interview 挑む 〜チャレンジャーの目線〜 NE6 TOHOKU BUNGU LAB.発起人 岡崎慶太氏
『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト
2022.04.05
目次
interview 挑む 〜チャレンジャーの目線〜
NE6 TOHOKU BUNGU LAB.発起人
岡崎慶太氏
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月)
東北の魅力を文房具で発信 ゆるっと、でも前のめりに文房具業界を盛り上げる
文房具はどこで買う? と聞かれて、「文房具店」と答える人はどのくらいいるだろうか。コンビニ、薬局、スーパー、ネットショップ……今やどこでも買えるようになった文房具。手書きの機会が減ったことも手伝い、「文房具店」は街から姿を消しつつある。そんな中、文房具業界を盛り上げようと東北で奮闘する人がいる。
福島県の文房具店で働く傍ら、NE6 TOHOKU BUNGU LAB.(エヌイーシックス トウホク ブング ラボ)を立ち上げた岡崎氏。NE6はNorth East 6(=東北6県)の略。東北にある文房具店12社が結束し「東北の魅力を文房具を通して発信する」をコンセプトに独自の商品を開発している。
いつだって新商品が遅れてやってくる東北。時々だけど、一歩前に。氏のその想いに迫る。
東北6県の力を結集 ■文房具を通して東北の魅力を発信
─NE6のコンセプトは。
メインのコンセプトは東北6県(North East 6)の力を結集して「東北の魅力を文房具を通して発信する」です。商品開発をする過程で、東北に来るきっかけが文房具でもいいんじゃないかって思って、今は「東北、旅する」をテーマにして活動しています。
東北の魅力ってなんだろうねって文房具店の人ともよく話すんですけど「な〜んもないね」って話になるんです。そう言いつつ、地元について語れない人っていないんですよね。
「東北、旅する祭りインク」という商品(※6色セットの万年筆インク)を作る時、まず、東北6大祭りのテーマでいこうって決めて、色をどうするか各店舗の担当者に聞き取りをしました。その時にも「うちのお祭りは、そんな有名じゃないから〜」って言いつつ、話しだすとちゃんと語れるんですよ。そういうところがなんか奥ゆかしくていいなって思っていて、そういう東北や東北の人の魅力を商品に想いとして込めていきたいなって思ってます。
──具体的な活動内容は。
東北の魅力を発信できるような商品を独自に開発していこうというのが今の流れです。今はmizutamaさん(※山形県米沢市在住のイラストレーター)たちの力を借りて、より多くの人に知ってもらいましょうという活動をやろうと思ってます。今年12月頃から少しずつ商品ラインナップも増やしていこうと思っています。
──結成のきっかけは。
やっぱり安いものを売っているので、文房具店は正直言ってそんなに儲かりません。なおかつ、東北って広くて回るのが大変っていうのもあって、メーカーさんのサポートも他の地域と比べると物足りないなって思う部分もあります。文房具店で働いていて、「このまま東北というエリアで何もしなかったら、文房具店は間違いなく廃れていくだけだ」という危機感がありました。
東北で文房具店として生き残って、よりお客さんに喜んでもらうためには、いろんなところでいろんな人にもっとお店のことを知ってもらうことが必要だと思いました。そのためには、みんなで一丸となって取り組む活動や他の地区にはないような活動をどんどん展開していかないとと思って、東北全部の県を担当していた仲のいい文房具メーカーさんを通して「一回みんなで集まりましょうよ」って文房具店さんに声をかけたのがスタートです。
──声をかけたときの文房具店のみなさんの反応は。
後々きいた話なんですけど、とあるお店からは、「なんか山師みたいな人がいる、怪しい」っていう感じに言われてたみたいです(笑)。
特に何をしようと決めて声をかけたわけじゃなく、「まず何かやんなきゃ」という思いから、「とりあえず、みんなで集まってなんかしましょうよ」「何か商品1つでも作りましょうよ」というざっくりしたところから入ったので、逆によくみんな集まってくれたなというのが正直なところです。ただ、みんなの中で「今何かやらないと、この後どうしようもなくなるぞ」というのが共通の理解としてあって、それで集まっていただいたのかなとは思います。
──発起人としての当時の気持ちは。
正直、本当にできんのかなとは思ってました。だから、始まってみて、「あ、本当にやらきゃいけないんだ」って思って焦りました。
企画の規模感としてはもう少し小さいものを考えていて、「3店舗くらい集まってなんかやらない?」という感覚だったので、10店舗超えるくらい大きな企画になるとは正直思ってなかったです。声をかけたことで、何かやりたいと思っていた担当者が集まってくれたというのが大きかったと思います。
──NE6の活動への反響は。
まずは東北のお客様に、他の地域よりも早く商品を手にできるという優越感を全力で味わってほしいんですよ。だから、NE6の商品はNE6加盟店の実店舗から販売がスタートします。他の地域の人から「いいなぁ」とか「東北だけずるい」っていう声があって、ちょっと他の地域の鼻を明かせた感じがして満足しました。
──NE6の活動をしてよかったことは。
今まで交流がなかった他県の文房具店の人たちと仲良くなったというのが今のところ一番よかったのかなと思ってます。お店のこととか商品のこととか、今までだったらお店の中でしか相談できなかったのが、NE6というものを通して、お店以外のところで相談できるようになったことは、「仲間がいるぞ」という感じでよかったなと思います。
文房具って「普通」。だけど、それがすごい! ■震災を機に地元の文房具店に就職
──東京から地元・福島の文房具店に転職した理由は。
以前は東京で働いてたんですけど、震災のタイミングで、「何ができるかは分からないけど、いずれ何かできればいいなぁ」って思って福島に帰ってきました。震災の時はどうしようもない状況だなって正直思ってたんですけど、まずは福島に住むというのがいいのかなって思ってたところはありますね。しっかり腰を据えて福島で暮らそうということで、仕事を探していた時に、今働いている文化堂という会社が目に入って、就職することにしました。文房具がもともと好きだったっていうのもあるんですけど、文房具に文化的な香りをすごい感じたのと、単純に面白そうだなと思って就職しました。
──文房具店で働いてみて思ったことは。
こんなに種類が分かれてて、安くて、深いものって、文房具しかないなっていうのが正直な感想です。文房具って、日本という国に住んでたら当たり前に買えるけど、普通のシャーペン1本にしても、考えられないくらいすごい技術が入ってるし、どのくらい種類があるかっていうと分からないくらい種類があるんですよね。こんなにどこでも買えてこんなにいいものだったんだなって気付いたのは文房具店に入ってからです。
それぞれその値段でその機能を持たせて、お客さんに喜んでもらえるような物を作っていくというのはすごいことだなというのはメーカーの人に対して思いました。売る側として、メーカーの人の想いをしっかりと汲み取って、お客さんにもよく知って買ってもらえるように心掛けています。そういうことを考えてるうちに、文房具は単純に本当にすごい! 普段使ってる文房具ってこんなにすごかったんだって思うようになりました。
街の文房具店を守りたい! ■これからの文房具店の在り方
──これからの文房具店の在り方は。
文房具店って実際どこまで必要とされてるんだろうなっていうのはあります。文房具って、コンビニでも薬局でもホームセンターでも本屋さんでも買える。そんな中で、文房具店の在り方ってこれからどうなるんだろうなっていう部分はすごく考えます。街の文房具屋さんのような、近所の子たちが普通に来られるとか、街の人とキャッチボールができるとか、そういう文房具店が増えて、結局そういうところが生き残っていくんじゃないのかなっていうのは思っています。
──今後の活動は。
NE6の活動の延長みたいな形にはなるんですけど、文房具メーカーなどを巻き込みつつ、もう少し活動の幅を広げていくっていうのはやってます。
東北に限らず、いろんな地区の文房具店の人とZoom飲みなんかをして情報交換したり、「コロナが明けるまで何ができるんだろうね」っていうのを夜な夜な喋ったりするんですけど、共通してるのは「やっぱり文房具店は街にあった方がいいよね」という話です。なんとなく通いたくなる店って本屋、喫茶店、文房具店で、それがあるような街ってすごい素敵な街だなって思うんです。本屋さんなんかはきちっと街にあったりはします。ただ、文房具店がない街というのは割かし当たり前になってきてるのかなって感じます。気軽に行ける文房具店が車で50キロ走らないとないよとかそういう感じになるのは正直寂しいので、どうにか生き残る術を考えようよっていうのがあっていいのかなとは思ってます。そういう動きをもう少し前に進めるにはどうしたらいいのかなという問題提起は少しずつしていきたいと思ってます。
──具体的な構想は。
オンラインで全国の文房具店や文房具にまつわるお店を紹介して、取組やおすすめ商品をより多くの人に知ってもらう「街の灯文具店」というサイトを試しに立ち上げてみました。
やってみると、意外とみんな協力してくれるんだなと思いました。今は会社員という立場があるので動きにくい部分はあるんですけど、それはもう少し緩和してもらえそうなので、より活動の幅を広げていきたいと思ってます。ゆくゆくはイベントなんかもできたらいいなと思っています。
ゆるっと、でも前のめりに ■「なんとかなる」精神で挑戦
──座右の銘は。
「なんとかなる」です。意外と「なんとかなんないこと」ってないんですよね。時間をかけたり努力したりそういうのでなんとかなることの方が多いんで、それが僕がいちばん大事にしてる部分かもしれないです。
仕事では、誰もやってなさそうなことをとりあえずやってみるということですかね。やってみたら意外となんとかなるということが多いです。時々「あ、やっちゃったな」とか「言わなきゃよかった」という時もあるんですけど、言っとくと僕以外の人が動いてくれたり、僕が知らないところで勝手に動き始めてることもあるので、やっぱりその辺も「なんだできるんじゃないか」ってなることが多いです。
──今後の夢や抱負は。
東北地区に根付いた活動を続けながら、東北ということを誇れるようなお店を増やしていくというのが抱負です。地域に根差した文房具店がもっと増えるように頑張っていきたいと思っています。
今後は、会社員という枠組みにとらわれず、お店作りというところにフォーカスして、どうやったらいいお店になるのか、いい商品を作れるのかを他の人にも伝えていく活動をしていけたらなと思ってます。
福島の震災後の復興というところでは、だいたいのことは元どおりになってるし、前と変わってないことが多いと思います。でも、変わってないことがいいかどうかというのは、ちょっと分からなくて、前向きにもっともっと変わった方がいいんじゃないのかなと僕は思ってます。街の在り方もそうだし、人の在り方もそうだと思うんですけど、せっかくの変われるチャンスなんだから、やっぱりもっと前のめりに変わっていった方がいいんじゃないかなと思ってます。変われるチャンスっていうことで言うとコロナ禍もそうだと思うんですけど、自分たちのできることを決めつけすぎずに「もっとできることあるんじゃないのかな」っていう姿勢を大切にして、これからもチャレンジしていきたいなって思ってます。
(取材/編集部 兼子智帆)
Profile
岡崎慶太 おかざき・けいた
福島県双葉郡出身。1986年生まれ。震災を機に福島県に帰郷後、福島県福島市の文房具店 株式会社文化堂に入社。福島県の自然をモチーフにした、オリジナルインクや万年筆を企画。東北に行くきっかけを文房具でも作りたいと思い東北の文房具店による、NE6 TOHOKU BUNGU LAB.の立ち上げを企画し、東北の文房具業界を盛り上げる活動をしている。