講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[第5回][校長の学校改革学]学校を変えられるのは校長しかいない
学校マネジメント
2022.03.21
講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[第5回]
[校長の学校改革学]学校を変えられるのは校長しかいない
一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.5 2022年1月)
学校改革は進んでいますか
第4次産業革命、Society5.0などと呼ばれている新たな社会の実現に我が国は大きく出遅れていると言われています。かつての追いつくモデルがあった時代ではなく、新たなモデルは自分たちで作らなくてはなりません。社会・時代の急激な変化に対応し、自分や社会の未来を切り拓くことのできる子供の育成を目指し、学校は、資質・能力の三つの柱及び学習の基盤となる資質・能力の育成、そのためのカリキュラム・マネジメント、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善等々を中核とした「社会に開かれた教育課程」の実施に懸命に取り組んでいます。今般の学校改革の重要な視点です。加えてコロナ禍のからみでGIGAスクール構想の前倒し推進、ICT教育の質の向上、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実等々、次々と求められています。さらに働き方改革も重視されています。
これらの教育改革の流れに、学校・教師は追い立てられていると言っても過言ではないでしょう。それでも新たな教育づくり・学校づくりを子供たちのために進めなくてはならない時です。変えていくことができるのでしょうか。改革の視点を踏まえ、目前の子供にとって何が、どうすることが良いのかを深く考え、考えたことを実行・実践していくのが学校現場の仕事、校長の責務と言えるでしょう。校長の力量が問われるところです。
子供たちのための学校改革は、展望と計画をもち先端となって進められているでしょうか。
学校改革の具体的な取組・実践は
「教えの地図」から「学びの地図」を標榜する新学習指導要領が告示されて4年がたちます。学習指導要領に基づく教育課程を編成し実践してきた結果として、教育目標に掲げた子供たちが育っているかが問われる時です。つまり前述の学校改革の視点を踏まえた教育が実現できているかということです。一言で言えば「教えから学びへ」の転換ができているかを実証し公表することです。
これらを踏まえた学校改革の取組や実践が報じられています。参考までに幾つか例を挙げてみます。
○子供が主役の楽しい学校…大人の都合で子供を動かし子供を受け身にする学校からの脱却を図る。
○子供の主体的・対話的な学びを実現し学びを深める指導…これまでの教え込みの指導からの脱皮。
○宿題は出さない…授業での見通しと振り返りから家庭学習で自分がすべきことを自分で考える。
○担任固定制から協同担任制へ…個業から一人の子供を多くの教師が協働して関わり育てることへ。
○生活指導から生活づくり指導へ…規則を守らせる生活指導から子供自らの生活づくりの指導へ。
○朝会等で「気を付け・前倣え」を発しない…指示命令で動くのではなく自発的・自主的に行動する。
○チャイムを廃止する…生活時程の管理をチャイムの合図で動くのではなく自分で生活管理する。
○働き方改革と連動させた校務分掌や指導体制、会議の持ち方等々の改革・改善も進められている。
一例ですが、学校改革に向けた確かな歩みです。
「与えて・させて・見回る指導」から「聞いて・助けて・任せて・見守る学習支援」へ
学校改革を進める中で今最も難しいのが授業改革ではないでしょうか。「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」ができているでしょうか。
知識・技能は覚えるだけではなく課題解決に生きて働くこと、思考力・判断力等は未知の状況にも対応できること、学びに向かう力は学びを学習や生活に生かすことです。一人一人の子供に一体的に実現できているでしょうか。地味ですが最大の課題です。
相変わらず教師中心の教え込みの「与えて・させて・見回る指導」、一斉画一授業から抜け出せていないのではないでしょうか。目標や教材は教師が与え、学習活動は教師の指示や説明でさせ、できているか見回り、机間指導をします。日本の教師はこの指導に長けています。しかし、この授業一辺倒では子供の主体性や創造性は育ちません。これまでも我が国の教育課題になっていましたが、時代の変化の中で、待ったなしで転換すべき時が来たわけです。
授業の在り方を根本から変えるためには教師の意識改革・指導の構えを変える必要があります。それが「聞いて・助けて・任せて・見守る学習支援」です。理論だけでなく実践を通して変えていきます。
「聞いて」とは、「何をやりたいか」(学習課題)、「どのようにやるか」(学習方法)、「どれくらいの時間が必要か(学習計画)」、「どんな仲間でやるか(学習集団)」を子供から聞き出すことです(ファシリテーション)。これらを子供が自主決定するように支援します。「助けて」とは聞き出し決定したことが実現できるように助言や援助することです(コーチャー・カウンセラー)。「任せて」とは、子供が学びを進めることに手出し口出ししないことです。「見守る」とは学習活動・子供の状況を「評価規準」を基に観察して必要な支援や指導をし、活動記録を残し、本時の振り返りや次の指導につなげることです。
この教師の意識改革と指導の構えを身に付けるのに最適なのが生活科、総合的な学習の時間です。両者の目標を見れば納得できるでしょう。取り組んでいくと教師中心の教え込み型指導から抜け出していきます。その域までに2・3年程度かかりますが、それにより受け身の学習態度であった子供たちが学習や生活に主体的に取り組むように変わってきます。
授業改革は子供の未来を創る最前線。成否が子供の未来にかかっています。校長が先端となり子供の深い学びを実現する授業改革のリードに期待します。
※改革を進める際の道標となる図書を紹介します。
・ハマー&チャンピー共著・野中郁次郎監訳『リエンジニアリング革命』日本経済新聞出版、2002年…本書が示す「根本的、抜本的、プロセス、劇的変化」の4視点は学校改革の根本として参考になります。発想の転換を学ぶことができます。
・佐藤学著『第4次産業革命と教育の未来』岩波ブックレット、2021年...現在の教育改革の背景やどう取り組むべきかの示唆を提示しています。
・田村学・野田敦敬編著『学習指導要領の未来』学事出版、2021年...教育改革の中核をリードする生活科と総合的な学習の時間の意義、今後の取り組み方を示しています。校内研修のテキストに最適。
Profile
寺崎 千秋 てらさき・ちあき
全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。