講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II [第5回] 形成的評価──メタ認知能力の育成

授業づくりと評価

2022.03.29

講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II
[第5回] 形成的評価──メタ認知能力の育成

一般社団法人教育評価総合研究所 
代表理事 鈴木秀幸

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.5 2022年1月

メタ認知の視点から

 新学習指導要領に対応した学習評価での新しい観点「主体的に学習に取り組む態度」には、「(学習に対する)粘り強い取組」と「自らの学習を調整しようとする側面」が含まれる。特に後者は、「メタ認知」と言われるものである。

 このメタ認知と形成的評価の関係について、これまでも部分的に言及してきたが、重要な点なので、ここでまとめて考えておきたい。

 形成的評価(formative assessment)の意味はこれまでも述べて来たとおり、評価の結果を用いて学習を向上させることにある。この点をはっきりさせるために、最近では形成的評価と言う代わりに「学習のための評価(assessment for learning)」とも言われるようになった。注意しなければならないのは、形成的評価として工夫しなければならないのは、学習の中でも「思考・判断・表現」などの能力や、特定の概念等について理解を深める必要のある場合である。単純に記憶すればよいような学習、漢字や地名の記憶、原子の記号などの学習ではない。

 メタ認知能力とは、自分の学習について自分でモニターして、必要な場合には学習の修正を行っていく能力のことである。このメタ認知能力の高い生徒は、学習の達成度も高いことが知られている。

 そのため「主体的に学習に取り組む態度」の観点の評価は、他の2つの観点「知識・技能」「思考・判断・表現」の観点の評価と基本的に大きく違うことはないとされている(平成31年1月21日、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会報告)。具体的に言えば、他の2観点の評価がAAならばこの観点だけCとなることや、他の2観点がCCならば、この観点だけAとなることは問題があると報告では述べている。

 これは1つの例であり、この観点と他の2つの観点は、基本的に連動するものであり、連動させない「明白な根拠」のある場合は、連動させないこともあると解釈すべきである。「明白な根拠」とは、例えば1段下げる場合として、授業中ほとんど寝ている場合や、1段上げる場合として、自分の学習の問題点や改善すべき点について明確に知っているなどが考えられるであろう。

 メタ認知能力の重要性は、連動性だけにあるのではない。もう1つの重要な面として、メタ認知能力の育成は、学習を生徒自身がコントロールする能力の育成につながることである。学習を生徒自身が自分でコントロールできれば、これは生徒が独立した学習者になることにつながるのであり、これが学校教育の最終的な目標と言えるであろう。

 以上のような連動性やメタ認知能力の育成の意義を踏まえて、形成的評価がメタ認知能力の育成につながるプロセスと、必要な手立てについて考えてみたい。形成的評価によりメタ認知能力が育成できれば、特定の教科や科目の学習の向上を目指す形成的評価以上に、生徒の人生にとって必要な能力の獲得になると言える。

形成的評価からメタ認知の育成過程

(1)生徒が考えていることを話す機会を設定する──対話が必要
 教師の質問の問題点については、この連載ですでに述べたことであるが、教師の質問は生徒が自分の考えていることを話す機会となる。このように自分の考えていることを話すことにより、生徒自身もそれまではっきりしていなかった自分の考えをまとめたり、明確なものとしたりすることができるのである。最近では学校でのICTの導入により、コンピュータ画面上で、クラス全体の生徒が自分の意見や考えを表明する機会が設けられるようになったことは、この点で大きな進歩である。ただし、望ましいのは、他者から質問や意見を受けて、分かりにくい点をさらに明確化したり、修正したりすることである。逆に自分以外の意見や考えを聞いて、質問することも必要である。コンピュータ画面上では意見等の表明となってしまうので、生徒同士の対話の機会を設定することが望ましい。そのような対話を教師がすべての生徒と行うのは難しいため、代わりに生徒のグループ(2〜4人程度)をつくって行うことを考えるべきである。グループで意見等を述べあうことで考え方を修正したりすることも、一種の形成的評価である。

(2)グループでの評価
 グループでの活動の次の段階は、評価基準の適用方法の指導である。そのためには教師が評価基準を提供して、グループ内で解答例や作品例の評価をすることである。もちろん、そのために用いる解答例や作品例を教師が用意することを必要とする。過去の生徒の作品例などを用いることや、(1)での教師の質問に対して生徒が自分の考えを述べた解答例などを用いてもよい。グループ内での議論が一通り終わったところで、解答についての評価基準の適用方法を教師が説明するのである。このプロセスを通じて、生徒は評価基準の解釈や適用方法の練習をする。また、評価基準に用いる用語の意味も理解することとなる。

 解答や作品等の評価が終わったところで、さらに解答や作品の改善をするにはどこを修正すればよいか、グループで話し合わせる。この場合、自分たちが判断したレベルよりも1つ上の評価基準にまで引き上げるにはどこを変えたらよいか話し合わせる。グループでの話し合いが終わったところで、教師が提供した解答例などについては、改善例を示し、グループでの話し合いの内容と比較させることである。

 このような指導を繰り返し行っていくと、評価基準の用い方を学習することとなり、自分自身の作品も自己評価できるようになってくる。かつ改善すべき点についても自分で考えられるようになる。このような過程を通じて、メタ認知能力の育成となるのである。

 

 

Profile
鈴木 秀幸 すずき・ひでゆき
 一般社団法人教育評価総合研究所代表理事。2000年教育課程審議会「指導要録検討のためのワーキンググループ」専門調査員、2009年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員、2018年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員等を歴任。主な著作に『スタンダード準拠評価』(図書文化社)、『新指導要録と「資質・能力」を育む評価』(共著、ぎょうせい)『新しい評価を求めて』(翻訳、論創社)など。

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