キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第4回] 鼎談「バックキャスティングで持続可能な世界を描く」
『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト
2022.02.23
SGDs推進におけるリーダーの役割
君島:SDGsという大きな目標に向かって、守りと攻めを行っていくリーダーにはどんな力が必要か、リーダーはどうあるべきか。
加治:まず仕組みを理解することが重要だ。中国、米国、EU、アジア、この四圏がそれぞれ、どうやって経済的な繁栄を維持しつつサステナビリティを両立させるのかという、ある種のゲームを始めている。EUは非常に上手にゲームのルールをつくって自分たちが優位に立とうとしている。多くの日本企業は、守りの観点からルールを理解しておくべきだ。無関心であることは致命傷になりかねない。
山中:企業内部のリソースマネジメントも重要だ。稼ぎにもなって社会貢献もできる事業をつくり確立するまでにはお金がかかる。ベンチャー企業のように、マネタイズを意識した事業ポートフォリオのマネジメントをする必要がある。
図表1は、X軸にマネタイズのしやすさ(お金になるか)、Y軸に独自インパクト(自社ならではのインパクトが出せるか)をとっている。最終的にはCSV事業を目指すが、一気には難しい。まずは独自インパクトが大きくなくてもマネタイズしやすい事業(既存事業)をつくり、次世代の技術に投資をして、新規インパクト事業をつくり、最終的にCSV事業に育てていくというようなサイクルをつくる力が必要になる。
ユーグレナの場合には、初期には、ユーグレナを使ったクッキーや健康飲料などを主に日本で販売していた。それ自体、独自インパクトは大きくないが、確実に一定のマネタイズをして、バイオ燃料という次世代技術の開発につなげた。現在、新規インパクト事業がCSV事業に移行しつつあるというタイミングだ。
加治:大企業が事業を転換していくときも同様の考え方をしている。自動車産業でいうと、電気自動車へ変わっていくプロセスそのものだ。
君島:一方で、既存の大企業の中には、既存事業に力を入れて、今までのやり方を大事にしているリーダー層、経営層が多いのではないか。
加治:SDGsにも関連して、最近改めて企業のパーパス(存在意義)が注目を集めている。経営層にはパーパスに照らして「SDGsを本気でやっていこう」という発想はある。新卒のSDGsネイティブにも、5年前くらいから機運が見られる。その間で、現場で数字責任を負っている中間層が一番苦しんでいる。SDGsは「きれいごとだ」「義務だ」と考える人、「CSV事業部の仕事だ」と自分事化されていない人もいるだろう。ただし、SDGsは「全人類がこちらに向かいます」と宣言され、日本の政策にも組み込まれている。世界の動きを理解して、「この仕事を少しサステナブルにしたら、どんなふうに見えるのか」と、自分事として捉えて、目の前の仕事を見る角度を少しだけ上げてみてほしい。
若い世代へのメッセージ
君島:SDGsが自然と自分の志になっているような、これからのリーダーにどんなことを期待するか。
山中:会社のパーパスと、「この分野は自分が進めたい」という心の欲求と、それが重なる領域がある。その領域で新しいビジネスをつくる力を、若い世代の新しいビジネスリーダーたちに求めたい。つまり、「ソーシャルイントラプレナー」を目指してほしい。社内で事業を立ち上げる人をイントラプレナーという。それにソーシャルを付けると、ソーシャルイントラプレナーになる。社会が求めるものが何かをよく理解し、同時に自社の戦略的方向性も理解して、自分が本当にやりたいことの領域で新規事業をつくりだしていく。
成功例として、アフリカ最大のモバイル決済サービス、エムペサ(M-Pesa)がある。これはボーダフォングループの新規事業として生まれた。立ち上げをリードした若手社員は、アフリカ村落部にも金融サービスを届けたいという志を持っていた。社内で断られ、英国政府のビジネスコンテストに応募・受賞をして、社外を巻き込みながら開発をして、最終的には社内でお墨付きを得たという。現在、ケニアのGDPのうちの3分の2は、エムペサ経由でお金が流れているそうだ。
君島:組織に閉じない視野を持っているからこそ、社外の力を使って社内を動かす発想や行動ができるということ。ソーシャルイントラプレナーもアントレプレナー(起業家)も応援できる社会にしていきたい。
加治:感謝と勇気を忘れないでほしい。第2次世界大戦後に戦争状態がなかった国は世界に8か国しかない。その中でも日本は積極的に平和を維持してきた国。この国に生まれたことへの感謝を忘れず、この国に生まれた自分の役割を考えてほしい。もう一つは勇気。SDGsは、人々の中にばらばらに存在している良心や希望のかけらをつないで大きなうねりにするような仕組みだ。自分が独りではなく、人類70億人が同じ方向を向こうとしている、という時代的背景を思いながら、勇気をもって取り組んでほしい。
君島:希望のかけらを大きくつなぎ合わせていく。心に残る表現だ。これからのリーダーにはそんな勇気ある行動を期待したい。
〔構成/株式会社グロービス ディレクター 許勢仁美(こせ・めぐみ)〕
Profile
君島 朋子 きみじま・ともこ
国際基督教大学教養学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、グロービス ファカルティ本部にて研究開発とファカルティ・ディベロップメントを統括。キャリアデザイン学会会員。株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役。
加治 慶光 かじ・よしみつ
富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBA修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリパラ招致委員会等を経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張等を担当後現職。
山中 礼二 やまなか・れいじ
キヤノン株式会社、グロービス・キャピタル・パートナーズ、ヘルスケア分野のベンチャー2社を経て現職。社会を変える起業家の育成と投資を行っている。非常勤で、愛さんさん宅食株式会社(取締役)、NPO法人STORIA(理事)。一橋大学経済学部卒。ハーバード・ビジネス・スクール修了(MBA)。