theme1 令和の学びが目指す子供の姿
授業づくりと評価
2023.04.20
theme1 令和の学びが目指す子供の姿
國學院大學教授
田村 学
期待する学びのイメージ
この度の学習指導要領の改訂で大切にしてきた「主体的・対話的で深い学び」に、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」を補完することにより、学びを能動的でアクティブなものにするだけではなく、より一人一人に目を向けたアダプティブなものにすることが期待されるようになった。その際、「個別」という言葉とGIGAスクール構想による一人一台端末の実現によって、子供一人一人が情報端末を抱えて学習活動を展開するイメージが広がっている。そこでは、集団による一斉の学習活動を否定する発言も聞かれる。
「個に応じた指導」を子供の目線で整理した「個別最適な学び」は、一人一台端末の実現によってその可能性を広げた。過去においては、「個に応じた指導」のために莫大な資料や学習プリントを用意し、それを子供が学習進度や学習対象に応じて選択するなどしてきたが、一人一人の子供が端末を持つことで、それぞれの子供に相応しいリソースに、簡便かつ瞬時にアクセスすることが可能になり、個に応じた学びが実現される可能性が高まった。そこには、子供の幅広い選択が生まれ、教師の指示を超えた、自律的な学習の姿が生まれようとしている。
一方で、「個別」に執着するあまり、学習活動がそれぞれであることが優先され、一人一人の子供にとって確かな学びが実現されているかが心配になる実践も見受けられる。「個別最適な学び」において大切なことは、子供にとって「最適」な学びが実現されることであり、その結果、「個別」に行われる学習活動となる可能性が生まれることであろう。
「個別」を優先し、見た目の学習活動を形式化することが目的ではない。一人一人の子供に確かな学びを実現することが大切であり、その結果、「個別」になることもあれば、「集団」になることもあるのではないだろうか。
おそらく、「個別」の学習活動の場面では、それぞれの子供に相応しい自律的な学習活動を、安定的かつ質高く実現することが欠かせない。そのためにも、「個別」の場面(学習過程におけるmiddle)における状況を整えること、「個別」に行われる学習活動の前後の一斉指導の場面(学習過程におけるbeforeとafter)において何に配慮するかを明らかにすることも大切な視点であろう。それらを意識した上で、期待する学びを以下のようにイメージする。
(1)「目的や課題、見通し」で自ら学びに向かうイメージ
資質・能力の育成のためには、思いや願いを実現し、目の前の問題を解決していくプロセスの充実が欠かせない。実際の社会で活用できる資質・能力の育成は、まさにプロセスの中で知識や情報が繰り返し活用・発揮され、どのような場面や状況においても自在に使いこなせる状態になることをイメージするとよい。
そのためにも、一人一人の子供にとって、何を解決するかという目的や課題が重要になる。その上で、見通しをもつことが欠かせない。見通しには到達点の見通しと通過点の見通しがある。この両者が明確になることで、学習する子供は、自らの意志で自律的に学びに向かっていく。
したがって、学習活動の導入場面や「個別」の学習活動に入る前(before)には、目的や課題を明確にすること、到達点と通過点からなる見通しをはっきりさせることが欠かせない。そのことによって、何を学習するのか、どのように学習するのか、どこに向かって学習するのかが明らかになり、一人一人の学習活動は、他者に依存したものではない自律的な学習となる。
(2)「内化と外化」で知識を相互作用するイメージ
期待する方向に向かい始めた学びを一層充実したものにするためには、プロセスにインタラクション(相互作用)を位置付けることが考えられる。学びのプロセスにおいて、より多くの知識や情報、より異なる知識や情報が加わり、プロセスは質の高いものとなっていく。たくさんの事実に関する知識は構造化され概念となって形成されていく。手続きに関する知識は様々な場面や状況と結び付いて自在に使える能力となっていく。
こうしたつながりは活用と発揮によってもたらされる。プロセスの充実とそこでのインタラクションは、知識の活用と発揮を生み出し、結果としてつながり構造化された知識を生成することとなる。ここで考えるインタラクションには、他者との対話だけではなく、自己内対話も含まれる。内なる自分と向かい合い、内言によってじっくりと語り合う熟考の姿は極めて大切である。さらには、教材との対話も視野に入れたい。それぞれの子供に相応しい教材、適切に資質・能力が育成される教材と出会い、そこでどのような学びが展開されるかをイメージすることは極めて重要である。
したがって、充実した豊かなインタラクションを実現するためには、必要かつ適正な知識や情報が一人一人に応じて獲得できるようにするとともに、その知識や情報の活用機会が増えることが大切である。そのためにも、いかに学びの状況を整えるかに配慮したい。思考ツールなどによって異なる多様な他者との対話が生まれやすい状況を整えること、一人一人の子供の習熟度、興味・関心、認知特性、学習方略などの実態に応じて、適切な情報にスムーズにアクセスできるようにすることなどが欠かせない。学習活動の展開場面における話合いや「個別」の学習活動(middle)においては、多様な他者や適切なリソースとの相互作用が生まれる状況を設定したい。
(3)「文字言語による振り返り」で知識を精緻化するイメージ
プロセスとインタラクションに加えて、もう一つ重要な要素がリフレクション(省察)になろう。自らの学びを振り返り、意味付け、価値付ける。そのことが、知識の構造化を確実にする。構造化された知識は、活用だけではなく定着にも向かう。単元や授業の終末に振り返りをしっかり行うことには大きな価値がある。
ここでは文字言語を使うことが多くなろう。音声言語は緩やかに広がるという特性があり、異なる多様な情報を瞬時に交流したい場面では最適である。一方、文字言語は明示され自覚しやすい。加えて、記録として残すこともできることから共有することにも向いている。この音声言語と文字言語を巧みに使い分けることが学び全体の質を高めていく。
単元や授業では、多くの知識や情報を獲得する。そうした知識や情報は単体のままでは機能しにくい。つながり、構造化して、精緻化していくことによって、異なる様々な場面で使いこなせるものとなり、駆動する状態に向かう。そのためにも、学習活動で心がけることは一つ一つの知識の粒を、どのように組み立て、どのような塊を創るかを考えることである。一人一人の中で、組み立てる局面が展開であり、学びの成果物としての塊を創り、手応えを付与する局面が終末と考えることもできる。そうした学びのプロセスを推進していく源泉となるのが導入における目的や課題、見通しということになろう。
したがって、学習活動の終末場面や「個別」の学習活動の後(after)においては、学習集団全体での交流や書くことによる学びの見つめ直しを心がけたい。そのことが知識や情報を精緻化していくからである。
「主体的・対話的で深い学び」においても、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」においても、先に示した(1)〜(3)のイメージを実現することが大切になる。
評価規準の設定と学習指導の創造
先に示した学びのイメージを確かに実現するには、学習指導と学習評価がポイントとなる。ここでは、学習評価、とりわけ評価規準の設定が重要な役割を担っていることについて考えていく。妥当性と信頼性のある学習評価を実現していくポイントは、確かな評価規準の設定にある。一方、設定された評価規準は授業におけるゴールイメージと重なることが多く、評価規準を具体的でシャープに言語化することは、子供の姿を確かに評価するだけでなく、ゴールイメージを起点とした学習指導の精度を上げていくことにもなる。
では、学びのイメージを鮮明にする評価規準を設定するには、どのようにすべきか。例えば、単元導入での「思考・判断・表現」、単元終末での「主体的に学習に取り組む態度」について、総合的な学習の時間を参考にして考えていく。
(1)単元導入での「思考・判断・表現」
評価規準については、「○○について(おいて)、△△しながら(して)、□□している」を表現様式のモデルと考える。例えば、総合的な学習の時間における環境問題を探究する学習活動において、次のような評価規準を設定することが考えられる。
「○○川の環境の変化について、水質調査の結果と踏査活動の結果を関連付けながら、水の汚れの問題を見つけ出している。」
評価規準における資質・能力の表記部分には、期待する子供の姿を示すことが必要になる。私たちは、目の前の子供の姿、子供の行為を目にし、その事実から判断していくからである。
重要なのは、その姿は、どのように知識が活用されたり、発揮されたりして思考、判断、表現しているかにある。それを明らかにし、その姿を言語化して示すことにより、確実に見取り評価することが可能になる。そこで、「○○○しながら」「○○して」などの言葉を記すことが極めて大切になる。「思考・判断・表現」においては、ここに思考スキルなどの認識する際の方法としての手続き的知識などを位置付けることが考えられる。
先に記した評価規準の例文においては、水の汚れの問題を見つけ出している子供の姿が現れることを期待している。その行為は、水質調査や踏査活動に基づくデータを関連付けたり結び付けたりする資質・能力の発揮を願っている。複数のデータを関連付けて考えること、そうした思考力の確かな育成を目指している。自ら考え問題状況を把握することが、更なる追究を自律的なものとしていく。
この評価規準は、学習指導の改善につながっている。授業においては数値化された量的なデータと踏査を通した質的なデータが潤沢に用意され、それらが関連的に扱われることとなろう。ゴールイメージの精度を上げることが授業の質を高めていく。
(2)単元終末での「主体的に学習に取り組む態度」
主体的に学習に取り組む態度についても、評価規準の表現様式は同様に考える。重要なポイントは、どのように知識が活用されたり、発揮されたりして期待する主体的に学習に取り組む態度として行為されるかにある。それを明らかにし、その姿を言語化して示すことにより、確実に見取り評価することが可能になる。したがって、「○○○しながら」「○○して」などの言葉を明確にすることが大切になり、ここに非認知系の社会情動的スキルを位置付けることが考えられる。社会情動的スキルは、私たちが実際に行動する際の行為を決定付ける価値を言語化したもの、自らの行為に関わる非認知系の知識である。具体的には、「力を合わせ協力しようとすること」「異なる意見を参考にし、生かそうとすること」「諦めずに繰り返し取り組もうとすること」「目標に向けて何度も挑戦しようとすること」「いつでも誰に対しても同じように対応しようとすること」などが考えられる。
環境問題について探究的に学ぶ総合的な学習の時間において、単元終末の学習場面では、次のような評価規準を設定することが考えられる。
「調査結果を発表する場面において、グループのメンバーの意見を受け入れ参考にしながら、プレゼンテーションを作成している。」
ここでは、調査グループ内のメンバーの様々な意見を肯定的に受け入れ、それぞれのよさを生かし参考にしようとする態度の育成を期待し、評価規準を具体的に設定している。学習活動としては、異なる多様な意見が際立つ授業になるとともに、それぞれのよさが明らかになるような授業を行うことになろう。また、違いを認め受け入れることのよさを実感する振り返りの場面が用意されることも考えられる。先に示した非認知系の知識を参考にした評価規準が、学習指導を確かにしていく。
具体的な学習活動に即した評価規準は、すなわち授業で目指す子供の姿である。どのような子供の姿を目指しているのか。どのような子供の姿が現れることを期待しているのか。この姿を明らかにできずして授業を設計することは難しい。期待する学びのイメージを鮮明にすること、評価規準から学習指導を創造することが求められている。
[参考文献]
・拙著『深い学び』東洋館出版社、2018年
・拙著『学習評価』東洋館出版社、2021年
・拙著『「ゴール→導入→展開」で考える「単元づくり・授業づくり」』小学館、2022年
Profile
田村 学 たむら・まなぶ
1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より國學院大學人間開発学部初等教育学科教授。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『深い学び』(東洋館出版社)、『平成29年改訂 小学校教育課程実践講座 総合的な学習の時間』(ぎょうせい)、『「深い学び」を実現するカリキュラム・マネジメント』(文溪堂)など。