講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II [第3回]形成的評価 ──自己評価から学習の自己コントロールへ

授業づくりと評価

2021.12.17

講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II
[第3回]形成的評価 ──自己評価から学習の自己コントロールへ

一般社団法人教育評価総合研究所 
代表理事 鈴木秀幸

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.3 2021年8月

フィードバックから自己評価へ

 ここまで2回にわたって形成的評価について、主として教師の視点から効果的な実施方法を述べてきた。教師の役割が重要であることは当然であるが、形成的評価においては生徒の役割も重要であり、生徒の役割の重視により、形成的評価は学習の向上を目的とすることだけでなく、別の意義を持つこととなる。それは、教師から生徒に重点を移すことは、形成的評価を教師が改善の助言をするフィードバック重視から、生徒自身が自分の学習を自分でコントロールすることへの重点の移行と考えることができるのである。学校教育の最終的な目標の1つは、生徒が独立した学習者になることであるから、形成的評価を通じて生徒が自分の学習を自己コントロールできるようにすることは極めて重要である。そのための出発点は、形成的評価を通じて自己評価能力を育成することである。

 オーストラリアのR・サドラーは形成的評価が機能するための3つの条件を示したことで有名であり、その3つは次のようである。

①学習の目標や、どのようなレベルの学習の成果が求められているかを生徒自身が知る必要がある。
②生徒は学習の目標やレベルと、自分の実際の学習状況がどの程度乖離しているかを知る必要がある。
③生徒は学習の目標やレベルとの乖離を埋める方法を指導される必要がある。

 ①と②で生徒の役割が強調されていることに注意されたい。また③の乖離を埋めるのは最終的には生徒自身である。つまり、形成的評価が機能するには、教師の指導があるにしても、生徒自身が積極的に学習の改善に動く必要があることを意味する。

 サドラーが形成的評価において生徒の役割を重視しているのは、教師が学習の改善に役立つ助言、つまりフィードバックをしても、生徒はそれを生かそうとしないため、改善が見られないという現実であった。この点を改善するためには、生徒自身の役割をもっと重視すべきことに気が付いたのである。つまり、生徒自身が学習の目標を自分自身の目標でもあると自覚し、その目標と自分の学習状況との乖離を認識して、それを埋める努力をしようとすることが重要であると考えたのである。

 そこでまず必要なのは、生徒自身が学習の目標と自分の学習状況の乖離を自分で認識すること、すなわち自己評価が必要となる。この自己評価能力の育成は、前に述べた学習の自己コントロール能力の育成につながるのである。

 ここで注意しなければならないのは、形成的評価により育成しようしている能力は、欧米で「高次の技能(higher order skills)」と言われる能力である。わが国では「思考・判断・表現」の学習評価の観点で示される内容がほぼこれに相当する。漢字の学習や、都道府県名、計算のような知識や技能ではないことに注意されたい。漢字の学習や県名の学習において、教師によるフィードバックや生徒の自己評価が全く必要ないとは言えないが、形成的評価を実施するうえで色々な工夫を必要とするのは高次の技能である。

自己評価能力の育成過程

 これまでの実践研究によれば、自己評価能力を育成する方法として、次のような手順が考えられる。

(1)相互評価の導入
 自己評価に到る最初の練習として、生徒同士でお互いの作品等を評価しあうことが効果的である。例えば、各人が書いた文章の出来栄えをグループで評価しあうことである。生徒と教師では、用いる言葉も違うので、日頃から同じような言葉を使っている生徒同士のほうが、生徒にとって理解しやすい場合がある。自分の作品を評価するには、自分の作品から一歩離れて客観的に見る必要があるが、他の生徒の作品の場合はその必要がないため、その分、評価をする場合のハードルが低くなる。

(2)学習の目標を知る
 漢字の学習等と異なり、高次の技能に関する学習の目標を生徒に理解させるのは、自己評価能力を育成するうえで難しい部分である。この学習の目標を理解させるのは教師の仕事である。ただし、言葉で学習の目標を伝えるだけでは生徒は理解できないものである。例えば「論理的な文章を書くこと」を学習の目標とする場合には、論理的な文章と教師が考える実際の文章をいくつか生徒に示すことが効果的である。もちろん生徒の年齢や学年によって、育成できると思われる論理的な文章のレベルは異なってくる。作品を生徒に示す場合には、どこが学習の目標に照らして目標を達成しているかを説明することが必要である。このような指導を繰り返すうちに、生徒も何が求められているか少しずつ理解するようになるのである。

(3)グループでの評価
 学習の目標を理解させるのと並行して、実際の作品を生徒自身が評価する練習をすることが必要である。この場合、生徒が単独でこれを行うよりも、グループとしてこれに取り組んだ方が、自分自身では分からなかった点や、他の生徒の見方を知ることで、自分の考えを深めたり、広げたりすることができる。

 評価の練習に用いる作品は、該当のクラスの生徒の作品を用いてもよいが、同じような課題に対する以前の生徒の作品を用いることも考えるべきである。この場合、作品の一部を変えて、評価すべき点が分かりやすいようにすることも練習のために役に立つ。このような過程をへて、自己評価ができるようになれば、学習を自己コントロールできることにつながっていく。

 

 

Profile
鈴木 秀幸 すずき・ひでゆき
 一般社団法人教育評価総合研究所代表理事。2000年教育課程審議会「指導要録検討のためのワーキンググループ」専門調査員、2009年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員、2018年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員等を歴任。主な著作に『スタンダード準拠評価』(図書文化社)、『新指導要録と「資質・能力」を育む評価』(共著、ぎょうせい)『新しい評価を求めて』(翻訳、論創社)など。

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