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講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II [第1回]形成的評価──教師の質問

NEW授業づくりと評価

2021.09.27

講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II
[第1回]形成的評価──教師の質問

一般社団法人教育評価総合研究所 
代表理事 鈴木秀幸

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.1 2021年4月

形成的評価への注目

 形成的評価への注目は、1998年イギリスのP・ブラックらがAssessment in Education誌に、形成的評価を実施した場合の学習向上効果が極めて大きいことを示した論文を発表したことから始まった。それまでどちらかと言えば総括的評価に関心が集中し、形成的評価への関心は低かったが、この論文を契機に形成的評価の実践研究が世界中で始まった。わが国でも、新教育課程での学習評価の在り方に関するワーキンググループでの議論も、形成的評価の重要性を強調する結果となった。

 P・ブラック等のその後の研究で、形成的評価を実施するうえで課題となる分野として4つが浮かび上がってきた。4つの分野とは

 ・教師の質問
 ・評価結果の生徒へのフィードバック
 ・生徒の自己評価や相互評価
 ・総括的評価の形成的な機能

 である。今回は4つの分野の中で、最も重要であると考えられている「教師の質問」が形成的評価として機能するためには、何が必要なのか、実践研究から分かったことを示してみたい。

教師の質問の問題点

 教師の質問は生徒が実際に何を理解しているか、考えているかを知る上で非常に重要である。生徒の学習の状態の把握は、形成的評価の実践の上で最初に必要なことである。さらに教師は質問を用いて生徒の思考を促すこともできる。ちょうどソクラテスの問答法のように。しかし、私が高校の教師だった頃の生徒に対する自分の質問について振り返ってみると、実践研究が指摘した教師の質問の問題点がそのまま当てはまるのである。

(1)質問の内容
 教師の質問は、ほとんどが単語で答えられるような質問である(もちろん私も)。このことは、質問が「知っているか・知らないか」どちらかを問うようなものであることを意味する。このような質問が必要なこともある。しかしながら、思考力や判断力の育成の必要が強調されている現在では、単語で答えるような質問ばかりでは、生徒の考えていることを知ることはできないし、考えることを促すことにもならないのである。

(2)考える時間を与えない
 生徒が考えをまとめるには時間がかかるものである。しかしながら、多くの教師は生徒が考えている間の「沈黙の時間」に耐えられない。単語を答えるような質問の場合は、1秒程度が限度であり、それ以外でも数秒程度が限度である。「沈黙の時間」に耐えられなくなり、何かヒントを与えたり、別の生徒に答えさせたりしてしまうのである。

(3)授業の秩序維持のための質問
 教師の質問は必ずしも生徒の考えを聞く目的で行われるとは限らない。私もしばしば用いたが、寝ている生徒やぼんやりしている生徒に質問して、起こしたり、注意を喚起したりする目的で質問することはよくある。これらの質問は生徒の考えを聞くためのものではなく、授業の秩序を維持するためのものである。生徒が何を考えているかを知り、これをもとに思考させるための質問ではない。

 この種の質問の別の例として、授業の進行を円滑に進めるため、いつも良い答えや、期待した答えをする生徒を中心に質問をする場合もある。授業はスムースに進行するので、教師も上手くいっていると感じることができるため、そのような生徒に質問を割り振りがちになる。

改善のためには

(1)質問の内容の再考
 質問として「正しい・誤り」のような二択式の質問や単語を答えるような質問はできるだけ避けることが必要である。基本的に「どう考えますか」とか「どうなるでしょうか」というような質問にする。二択式の質問にならざるを得ない場合でも、生徒の答えを聞いた後に、「なぜそう考えましたか」という質問を付け加えることである。生徒は教師が何を答えることを期待しているか先回りして推測する傾向を持っている。そこでたとえ正解や期待していた答えが出てきても、できる限りいろいろな解答や考えを聞くようにすることが必要である。

(2)考える時間を与える
 解答を考えるための時間を十分に与えていないことが多いので、当然のことであるが、これについては解答を考える時間を与えることを心掛けることになる。しかしながら、これが非常に難しいことが実践研究で分かっている。実際に十分な時間を与えることができるようになるまでに数か月はかかるという実践報告があるので、ともかく辛抱強く取り組むことである。どうしても解答がない場合には「しばらく考えておいてください」と言って考え時間を与える方法もある。

(3)間違った答えも必要
 年齢が上がるにつれて、生徒は間違った答えを言って、恥をかいたりメンツを失ったりすることを恐れるようになる。そのため自分の考えをなかなか言わなくなるものである。そこで生徒には次のように言う。「よく分からないがたまたま言った答えが正解であることもある。しかし、分かっていないのに正解を言われてしまうと分かったものとして、次に進んでしまうことになる」と。このように、よく分からないがたまたま正解を言われると逆に困ること、誤った答えが出ると、正しいことと誤りの区別がはっきりして理解が深くなることを強調する。このことを繰り返し高校生に説明していると、自分の考えをなかなか言おうとしない高校生でも、教師が驚くくらいよく話すようになった。誤った答えをすることを恐れない教室の雰囲気を作ることが必要である。

 

 

Profile
鈴木 秀幸 すずき・ひでゆき
 一般社団法人教育評価総合研究所代表理事。2000年教育課程審議会「指導要録検討のためのワーキンググループ」専門調査員、2009年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員、2018年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員等を歴任。主な著作に『スタンダード準拠評価』(図書文化社)、『新指導要録と「資質・能力」を育む評価』(共著、ぎょうせい)『新しい評価を求めて』(翻訳、論創社)など。

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