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異見・先見 日本の教育 「失敗」をたくさん話してほしい。そして「死なないノウハウ」を伝えてほしい

NEW『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト

2021.09.27

異見・先見 日本の教育
「失敗」をたくさん話してほしい。そして「死なないノウハウ」を伝えてほしい

作家・活動家
雨宮処凛

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年8月

不条理劇場・学校で先生をしていることにお悔やみを申し上げます

 「できるだけダメな先生でいてほしい」

 学校や教員に望むことは。そんな質問を受けるたび、言っている。

 別にふざけているわけではない。自分自身が子どもの頃、もう少し「ダメ」な大人が周りにいたら、どれほど息がしやすかっただろうという思いがあるからだ。

 現在40代なかばの私が子どもだったのは昭和の終わりから平成はじめ。そして令和の今、学校の息苦しさは、さらに強まっていると感じる。

 と、本題に入る前にまず言っておきたいのは、今時先生をやっているなんて「御愁傷様です」ということだ。なぜなら私が子どもの頃は「一億総中流」なんて言葉がまだ現役で、「頑張れば報われる」という神話は、ギリギリ噓になっていなかった。

 しかし、現在。

 どんなに頑張っても一定数の「報われない人」が存在することは、子どもだって知っている。少し前は「いい学校、いい大学、いい会社」なんていう「幸せになれる確率の高いレール」が示されていたけれど、そんなレールはとっくに爆破され、今は「どうやったら幸せになれるか」どころか「どうやったら野垂れ死にしないか」すら闇の中だ。

 そんなカオスで子どもに様々なことを教える「先生」をやっているなんていうのだから、お悔やみのひとつでも言いたくなってくる。

 そこに来て、最近では「#教師のバトン」という、教員の過酷な労働を嘆くハッシュタグも注目された。私も時々教員の方々から話を聞くが、部活のみならず「先回りした言い訳みたいな書類仕事」という徒労感満載のものでさらに忙しくなっているようではないか。もはや同情を禁じ得ないが、本末転倒なことばかりが起きている不条理劇場、それが我が国の学校だ。

 では、先生が忙しいことの何が問題か。

 もちろん当人も家族も大変だが、学校内のことで考えると、子どもと関わる時間が少なくなることだろう。

 そして子どもは、先生が忙しいことを嫌というほど知っている。驚くほど大人を見ているし、少しの表情の変化や言葉尻にも敏感だ。そのようなところから、子どもは「忖度」してしまう。「忙しそうだから今話しかけるのはやめておこう」「なんか話しかけるなオーラ出してるから、本当は相談したいけど今日はやめておこう」と。

地獄だった中学時代

 そんな私が子ども時代で一番辛かったのは、部活でいじめを受けていた中学時代。当時はヤンキー全盛期で、少し上の学年は「校舎の窓ガラスを割る」など校内暴力の限りを尽くしていた。ヴィジュアルイメージとしては『ビー・バップ・ハイスクール』とかその辺を思い出してほしい。

 校内暴力の嵐が吹き荒れたあとに中学に入学した私は、先生たちによる暴力支配が日常化していることに驚いた。忘れ物をした、私語をしたなどの理由で当たり前のようにブン殴られ、新学期には「見せしめにするため」、生徒が一人、教員にボコボコにされた。その上、私は団塊ジュニア。数が多いことから受験戦争は熾烈をきわめていた。そんなストレスフルな中、校内には陰湿ないじめが蔓延していた。

 教室内でもヒエラルキーはずっと低めだったものの、もっとも苦しかったのは部活でのいじめだ。部活内では、リーダー格の女子生徒が順番にターゲットを決めてはいじめをし、ターゲットにされた方がボロボロになってやめていくということが繰り返されていた。そうしてとうとう、私に順番が巡ってきてしまったのだ。

 目の前が暗くなると同時に、死刑判決を受けたような気持ちだった。そこから部活をやめるまでの半年ほどが、人生でもっとも辛い時期であり、もっとも自殺に近い時期だったと思う。その中でも辛かったのが、部活内で三人組として仲良くしつつ、お互いを守り合っていた親友(だと思っていた)二人が私をいじめる側に回ったことだ。そうしなければ自らもいじめのターゲットにされてしまうのだから仕方ないといえば仕方ない。私だって逆の立場だったら同じことをしただろう。しかし、そのことは私の心をえぐった。

 というような話をすると、「部活顧問の先生に相談しなかったの?」なんて聞かれる。が、それはもっとも避けるべき選択だった。なぜなら、部活内に蔓延するいじめについて、顧問教員は常々「めんどくさい」「どうでもいい」と本当にメンドくさそうに公言していたからである。それだけではない。私の前にいじめられていた女子生徒が耐えきれずに相談した際には、いじめっ子たちといじめられている子、その他部員を会議室に呼び出し、「ここで話し合え」と言ってどこかに行ってしまったのだ。その場は「先生お墨付きの公開処刑の場」となり、いじめられていた子はみんなからその場で罵倒されて号泣。その日以来、部活に来ることはなかった。今思ってもよく自殺しなかったものだと思う。それほどに、それは恐ろしい空間だった。

 そんなこんなを見ていたので、私にとっては「先生に相談する」という選択肢は「絶対にない」ものだったのだ。

 結局、私は部活をやめることでいじめから逃れたのだが、この経験は大きな傷となって残っているし、今も対人恐怖は続いている。そんな話をすると、「じゃあ当時、いちばん大人にしてほしかったことは何?」と質問されることがある。

 してほしかったこと。かけてほしかった言葉。そのたびに思うのは、「自分もいじめられていた、という大人の話が聞きたかった!」というものだ。

 当時の私は、普通に生きてるように見える大人たちにもそんな過去があること、暗黒の過去があっても自殺せずに大人になれること、多かれ少なかれ、どんな大人にも子どもの頃の惨めで情けなくて恥ずかしい過去があるという、そんな話がもしあるなら、それを聞きたくて聞きたくて仕方なかった。

 だけど、親も先生も親戚も、誰もそんな話をしてくれなかった。唯一あるパターンは、テレビに出ている有名人が「子どもの頃の苦労話」なんかをする時だ。

 「いじめられてた」なんて話が出ると、私は全神経を集中して一言も聞き漏らすまいと身を乗り出した。しかし、有名人たちはそんな話を最終的には「だから今の自分がある」「だから今の成功がある」と、決まって美談にしてしまうのだった。中には、「ある日、いじめっ子に仕返ししたら勝ってしまい、それからは自分がリーダーに」なんてリアリティのない大逆転劇を語るパターンもあって、私はそのたびに「そういうんじゃないのに……」と落胆していた。

 美談ではない、武勇伝ではない、ただの大人の失敗談が聞けたら、どんなに楽になるだろう。当時、言語化してはっきりと思っていたわけでないが、私が聞きたかったのは間違いなく、大人たちの惨めで情けなくて恥ずかしくてどうしようもない10代の頃の話だったのだ。それを聞けば、「そんな経験をしても死なずに大人になれるんだ!」とどれほど楽になれただろう。

 なぜなら当時の私は、ここまで存在を否定される自分は自殺するしかなく、間違っても大人になるまで生き延びられないと思っていたから。そうして世の大人たちは、誰一人、自分のような惨めな経験をしていないと思っていた。本当は違うと知ったのは、自分も大人になって随分経ってからだ。

「失敗」を語れる大人がいかに貴重か

 「ダメな先生でいてほしい」というのは、そういう理由もある。

 失敗談を語れる大人、隙を見せてくれる大人は子どもにとって貴重な存在だからだ。

 一方で、「声がデカくて自分が正しいと思っている完璧な大人」は、子どもの心を殺す天才だ。

 彼ら彼女らは何があればすぐ「そんなに弱いんじゃ社会に出てもやってけないぞ」なんてことを言う。そんな脅迫を受けなくとも、子どもたちはこの格差社会の厳しさを知っている。企業社会が求めるのは、コミュニケーション能力が高く積極的で協調性があり、どんなに長時間労働をしても死なない強靭な体力と、どんなにパワハラを受けても病まない強靭なメンタルの持ち主である即戦力のみ。上位1%どころか思考停止したスーパーマンしか生き残れない社会なのだから、周りの大人くらい、子どもを安心させたってバチは当たらないのではないだろうか。

 私もそんな脅迫を受けてきたわけだが、当時、周りにいてほしかったのは、多少ダメでも普通に生きている大人だ。

 子どもたちが「こんな大人でもそれなりに楽しそうに生きられるなら、大人になるのも悪くないかも」と思えるような、ちょっと世をナメることができる大人。

 そんな大人が生息できる場所は今、どんどん減っている。映画やドラマからも消えて久しい。少し前は『男はつらいよ』の寅さんや、『釣りバカ日誌』の浜ちゃんなんかがいたが、今や映画やドラマにもそんな人は登場しなくなった。高度成長が終わり、景気が停滞することによって日本社会から隙間と余裕が奪われ、「何してるかよくわかんないけどそこそこ楽しそうに生きてる大人」が消えた。

「死なないノウハウ」を広めてほしい

 ここで学校に望みたいのは、「ダメ枠」みたいな教員の導入だ。

 教員が多忙な時代だというのにその先生はいつも暇そうで、かわいそうだから生徒が相手をしてくれるみたいな存在。忙しい他の先生と違って、その先生にはみんながなんでも相談できるだろう。子どもに相談されたとしても、武勇伝や美談を語らず、自分の失敗談を話してくれる。そんな「放し飼い」みたいな、校舎に迷いこんだ野良猫みたいな先生がいたら、そんな学校だったらどれほど息がしやすいだろう。リアリティがないと言われそうだが、一昔前の日本には、学校に限らずどんな職場やコミュニティにもそんな人がいた気がする。そしてそんな人の居場所がなくなってから、この国は随分生きづらくなった。

 もうひとつ、提案したいのは、「死なないノウハウ」を伝えることだ。

 私がこの15年、メインテーマとしているのは日本の貧困問題。

 ネットカフェ難民やホームレス状態の人々を取材し、支援活動をしてきたが、コロナ禍で困窮に陥る若い世代の多さにこの一年半、驚かされてきた。

 例えば2020年3月、貧困問題に取り組む40ほどの団体で「新型コロナ災害緊急アクション」が立ち上げられ、私も所属しているのだが、現在に至るまで700件以上のSOSメールが届いている。

 「所持金ゼロ円です」「派遣先の寮を追い出されてホームレスになりました」「もう3日間、何も食べてません」といった内容だ。そんなメールをくれる大半が20〜40代。女性も2、3割いる。

 コロナ禍が始まって一年が経つ頃から目に見えて相談者の若年化が進み、20代が増えた。生年月日の欄を見ると多くが90年代生まれ。そんな若者たちが住まいも所持金も職も失い、携帯も止まってしまい、フリーWiFiのある場所から必死に支援団体を探してメールをくれる。自殺か餓死かホームレスか刑務所か。そんな究極の四択を口にする人もいる。

 支援者たちはそんなSOSに駆けつけ、緊急宿泊費や食費を渡して聞き取りし、後日、生活保護申請など公的な制度につなぐ。私もそのような駆けつけに同行したり相談を受けたりするが、彼ら彼女らに共通するのは、労働法も、公的支援についてもあまりにも無知ということだ。

 コロナで職を失い、ホームレス状態になるまでにいかにひどい労働基準法違反があっても、当人たちはそれが違法だと知らない。そうして住まいや所持金を失っても、自分が生活保護の対象になることも知らない。とにかく「自己責任」で生きるのが当たり前で、なんでも自力で克服しなければいけない、社会にも人にも決して迷惑をかけてはいけないと刷り込まれている。そんな若者たちは、丸裸で社会に放り出されているのと同じである。

 だからこそ、学校では「死なない方法」を教えてほしい。

 まずは労働基準法。そしてホームレス状態になったらどうすればいいのか。具体的には自分が住む地域の福祉事務所に行けばいい。そこで「若いから働ける」と追い返されたら「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク」などに相談すればいい。もちろん、住まいがなくても生活保護は申請できる。その場合はどの自治体の窓口に行ってもいい。具体的には残金が6万円以下になったらもう相談に行った方がいい。「家族に知られるのが嫌」という場合もあるだろう。生活保護の申請をすると「扶養照会」といって親や兄弟に連絡がいく。が、21年4月、運用が代わり、本人が嫌がる場合には丁寧な聞き取りがなされるようになった。抵抗がある場合はそのことを伝えれば、扶養照会はされない可能性が高いのだ。そうして生活保護を利用して、家がなければアパートに転宅し(保護費から転宅費も出る)、仕事が決まって働くことができれば生活保護を「卒業」すればいい。

 というような情報を知っていれば、困窮から闇金を借りたり犯罪に手を染めることから若者たちを守ることができる。自殺からもだ。

 そして最後に。子どもたちにも、先生たちにも伝えたい。

 「あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない」

 これは人が生きる上で、一番くらいに大切なことだと思う。

 学校では、そんなシンプルなことをもっと伝えてもいいんじゃないかなと思っている。

 

Profile

雨宮処凛 あまみや・かりん
1975年、北海道生まれ。作家・活動家。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)はJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。 著書に『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)、『ロスジェネのすべて 格差、貧困「戦争論」』(あけび書房)、『相模原事件裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』(太田出版)など多数。2020年以降のコロナ禍では、4月より「新型コロナ災害緊急アクション」メンバーとして生活困窮者の支援に取り組む。最新刊は『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』(かもがわ出版)。

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