。変革の時代、リーダー、若手が一体となってのチャレンジを期待したい。

 

Profile
寺崎千秋(てらさき・ちあき)
全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長

全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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