theme 2 GIGAスクール構想1年でわかってきた教師が取り組みやすいICT環境

授業づくりと評価

2022.11.22

theme 2 GIGAスクール構想1年でわかってきた教師が取り組みやすいICT環境

信州大学准教授
佐藤和紀

『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

二極化する学校

 2021年の4月から始まったGIGAスクール構想は1年が過ぎた。この間、数多くの自治体、学校では研修が盛んに行われてきた。しかし、この1年間で児童生徒の情報端末の活用が進んだ学校と、GIGAスクール構想前とほとんど変わらなかった学校の二極化が進んでいる。もちろん、これまでコンピュータ室にしかなかった情報端末が全ての教室にあって、全ての児童生徒が使えるわけだから、軽重あるが以前よりもはるかに活用が進んでいることは間違いではない。ここでいう二極化とは、ほぼ毎時間活用されている学校と、週に数回しか活用されていない学校のことをいう。当然、毎日、児童生徒が活用した方が、情報活用能力の基礎としてのICTスキルは高まり、そして毎日活用していれば、必ずと言ってよいほど失敗をする。失敗をすることで、情報モラルに関する知識の習得や姿勢・態度の涵養につながるだろう。そして、やがて、子どもたちは、状況に応じて、先生の指示ではなく、自分の判断でアプリケーションを選択できるようになっていく。

 では、毎日のように児童生徒が情報端末を活用する学校では、どのような状況になっているのだろうか。

進む学校

 写真1は、今年2022年6月に撮影されたものである(長野県坂城町立坂城小学校)。2年生がGoogleクラスルームを慣れた手つきで操作し、授業の学習目標や学習過程、共有されたクラウド上のファイルを確認している。この後、子どもたちはGoogleクラスルームに書かれた学習過程に従って学習に取り組んだ。このクラスを担任するベテランの女性は、昨年度は1年生の担任として、やはり、同時期にはすでに子どもたちに活用させていた。入学して2か月の子どもたちだが、先生の話をきちんと聞く姿勢となり、先生の指示や説明に従って、算数の復習を一人で取り組み、その後ペアになって確認していた。このようにして1年間、継続して活用してきた結果、子どもたちは先生の指示がなくても取り組めるようになっていった。「低学年ではできない」と言う教師はたまにいるが、それはICTが難しいのではなく、そのベースとなる学級経営や教師の働き方に課題があるように思う。


写真1 先生の指示がなくても情報端末を活用する2年生

 

 写真2は、今年2022年2月に担任の先生がオンライン上でスクリーンショットしたものである(栃木県壬生町立睦小学校)。担任の先生が新型コロナウイルスに感染し、学級閉鎖となり、児童も家庭で学習に取り組むことになっていた。この期間、担任の先生は、GoogleクラスルームやGoogleチャットを通して、子どもたちへ、家庭学習の時間割を示した。子どもたちはクラウド上で情報を確認し、適宜、学習に取り組んでいることを報告し、担任の先生がクラウド上でチェックや指導やアドバイスをしながら取り組んだ。


写真2 児童自らがオンラインで議論する

 写真は4年生の総合的な学習の時間において、児童自らがめあてを設定し、学習過程や学び方を判断して活動に取り組む中で、2名の児童はチャットでやりとりをしながら「この時間は二人で課題を進めていく」ことを決め、子どもだけでGoogle Meetを立ち上げ、Googleドキュメントを画面共有して相談し合っている様子である。このことはもちろん担任はチャットを通して2名から連絡が入っており、担任が時々Meetに入って指導していた。まさに主体的・対話的な学習活動である。子どもたちがここまで自在にICTを活用できるようになったのは、言うまでもなく、日々の取組の成果であるが、さらに子どもがその日の学習の仕方を自己決定している「学習の個性化」まで取り組まれていることのほうが着目すべきである。

 これまでも、子どもが自ら課題を設定し、学習を進めていくような学習は、一部の地域や学校でも取り組まれてきた。しかし、1人1台の情報端末でクラウドを活用することによって、教師は子どもたち のことをモニタリングしやすくなり、一人一人の状況を判断して指導できたり、子どもたち同士で協力したりしやすくなった。これまでの学習環境では、子ども一人一人にとって最適な学習の機会を設定しにくく我慢してきた教師たちが、1人1台の情報端末が整備されたことをきっかけに、子ども一人一人を大事にできる実践を一気に加速させているようにも見える。

 このように情報端末の活用が進んでいる学校は、学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」の実現のためのインフラとしてのGIGAスクール構想を十分に理解し、単なるICT活用に止まらず、より子どもの主体性を目指した取組を展開している。

進まない学校

 一方、情報端末の活用があまり進んでいない自治体や学校もある。また、担任が替わると急にICTが活用され始めたり、逆に全く活用されなくなったりすることがある。GIGAスクール構想で整備された情報端末は、主体的・対話的で深い学びの実現のためのインフラとして、あるいは学習の基盤となる資質・能力となる情報活用能力を育成するために活用される。特に後者は、学習指導要領にも明記されて おり、全ての教師が実施しなければならないはずである。情報端末の活用があまり進んでいない学校で は、例えば、写真3のような配付物が未だにクラウドで調査されていない。情報端末の活用が進んでいる学校では、保護者への配付物や調査などは、クラウドに置き換わっている。日常で教師が校務・業務でクラウドを活用することを通して、教師たちはクラウドの感覚を掴み、授業を着想できるようになるためだ。


写真3 紙で配付される保護者への調査用紙

 このような二極化は、2020年3月3日に文部科学省から公開されている「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」に基づいてICT環境が整備されているかどうかも影響している。児童生徒1人1台の情報端末が2021年4月までに整備されるように計画的に取り組まれ、かつ学校中の教師や児童生徒の全員が一斉にインターネットを活用したとしても回線速度が遅くならないための速度かどうかも重要なポイントとなる。

校務・業務から教師が慣れ、許容する環境を

 児童生徒が1人1台の情報端末を活用した実践をするためには、教師が、児童生徒1人1台の情報端末を活用しながらクラウドにデータを保存したり、複数人で同じファイルにアクセスしてリアルタイムで共同編集に使ったりすることに慣れる必要がある。例えば、教員研修で、授業実践ではどのように1人1台の情報端末を活用すればいいのかを学んでも、すぐに授業実践には結びつかない。研修でねらったように先生が活用できるためには、校務・業務で活用している必要があるだろう。

 図1に校務・業務でのクラウドの活用を示した。重要なことは、最終的に子どもと教師が使うアプリケーションが同じになっていくことである。校務支援システムでしかできないことは、これまでと同様に校務支援システムを活用し、校務支援システムではなくとも可能な業務は、子どもたちにも提供されているGoogleやMicrosoftなどの汎用アプリケーションで取り組む。例えば、ICTを苦手と思う先生が、いろいろなアプリケーションを活用しないといけないとしたらどうだろうか。校務と授業でアプリケーションが違えば大変な思いをするだろう。だからこそ、校務・業務でも授業でも可能な限り同じアプリケーションを活用していくことが必要となるだろう。重要なことは、教師が慣れること、教師に負荷をかけないよう、活用するアプリケーションを可能な限り絞っていくことであって、多くを提供しないことである。


図1 校務・業務でのクラウド活用のポイント

 写真4は、体育の器械運動で三点倒立に取り組む児童が情報端末を活用する様子である(愛知県春日井市立松原小学校)。この先生は、Googleスプレッドシートを児童の端末に共有して、児童は三点倒立ができるようになるためのステップ1からステップ7のプロセスにおいて、自分のレベルに応じた動画を視聴し練習していた。個別最適な学びのうちの「指導の個別化」の優れた取組であると言える。動画をGoogleクラスルームに共有することが多いが、この先生はGoogleスプレッドシートに慣れていて、やりやすいと感じているのである。先生なりの慣れ方で、先生なりの取り組みやすさを優先して、実践していることに価値がある。


写真4 教師が慣れたアプリケーションを活用する児童

 「こういう実践はこのアプリケーションでやらなければならない」としたところで、取組まで繋がらなければ価値のある情報とは言いがたい。先生が校務や業務で慣れ、授業実践ができるのであれば、これが正解なのであろう。そして取組を繰り返すことで、先生にも子どもにも工夫が生まれ、精緻化されていくのであろう。

 このような学校では、体調が優れず欠席した児童もクラウドから学習に参加する姿も見られる。つまり、多様性を尊重し、いつでもどこからでも学習に参加することを許容しているのであろう。多くの自治体では、できることを制限していることが文部科学省の調査でも分かっている。しかし、それでは子ど もはいつになっても情報活用能力は身に付きにくいし、失敗をさせなければ情報モラルに関する知識も態度も形成されにくいし、何よりも多様な子どもたちへの学びの保証は難しい。実現したい実践ができないと嘆く教師もいる。もちろん必要なものは準備するとして、その上で、教師が慣れ、取り組みやすさを感じる環境こそが、最良なICT環境と言えるだろう。


写真5 欠席児童もクラウドを経由して学習に参加する

 

 

Profile
佐藤和紀 さとう・かずのり
 1980年長野県出身。2006年より東京都公立小学校・主任教諭、2017年より常葉大学教育学部・専任講師等を経て、20年より信州大学教育学部。18年東北大学大学院情報科学研究科・修了、博士(情報科学)。文部科学省「教育の情報化に関する手引」執筆協力者、同「GIGAスクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議」委員等。

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