令和の時代のカリキュラムデザイン[第3回] 新たな協働的な学びの創出 地域社会とのつながりが生み出す学び

授業づくりと評価

2021.12.15

具体的な取組

(1)かなばのコサージュで土佐山の木をアピール

 令和元年度の7年生は、6年生の土佐山学で「森林から学ぼう〜中山間地に生きる人々の知恵を伝えよう〜」というテーマで土佐山の木について追究した。かつて林業に携わっていた地元の方から話を聞いたり、土佐山の木を使って木工製品を作ってみたりしながら、土佐山の木のよさをどうすれば知ってもらうことができるかを考えた。そんなとき、県立高校の卒業式で、卒業生が胸花としてかなば(かんなくず)で作ったコサージュを付けたという話を聞き、自分たちで作れないかと考えた。さっそく「かなばのコサージュ」を発案した先生を講師に呼んで作り方を教えてもらい、修了証書授与式で付ける自分たちのコサージュを、地元の大工さんに削ってもらった土佐山の木で作った。地域の木が美しいコサージュに生まれ変わった感動は、7年生の土佐山学へとつながった。

 7年生では、高知県が日本一の森林率の県ということに着眼し、木から誕生した「かなばのコサージュ」をもっとPRする方法を探し始めた。高知県で行うセレモニーでゲストや来賓が付けるリボン徽章をかなば徽章にして、付ける機会の多い知事や市長にも付けてもらえれば広くPRできるということになり、県庁や市役所に出向き、これまでの取組と提案を聞いてもらったところ、実現することができた。

 また、東京オリンピック・パラリンピックのホストタウン事業で来高したシンガポールの選手団への県からのお土産として「かなばのコサージュ」を採用してほしいと担当課に提案に行き、了承してもらえた。歓迎パーティでは、歓迎のあいさつと高知市の魅力や自分たちの取組を英語で発表し、選手一人一人にコサージュを手渡すこともできた。

 さらに、子どもたちの想いはどんどん膨らみ、隈研吾さんが設計した新国立競技場が木を取り入れたスタジアムだということを知ると、東京オリンピック・パラリンピックの開会式に出席する来賓や役員に、かなば徽章を付けてもらうのはどうかと考え始めた。ここで日本の「木」のよさを世界にPRすることができれば、森林率全国1位の高知県のことも、また、土佐山のことも知ってもらえると考えた生徒たちは隈研吾氏に会って、直接お願いをしてみようということになった。隈氏の講演会に出向き、生徒の代表がお願いしたところ、大変興味は示してくださったものの、開会までに1年を切っていたこともあり、実現することにはならなかった。

 5年生の社会科の授業が土佐山学で追究する課題につながり、課題解決の方法として見つけたオリンピック選手団への英語のプレゼン、県庁を訪問して自分たちの想いを理解してもらうための提案文書の作成、説明用のパネルづくり、そしてかなばのコサージュを作るための繊細な技術など各教科で身に付けた知識や技能をしっかり活用して、2年がかりで取り組んだプロジェクトとなった。

(2)ほっこりたっぷり 土佐山ぐるりんツアー

 令和元年度の9年生は、7年生のときには土佐山を紹介するパンフレットを作成、8年生ではスタンプラリーを計画し、積極的に地域のPRに取り組んだ。9年生になり、今回は自分たちが土佐山のよさを直接伝えたいということになり、土佐山観光ツアーに取り組むことになった。旅行業者の所長さんをおよびして、ツアーを作るときのノウハウなど、専門的なアドバイスをたくさんもらった。平日開催になるので対象はシニア世代と決め、ツアーの内容は、「ゴトゴト石」で落ちない祈願体験、「やまんばの滝」の見物、ゆず収穫体験、「山嶽社」で板垣退助による自由民権の話、土佐山の食材満載の昼食、手づくり豆腐の試食、「菖蒲洞」の冷風体感、オーベルジュ土佐山でのゆずスイーツで一休み、とんとんのお店で地元の野菜や特産品のお買い物、最後は土佐山学舎の校舎を案内とした。

 生徒たちはグループに分かれ、地域の方々といっしょにそれぞれの内容についての打ち合わせを繰り返した。予算と体験の時間を調整するのが一番の難関であったが、ついに「ほっこりたっぷり 土佐山ぐるりんツアー」が完成した。ツアーは旅行会社が5000円で実際に売り出したところ、わずか1時間で定員23名分が売り切れた。訪問場所の説明や特産品の紹介など、自分たちで原稿を作り、覚え、ツアー客からの質問にも対応できるように準備をし、現地へ行ってのリハーサルも行った。地域の方々にお願いをして特産品を分けてもらい、ツアー客へのお土産も用意した。

 秋晴れの清々しい朝、ガイド役の2人の生徒と23名のお客さんを乗せたバスは高知駅を出発し、土佐山へ向かった。学校の前では、在校生が道路わきに並んでバスに向かって手を振るおもてなし。それぞれの訪問場所では、担当のグループが笑顔で堂々と説明したり受け答えができている。地域の方々の紹介も忘れない。昼食やスイーツも大好評で、地元の野菜や特産品もたくさん買ってもらい、最後に土佐山学舎へ到着した。自分たちの学校を誇らしげに紹介し、「上を向いて歩こう」をお客さんといっしょに合唱し、ツアー参加へのお礼を言う頃には、生徒たちもお客さんも涙涙で、感動的なお別れになった。

(3)キャリア教育で文部科学大臣賞受賞

 土佐山学では、どの子どもも課題を自分事として捉えることで本気のスイッチが入る。これまでも、地域の特産品であるゆずに焦点をあて、ゆず祭りを地域に提案したり、実施にあたって人的・物的支援を求めるために企業へ出向き自分たちの企画をプレゼンする、模擬株式会社を作って、オリジナル文房具を商品開発し、販売した売り上げを地域に還元したりするなど、子どもたちの地域貢献のアイデアは次々と湧き上がってくる。その実績が認められ、令和元年度にはキャリア教育で文部科学大臣賞をいただいた。卒業前に9年生に地域貢献とは何かを尋ねた。地域貢献とは形に見えるものではない。心のなかにあるものだと。だから卒業しても、どこにいても、地域貢献はできると答えた。これが土佐山学の最終ゴールだと思う。

 

土佐山学が目指す学び〜「協働的な学び」を丁寧に描く〜

島根県立大学教授 齊藤一弥

 筆者は、開校当時から土佐山学舎と関わる機会を得ているが、この学舎の教育観は「地域社会との共存」と極めて明快である。また、その実現へ向けて、地域に「親しむ」、そして地域を「知る」「見つめる」、さらには地域に「貢献する」という地域とのつながりの成長を目指そうと取り組み方法もわかりやすい。総合的な学習「土佐山学」では、徹底的にオーセンテックな学びを基軸に据えて、子どもの有能さを信じて、ダイナミックな学習活動を組織している。その課題追究の広がりと深さは、いずれもが大人顔負けである。

 この学習を支え、推し進めているのは、常に子ども一人一人のよさや可能性を引き出そうとする学びづくりの姿勢である。そして、個々の異なる意見を組み合わせて新たな価値の創造していくために、地域社会とつながることのよさを最大限生かして、他者との対話を重ねながら探究的かつ体験的な活動を充実させていくことを重視する土佐山学舎の開学以来の方針である。これらの方向性は「、協働的な学び」が目指す次代の学びの在り方そのものであり、その実現に向けて丁寧に資質・能力ベイスのカリキュラムをデザインしていくことの大切さを示している。

 

 

Profile
齊藤 一弥 さいとう・かずや
 横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、平成29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、令和3年4月から高知県教育委員会事務局教育課程推進専門官。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『数学的な授業を創る』(東洋館出版社)。

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