わたしの学校経営手帳 女性管理職の視点から[第5回] 「ひと・もの・こと」をつなぐ学校づくり

学校マネジメント

2022.04.04

わたしの学校経営手帳
女性管理職の視点から[第5回]

theme:地域と共にある学校づくりと管理職の役割
opinion1:北海道寿都町立寿都小学校長 前田敦子

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.5 2022年1月

「ひと・もの・こと」をつなぐ学校づくり

 令和2年度。コロナ禍によって、制限せざるを得なかった教育活動。動きのない教科学習は、子どもたちの笑顔をマスクの下に隠してしまいました。

 緊急事態宣言が解除された頃から、「校長先生。今までのように『ふうタイム(総合的な学習)』をボランティアさんに協力していただくのは、難しいですか?」と教職員から声が上がり、CSコーディネーターを通じて、学校サポーターや地域の方々にお願いしてみることにしました。

 「学校も大変だね。子どもたちもかわいそうに」と、サポーターの皆さんは、学校の意を汲んでくれました。そのお陰で、3密回避をしながら徐々に活動を再開することができました。これも、学校と地域が今まで培ってきた関わりの中で実現できたものだと思います。

人をつなぐ笑顔の輪を目指して

 寿都町は日本海に面した寿都湾を囲む自然豊かな町で、新鮮な魚介類を求めて町外から多くの人が訪れます。

 本校は、平成26年度から、文部科学省の「コミュニティ・スクールのマネジメント力の強化に関する実践研究校」を受けて、本格的にコミュニティ・スクールがスタートし、今年度で8年目を迎えています。

 令和3年度の学校経営のテーマは、「Smile〜笑顔の輪〜」。重点目標を「思いを受け止める心・思いを伝える力でつながる寿小っ子」と設定しました。

 子どもたちに他者意識・他者理解を育んでいくことを重点とし、「ひと・もの・こと」とつながりを深めていくことを目標にしています。

 子どもたちが、一人一人のペースを互いに尊重しながらゴールを目指し、達成感や成就感を味わうことで、人との関わり方や、努力する意味を理解し、未来へ歩んでいく力を育んでいきたいと考えました。

コミュニティ・スクール(CS)の組織・取組

(1)学校運営協議会(CS)の取組
 学校運営協議会は、①地域住民の学校運営参画②地域力を生かした学校支援③学校力を生かした地域づくりを柱として、年間4回の定例会議や、独自の研修会を開催し、意見交換・熟議を行っています。校長の学校経営方針を理解していただきながら、それぞれの立場で主体的に地域の子どもたちの成長を支えていく学校づくり、地域コミュニティづくりを目指しています。

(2)学校支援地域本部(学校サポーター)の取組

 子どもたちが、寿都の歴史や文化、産業など、生きた学びを体験するために、地域の方々が、個々の職業や特技を生かし学習サポートを行っています。教育活動を支えていただくサポーターは、年間のべ100人近くになることもあります。

 高学年では、さけの人工授精体験や学校に設置している大型水槽で稚魚をふ化させ放流を行ったり、漁船に乗船したサケ漁体験を行ったり、2年間を通して、資源保護をしながら活性化させていく漁業について学んでいます。

 寿都町は、歴史的建造物や、伝統文化を伝える「ひと・もの・こと」などの多くの地域資源があり、多くの体験活動が、故郷の良さを再発見する学びとなっています。

(3)キャリア教育の取組
 今年度は、キャリア教育にも力を入れています。

 当たり前のことを当たり前にする大切さや、常に相手の立場に立って考え、誠実に対応すること。就職がゴールではなく、そこから向上心を持って努力することが仕事のやりがいにつながっていることなど、生の声は子どもの心に響きます。

 教育活動を通して、たくさんの人と子どもたちをつないでいくことも、学校の役目であることを実感しています。

(4)CSコーディネーター
 本町のCSコーディネーターは、町の正職員として教育委員会に配置され、学校地域支援本部のコーディネーターも兼務しています。学校運営協議会の日程調整や案内文書の配布を行ったり、学校支援では、担任からの学習のねらいや要望をサポーターに伝え、授業準備のサポートを行ったりしています。

地域と学校をつなぐ校長の役割

 「地域と共にある学校づくり」を確立するためには、校長の役割はとても大きいと感じています。本町のように、コミュニティ・スクールの体制はできていても、学校をサポートしてもらうためには「信頼される学校づくり」が基本であると思います。

①学校・地域のパイプ役となる
 学校の教育活動や子どもたちの様子、時には、教職員の人となりや苦労などを、あらゆる場面で伝えていくことが、地域と学校の距離感を縮めることにつながっています。インフォーマルな場面でも、気軽に声を掛けていただくことがあるのは、女性管理職の特権だと思います。町で出会ったときの立ち話も貴重な情報として、活用させていただくこともあります。

②学校をオープンにする
 CSを信頼し、できるだけオープンに情報提供をするよう心がけています。学校評価の改善策も、決定事項ではなく、学校としての困り感を伝えることで、別の視点で改善の糸口を提案いただくことがあります。「地域に甘えるときには甘える。」そんなスタンスも時には必要と思っています。

③地域を楽しむ。一人の人として関わる
 学校の異動は、時には引っ越しを伴うこともあります。それを、どう捉えるかはそれぞれですが、一人の人として、新たな出会いや地域を楽しむゆとりを持つように心がけているところです。

 

 緊急事態宣言により、運動会を7月に延期しました。北海道でも連日猛暑が続き、熱中症が心配されましたが、早朝より消防車がグラウンドに散水してくれたり、漁業協同組合が大量の氷を提供してくれたりする光景を見て、「学校だけで頑張らなくていいんですね」と、若い教職員がつぶやいたのが印象的でした。

 学校経営は、校長一人ではできません。教職員との協働、地域・保護者の支えがあってこその学校経営です。

 コロナ禍によって、今までやって当たり前、できて当たり前の取組も、できない苦しさを味わいながら、子どもたちのために何をすべきかを取捨選択していく過程は、学校の力量を試されると同時に、学校の役割を改めて考えさせられることになりました。しかし、どんな時代でも人として大切にしなければならない相手を思いやる心、自分を大切にする心、家族・ふるさとを愛する心は、学校・家庭・地域が一枚岩となってこそ、子どもたちに育んでいけるものだと思っています。

 

 

Profile
前田敦子 まえだ・あつこ
 昭和38年生まれ。平成2年4月蘭越町立蘭越小学校から教職員生活をスタート。平成20年から教頭として3校の町村立小学校に勤務。平成27年4月から、京極町立南京極小学校で校長採用となり、寿都町立潮路小学校を経て、令和2年4月より現職。二人娘の母。孫一人。
●大切にしていることば
 感謝 和を第一とする

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