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特集 AI時代を生き抜く子供を育てる AI時代を生きる子供に求められる力

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2021.07.14

特集 AI時代を生き抜く子供を育てる
AI時代を生きる子供に求められる力

一般社団法人ICT CONNECT21会長・東京工業大学名誉教授 
赤堀 侃司

『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3月

チューリングテストとは何か

 イギリスの天才数学者であるアラン・チューリングは、第2次世界大戦においてイギリスが戦っていたドイツ軍の暗号エニグマを解読して、イギリスを勝利に導いたことでよく知られているが、暗号解読は国家機密であるために長くその功績は公表されなかった。戦後5年経った1950年に、機械は知能を持つか、という論文を発表して人工知能研究のきっかけを作った。その論文の中でイミテーション・ゲームと題する思考実験を提案しているが、これがチューリングテストと呼ばれ、機械と人間の違いを判別するテストである。また、イミテーション・ゲームの題名で世界的ヒットになった映画作品としても、知られている。余談であるが、アラン・チューリングはその後数奇な運命をたどり自殺したが、彼の名誉挽回と功績を称えるため、2019年にイギリスの50ポンド紙幣の肖像画として採用されることになった。さて、そのチューリングテストとは何であろうか。

 実際に私は、ドイツの中等教育学校(ギムナジウム)の情報科学の授業で、そのテストを参観したことがある。パソコン教室で、端末がネットでつながっていて、あるパソコンから質問を投げかける。ネットにつながっている一つの端末からは、プログラムが返信される。他方の端末からは生徒が答えるのだが、その順番はランダムにして、今の返信はプログラムなのか生徒なのかを、15人程度の生徒が判定する。この実験結果はどうであったか。20回ほどテストして、ほぼ50%程度の正解率だった。アラン・チューリングは、論文の中で、もしプログラムなのか人間なのかの見分けがつかないのであれば、プログラムは人間と同じように知能を持つと言えるのではないか、と提案したのである。

AIは人間とどこが違うのか

 さて、上記のチューリングテストを、実際に私も実験した(赤堀、2019)1。その結果を、簡単に示す。

 プログラムとして、AIスピーカーを用いた。AIは年ごとに進化しているので時期も重要であるが、実験は2018年10月に実施した。それに対する人間の返信は、私自身が答えた。つまり、質問をAIスピーカーに投げかけ、その返事を記録し、他方は自分で答えて比較したので、極めて簡単な実験なのだが、結果は興味深いものであった。質問内容は多様な分野で、日常会話、算数の問題、社会の問題などで、さらにAIスピーカーではなく画像認識のAIツールを用いて、イラストの認識なども人間と比較した。その判定を、東京都内の大学生60名に依頼して、判定の正解率と質問の内容を分類して、比較考察した。その例は、以下のとおりである。

 日常会話で、「おはようございます」という問いかけに対して、どちらも、「おはようございます」と答えた。ここでは、区別できない。「今日は暑いですね」という問いかけに対して、一方は、「暑い時こそ、ホラー映画を見るのはどうでしょう」と答え、他方は、「今年は特に暑いですね」と答えた。どちらがAIで、どちらが人間かを、大学生60名に答えてもらい、その判定理由を書いてもらって、分析したのである。答えは、ホラー映画の答えがAIで、「今年は特に暑いですね」の答えが人間である。

 大学生がその判定理由として挙げているのは、例えば、「今年は特に暑いですね、と、人は共感しているから」と答えた。そのとおりである。日常会話において、共感して、しかも、短く簡単に答えるのが挨拶の常識だからである。それが、ホラー映画というのは、文献か知識を検索した結果からだと、理由を述べた。

 このような実験を17の問題について実施し分析をしたが、上記の例だけでも、およそAIと人間の違いのニュアンスは理解できるだろう。AIは基本的にデータに基づいて判断をしていることに対して、人間は常識や感性など総合的に判断しているのである。データに基づくとは、文献やインターネット上の情報、さらにwebサイトにアクセスした時の回数や、SNSなどの会話文や写真・音声などを含むことを考えれば、極めて多様なデータを基にしていることが分かるだろう。そこで、もう少しその違いを見てみよう。

 1980年代は第2次AIブームと呼ばれるが、その後冬の時代を迎えることになる。その時の問題として、先に挙げた人間の常識という知識を、コンピュータに実装することが極めて難しいという壁があった。例として、「夏、テニスをした。終わってから飲んだビールが、美味しかった」という文章を、当時のAIは理解できなかった。たぶん現在のAIでも無理であろう。この文章を読ませて、何故、ビールが美味しかったのですか、とAIに聞いても、「分かりません」としか答えられないからである。

 この文章を理解する過程は、夏は暑い、テニスをすれば汗をかく、暑い夏にテニスをすれば大汗をかく、汗をかけば喉が渇く、喉が渇けば水分が欲しくなる、ビールは冷えている、この時に、冷えたビールを飲めば美味しいに決まっている、と小学生でもすぐに分かる。しかし、この理解のプロセスには、かなり複雑な操作が含まれている。夏、といっても、暑い、だけでなく、お盆、プール、夏休み、スイカ、夏祭り、など膨大な用語を思い出すだろう。テニスも同じで、学校の部活、プロ選手、世界選手権、ラケット、など挙げればきりがないが、テニスをすると汗をかく、という連想だけを選択している。またビールにも膨大な連想があるが、その中のビールは冷えている、だけを取りだしている。それらをつなぎ合わせて、夏にテニスをしてビールを飲めば美味しい、という認識に至るには、夏は暑い、テニスをすれば汗をかく、ビールは冷えている、だけを取りだしてつなげなければならない。それを、人は簡単にやってしまう、人は、それは常識だよ、と思っている。つまり、常識という知識をコンピュータに実装することがいかに難しいかを、1980年代に知ったのである。

 

[注]
1 赤堀侃司「チューリングテストによるAIと人の特徴分析の予備的研究」『AI時代の教育論文誌』第1巻、2019年、pp.1-6

子供たちにはどんな力が必要か

 上記のことから、人はなんと高度な情報処理をしているかに、驚かされる。常識的に、つまり当たり前のこととして、処理している。先の文章理解は、言葉を関連付けて人は理解している。挨拶の問題では、人は、共感する、感じることで、日常生活を送っている。これは、AIにはできないことが分かるだろう。そこで、大切と思われる内容を取り出して、子供に身に付けさせたい力を、次のように挙げたい。

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