Leader’s Opinion~令和時代の経営課題~

中山大嘉俊

Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~ [今月のテーマ]理想の校長 校長の仕事の大半は人が育つ環境づくり 中山大嘉俊

トピック教育課題

2022.07.13

Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~
[今月のテーマ]理想の校長
中山大嘉俊+久保敬

武庫川女子大学特任教授
中山大嘉俊

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.6 2022年3月

学校に根づく「子どものために」  

 卒業式の前日、皆で心を込めて式場を清掃し飾り付けている、若手が自分の役割を何度も確認している、そして式後、担任が卒業生の成長に涙し嬉しげに語っている……。どの学校でもごく普通に見られる光景である。だがそこには、校長が言わずとも、子どもの成長を喜ぶ共通の価値意識がある。これが学校の文化なのだ。人材育成の必要性が指摘されているが、そのためには校長が、このような教職員の姿を心に刻み、教職員の可能性を信頼して接することだ。

 ところで、ミドルリーダー育成の有力な手段として、校長は学校改革の出発点で最前線に立つが、その後はミドルリーダーに期待し、前線に立つ機会を与えて自らは背後から支援体制を組むという方略(大脇:「ミドル中軸のチーム形成型組織」)がある。本稿では、この構想に沿った事例として、教職経験10年以下の教員が全体の3分の2を超える小学校で授業研究を核に学校改革に取り組んだ校長の実践をとりあげ、人材育成について考えてみたい。

任せてやらねば…… 

 授業研究はどの学校でも熱心に取り組まれている誇れる文化である。だが、学力向上という号令の下で「〜ねばならない」が強調され、「こうありたい」 がしぼんでいたり、資質向上に重点が置かれすぎて “個” の問題に押し込められていたりといったことはないだろうか。

 そのような傾向を自校に感じ危機意識をもった校長は、自分たちが他律と自律、他責と自責とのバランスが崩れた中に置かれていること(それは子どもが置かれている状況でもある)を教職員とともに考え、自律性を取り戻そうと考えた。

 その思いをもとに校長は、校務分掌の研究・研修部を研修に特化するとともに、新たにICT活用や安全・安心などをテーマにした提案型のプロジェクト(以下、「pj」)を、1〜6学年の最低学級数を基に組織した。各pjは、各学年、特別支援、担任外の各1名以上から構成した。pjのリーダー、学年主任、 校務分掌の主任の兼務はないようにした。このような組織構成・配置は、より多くの教員に仕事を任せたいとの考えからである。

 各pjには、提案・創造をコンセプトとして取組の改善の提案と検証を行うことと、所属するチームの全員が公開授業等を通して自分たちの実践を「外」 に問うというミッションを課した。併せて、各教員 が他教員の実践から “足らず” より、よさを認めて伝えることをルール化した。

 校長は①経済的・物的な支援及び人的な支援の獲得、②情報の提供、③pj組織が円滑に機能するためのアクションの3点を自己の役割とした。以後、pjチームの創意工夫を生かすために、伴走者として状況を常に把握しながらサポート役に徹している。

 特に校長が力を入れたのは、教員を外部の人とつなぐことである。自身の経験から、教員にとって、その時だけでなく、後々の財産になると考えたからである。指導主事や他校の校長に指導案作成の段階 から関わってもらったり、大学の教員に理論面での知見を得ることができるようにしたりして、自分たちの「ありたい姿」を多様な視点を取り入れて追求できるような環境づくりに腐心したのである。

多様なリーダーシップの中での成長

 各pjでは、例えば、学習指導要領で示された「生きる力」と目の前の子どもの実態を重ねながら、授業や取組の改善を通して「どのような育ちを促そう」とし、「何ができるようになったのか」といったことを問い続けた。その過程で「育てたい力」が具体的な子どもの姿としてより明確になるとともに、各教員が具体的な働きかけをイメージできるようになった。

 教員相互のコミュニケーションが活発になる中で、メンバーに「学校の指導案」を創っているという意識が醸成された。また、ベテラン教員が授業のデザイン、若手がICTに関する知識やアイデアを述べて指導案を作るという相補的な関係も生まれた。

 若手の意見がチームに少しでも反映されれば、若手にオーナーシップが形成されていく。チーム全体で取り組む風土ができ、「黒板を子どもに渡そう」といった合言葉も出るようになった。

 何より子どもの変容を目の当たりにし、子どもの成長を伝え合いともに喜ぶことが、“学び” への意欲や次の実践へのエネルギーとなった。プラスの循環が生まれたのである。

個人の“学び”が、組織の“学び”に

 ところで、pjリーダーと立場や役割の違いから学年主任の一部との間に “溝” ができ始め、やらされているという声が出てきたことがある。校長は、任せた限りはpjリーダーにギリギリまで力を発揮させ、口出ししないという姿勢を保った。

 pjリーダーは、内省から、リーダーシップ重視の考えをファシリテーター重視へと変更し、チームが前以上に元気になった。このpjリーダーは、各教員・集団との様々な関係性の中で、成功、摩擦や葛藤を経験し、組織の質的・構造的な変化を実感しながら、組織マネジメントを肌で学んだのである。また、組織としても、過去の成功や失敗から教員個々が学んだことが「組織としての経験」として生かされ、成長したといえる。ここにいた教員は、それぞれが転勤した後も同じ釜の飯を食った仲間として連絡を取り合っているという。これも成果だろう。

 校長先生方は、管理職への道を選択したときに、自分のめざす教育や学校づくりについてご自身のビジョンを描かれたことだろう。「何がしたかったのか」を自身に問い続けること、それが「理想の校長」ではなかろうか。そのような営みの中で、人材も育つと確信している。

 

Profile
中山大嘉俊 なかやま・たかとし 
 1955年大阪市生まれ。大阪教育大学連合教職大学院修了。大阪市立小学校に40余年間勤務。教頭2校、総括指導主事等を経て校長。首席指導主事を挟み3校目の校長(幼稚園長兼務)後、現職。専門は理科教育と学校経営。校長時代はICTの教育活用や安全・安心な学校づくりを進める。著作は『リーダーズ・ライブラリ』の連載「トラブルの芽を摘む管理職の直覚」(ぎょうせい、2018〜19年)のほか、「学級経営力を高める」(大脇康弘編『若手教師を育てるマネジメント』(ぎょうせい、2019年))、「コロナ禍だからこそ、担任も保護者も独りにしない」『教職研修』(2021年12月号)など。

 

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大阪市立堀江小学校長

大阪市立小学校に40年間勤務。教頭、総括指導主事等を経て校長に。首席指導主事を挟み現任校は3校目。幼稚園長兼務。大阪教育大学連合教職大学院修了。スクールリーダー研究会所属。(2019年3月時点)

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