「学校での携帯電話」にみる 生徒指導観の歴史的転換

トピック教育課題

2021.02.25

「学校での携帯電話」にみる 生徒指導観の歴史的転換

兵庫県立大学准教授
竹内 和雄

『新教育ライブラリ Premier』Vol.3 2020年10月

 2020年7月31日、文部科学省が「学校における携帯電話の取扱い等について(通知)」を発出した。ご存じのとおり「通知」には法的拘束力等はないが、他に携帯電話についての規則や法律がないため、前回の通知「学校での携帯電話の取扱い」は金科玉条のようになっており、今回の通知は大きな話題になった。本稿では、2つの通知が発出された経緯と、2つの通知の違いを整理する。

前回(2009年)の通知に至る経緯

 文部科学省の調査(2009)によると、当時の中2は約54%が携帯電話を所持し、約13%が一日100件以上メールの送受信をしている。またホムペ(ホームページ)、プロフ(プロフィールサイト)等が流行し、2008年、文部科学省が「学校裏サイトが約38,260サイト」との調査結果を発表するなど、社会問題となっていた。そうした状況の中、全国に先駆ける形で、2008年12月、大阪府知事が「公立小中学校への携帯電話持ち込み禁止」「府立高校では使用は禁止」という方針を示し、その直後、2009年1月、前回の文部科学省通知が出された。

前回(2009年)の通知のポイント
1)小中学校 携帯電話は原則持込み禁止
2)高等学校 携帯電話は原則校内使用制限(授業中禁止、校内使用禁止)

 小中学校は「緊急の連絡手段等、やむを得ない場合は、保護者から学校長に対し許可申請。校内使用禁止、学校で一時的に預かる等、教育活動に支障がないよう配慮すること」とし、高等学校は「学校や地域の状況を踏まえて持込み禁止とすることも考えられる」としている。この通知のポイントは「原則」である。「原則」だから、「例外」も認めている。

 全国各地には多くの例外が存在しており、例えば広島県立高校は昨年の2月まで、東京都立高校は昨年6月までは(実態はどうあれ)校内持ち込み禁止だった。また、小中学生が校長先生に申請して、例外的に持ち込みを認めてもらうケースも多くあった。

 前回の通知から時間が流れ、子供たちの携帯電話所持率も高まり、スマートフォンが普及した。持ち込み申請が増えた地域もあり、実際に30人以上の子供が申請し、生徒のスマートフォン30台を自分の机で管理する先生もいる。1台10万円として300万円の保管に、悲鳴をあげておられる。

今回の通知に至る経緯と前回との違い

 こうした状況で、一昨年(2018年)6月18日7時58分、大阪府北部地震が発生した。登校中の子供と連絡がとれず、心配だった保護者等から「緊急時のための携帯電話所持」を要望する声が高まり、大阪府教育庁は、昨年(2019年)3月、「小中学校携帯電話持ち込みのガイドライン」を発表した。府として登校中の携帯電話所持を認め、運用ガイドラインを示したうえで、実際の運用は各自治体、学校の判断にゆだねた。このような動きも契機となり、文部科学省は有識者会議を開いたうえで、通知の見直し作業に入り、2020年7月、新しい通知の発出がなされた。

今回(2020年)の通知のポイント
1)小中学校 携帯電話は原則持込み禁止
2)高等学校 携帯電話は原則校内使用制限(授業中禁止、校内使用禁止)
3)中学校は一定の条件のもと持込みを認めるべき
 ①自律的なルールを生徒や保護者が主体的に考え、協力して作る機会を設けること
 ②学校での管理や紛失等のトラブルの責任の所在が明確にされていること
 ③フィルタリングが保護者の責任のもとで適切に設定されていること
 ④携帯電話の危険や使い方の指導が学校や家庭で適切に行われていること

 字数の都合で誤解を恐れずに簡潔な表現にする(詳細は実際の通知を参照)が、今回(2020年)の通知は、前回(2009年)の通知から原則部分(小中学校原則持込禁止、高等学校原則校内使用制限)は変更されていない。「中学校容認」等、大々的に報じられたが、原則禁止は変わっておらず、大きな変更部分は上記の「3)中学校は一定の条件のもと持込みを認めるべき」の部分である。①~④の4条件について、学校と生徒・保護者の合意、必要な環境整備や措置、さらに、登下校時の家庭や地域との連携についても求めている。かなり高いハードルだ。

 ②管理方法、③フィルタリング設定、④使い方指導等ももちろん重要だが、特に①「自律的なルール」が大きなポイントだろう。この問題の主役は学校や自治体ではなく、使用する生徒、買い与える保護者、さらに彼らを守り育てる地域社会である。先行して実施している自治体は、文部科学省の有識者会議でのヒアリングで「携帯電話のルールは、携帯電話やネットとの向き合い方・活用方法について、保護者や児童生徒が主体的に考え、議論することを促すことが重要」という趣旨の発言をし、実際しっかり話し合った子供たちはルールを守っているという。これから高度情報化社会、超スマート社会を迎える。子供たちにとって携帯電話を含めたインターネットとの関わりは避けて通れない。しかし、実際には、出会いの危険、長時間利用、インターネット上の危険な出会い、ネットいじめ等、看過できない問題も多く発生している。学校に持ち込むと、盗難や紛失、不適切な使用等の課題も指摘されている。そうした問題を含めて、子供たちと大人が一緒にこの問題を考えることが求められている。

生徒指導観の歴史的転換

 これまで私たちの社会は、ともすれば大人が作ったルールに子供が黙々と従うことを求めてきた。工業社会で求められた人材像かもしれない。これからの高度情報化社会、超スマート社会(Society5.0)を生きていくためには、より自律した人材が求められる。自分でルールを作り、自律して生きる。文部科学省がこれまでも生徒指導提要等で示してきた「自己指導能力」と合致し、「主体的・対話的で深い学び」とも整合性が極めて高い。新しい時代への新しい方向性である。求める子供像の歴史的な転換期に今、私たちの国はいることを、今回の通知は示して
いると読み取る必要があると思っている。

※学校における携帯電話の取扱い等について(通知)
https://www.mext.go.jp/content/20200803-mxt_jidou02-000007376_2.pdf(文部科学省、2020年)

 

Profile
竹内 和雄(たけうち・かずお)
中学校教諭、市教委指導主事を経て2012年から現職。生徒指導が専門で、「困っている子供への対応」が関心領域。最近は、文部科学省、内閣府等で、子供と携帯電話についての委員等を歴任。2013年ウィーン大学客員研究員、2019年ユニセフスマホサミット運営。

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