キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは [第4回] 鼎談「バックキャスティングで持続可能な世界を描く」

『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト

2022.02.23

Volatility Uncertainty キーワードで読み解くVUCA時代のリーダーとは
[第4回] 鼎談「バックキャスティングで持続可能な世界を描く」

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.4 2021年11月

VUCAの時代と呼ばれて久しい。変化が速くて不確実で、複雑で曖昧な時代。将来の予測が困難な時代。そうした時代に、ビジネスパーソン、さらにいえばビジネスリーダーは、どう変わっていく必要があるのか。グロービス経営大学院の教員陣による対談形式で答えを探る連載、第4回ではSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)について考えを深めていきたい。

株式会社グロービスマネジング・ディレクター 君島朋子
シナモンAI取締役会長兼CSDO 加治慶光
一般社団法人KIBOW社会投資ディレクター 山中礼二

SDGsの成り立ち、産業界での位置づけ

君島:今回はSDGsをテーマに、企業とリーダーがどう向き合うべきか考えていきたい。SDGsは2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標で、企業も目標達成に向けた貢献が求められている。SDGsは産業界ではどのように捉えられているか。

加治:SDGsについて考えるとき、MDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)、2000年に掲げられた人類初めての中期目標を理解することが重要だ。MDGsは極度の貧困と飢餓の撲滅など8つの目標を掲げ、達成期限となる2015年までに一定の成果をあげた。その実績をもとにSDGsは設計されている。MDGsとの一番大きな違いは、SDGsが「バックキャスティング」という発想でつくられていること。もう一つの違いは、MDGsが主に発展途上国などで発生している課題を対象としていたのに対して、SDGsは先進国を含むすべての国が取り組むべきものになっていることだ。

 バックキャスティングは「理想の状態を定義して、それを実現するための戦略を立てる」という考え方だ。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には「我々は、地球を救う機会を持つ最後の世代にもなるかも知れない」という記述がある。先に理想の姿を描くことで、今の延長線上では実現できない壁を超えるイノベーションが不可欠になる。SDGsは2030年までに達成しなければいけない17の目標であると同時に、理想に対するギャップを新しいアイデアで解決していくという、イノベーションの拡大再生産のための仕組みでもある。

山中:企業にとってSDGsには攻めと守りの側面がある。SDGsは人類が共通で追求すべき目標だ。企業が相反することをやっては全人類を敵に回すことになってしまう。自社を守るためにもSDGsを大事にするという守りの側面があり、同時に、SDGsに向けて人類がジャンプできるような事業を自らつくるという攻めの側面がある。

 守りでは、例えばサプライチェーンで人権侵害を出さない、地球環境にネガティブな影響を与えるような仕入れをしないといったことが挙げられる。NPOなど様々な外部機関と連携しながら、自社を守っていくことが求められる。一方で、攻めでは、しっかり稼ぐこと、社会に貢献すること、その両方が求められる。米ハーバード大学マイケル・ポーター教授は2011年にCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)という概念を提唱した。これは営利企業が社会課題の解決に対応することで経済的価値と社会的価値をともに創造しようとするアプローチである。今まさにCSV的な事業が求められる時代になっている。

加治:予測が難しいVUCAの時代とは対照的に、SDGsは2030年までに人類で達成する目標を決めた。つまり、「人類はこの方向に向かっているから、ここに投資をすれば間違いない」と発信した。顕著な例として、2020年10月に当時の菅総理が所信表明演説の中で発言した「カーボンニュートラル2050」が挙げられる。これによっていくつかの企業が、再生可能エネルギーに数千億円単位で投資を決めた。日本の産業界においてSDGsが浸透してきた背景に、経団連(経済団体連合会)の本気の姿勢もある。経団連が2020年11月に開示した新成長戦略のタイトルには句点がついており、「。新成長戦略」となっている。この句点は、「高度成長期に行われていた営みに、いったん終止符を打って、新しいサステナブルな資本主義をつくろう」という経団連の宣言なのだ。

企業の取組み事例

君島:具体的には、どのような取組があるか。

加治:自動車産業は、国際競争力が非常に高く、環境負荷も高かったので、積極的に取り組んでいる。国際的な枠組みの中で、SDGsに対する姿勢を問われることが多いため、国際的に活躍している企業は積極的に取り組んでいる。その次が電機メーカーだ。私も現在、日立製作所で仕事をしており、考え方が浸透していることを感じている。ビジネスも社会イノベーション事業を軸に据えている。社員約30万人の会社で浸透しているというところに、日本企業ならではの「一度決めたら、皆で同じ方向に走る」という特徴を感じる。

君島:小売業界の事例として、調達部門の方針がコスト削減からエシカルな(倫理的な)調達に変わり、「サプライチェーンの中に、SDGsに抵触することがない調達に変えよう」という目標を掲げたら、社員が生き生きと取り組むようになったと聞いたことがある。

山中:ベンチャーまたは新興企業セクターでは、株式会社ユーグレナが注目を集めている。ユーグレナ(微細藻類)から作ったバイオ燃料で飛行機を飛ばし、実用化が始まっている。ユーグレナは光合成により二酸化炭素を吸収しながら増殖するため、燃料として二酸化炭素を排出しても、大気中の二酸化炭素量に影響がない。

加治:スタートアップがSDGsを推進することに大きな意味合いがある。大企業は、既存のサプライチェーンや原料調達などを簡単に転換できない。一方、スタートアップはゼロから設計できるので、Day1からサステナブルな企業が多く出ている。

山中:カーボンニュートラルを促進するようなスタートアップが最近特に増えてきている。電力の小売りや、企業がより再生エネルギーを使うことを支援するベンチャーも増えている。

君島:環境に加えて、SDGsの社会に関する目標についてはどうか。

山中:障がい者のソーシャルインクルージョンや、ジェンダー分野で頑張っているベンチャーが多くある。例えば、ラポールヘア・グループという託児スペース付きの美容室は、出産直後のお母さん美容師でも、高齢の美容師でも、自分のペースで働き続けることができるような美容室をチェーン展開している。

君島:ジェンダー平等や働きがいもSDGsの大事な目標だ。特に日本社会では子育てについて女性が責任を負ってしまい働き続けられなくなるケースがまだ多い。美容師という専門資格がありながらも働き続けられなくなってしまうことを救える、よいビジネスモデルだと思う。

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