新課程を生かす 単元づくり・授業づくりの実際―私の問題意識 これまでの国語授業(筑波大学附属小学校教諭 弥延浩史)
授業づくりと評価
2019.12.11
授業づくりについて 第二次の6時間目を例に
第一次では、人物が最初と最後でどう変容したかということを捉える授業をした。読み聞かせ、「最初と最後ではどうなったかな」と問うだけでなく、何がきっかけで変容したのかというところも捉えさせるようにした。また、第二次の5時間目までは、人物設定を確認し、物語で起こった出来事や、人物の気持ちについて捉えている。第二次の最初に、「中心人物はがまくんなのか、かえるくんなのか」を問うているため、その手がかりとなるものは何かと詳細を読んで6時間目を迎えているという段階である。
そこで、本時の目標は、「中心人物は誰なのかを話し合うことを通して、がまくんとかえるくんの心情の変化の差異に気付き、根拠を明確にして考えをまとめることができる」とした。本時の流れは下の表のようにした。
この授業を通して、子供たちは次のように発言したり考えをまとめたりしていた。
A児「がまくんは手紙をもらえて、不幸せから幸せに変わったから中心人物だと思う」
B児「かえるくんもがまくんが喜んでいるから嬉しいし幸せ。でも、お手紙をもらったがまくんの方が、喜びは大きいと思う」
C児「私は、中心人物は二人じゃないかなって思うけど。だって、かえるくんも幸せな気持ちなのは同じでしょ」
D児「でも、がまくんとかえるくんの最初の悲しい気分ってちょっと違うよね」
授業では、まず自分の考えをノートに書くようにし、それをもとに考えを伝え合うことができるようにした。そして、がまくんもかえるくんも心情の変化があるということを可視化できるよう、板書で示していった。そして、D児の発言を全体に問い返すことによって、子供たちは、「お手紙を一度ももらったことがない」という悲しみと、「親友のがまくんが悲しんでいる」という悲しみという違いがあることに気付いた。
そこで、二人が幸せな気持ちになったキーアイテムである「お手紙」をリライトしたものを提示した。私がリライトした「お手紙」は、「親愛なる」を削り、「きみの親友」を「きみの友だち」と書き換えたものである。子供たちは、口々に「こんなお手紙じゃないよ!」と言う。そこで、「でも、お手紙の内容は変わっていないし、これでもよいのではないですか?」と揺さぶった。子供たちは、がまくんが、かえるくんから手紙をもらって嬉しいというところまでは読めている。しかし、がまくんの「ああ、いいお手紙だ」という言葉には、手紙をくれたという事実以上に、手紙の内容に対する思いが含まれていると考えた。そこで、がまくんの気持ちを読めていると思っている子供たちにも、もう一歩先のところを考えてもらうために、このような揺さぶり発問をおこなったのである。
そうすることで、子供たちは、「親愛なる」や「親友」という言葉のもつ温かさや、「いいお手紙」の「いい」とは何かというところまで、自分の経験とも結び付けながら考えを伝え合うことができた。
この授業の最後には、「かえるくんがかたつむりくんにお手紙を頼んだことは失敗だったね」と問いかけた。子供たちからは、この揺さぶりに対して「え?どうして?」という反応が返ってきた。そこで、「だって、四日も待たせてしまったでしょう? がまくんに、もっと早くお手紙を届けないとだめでしょう?」と言うと、「二人とも幸せな気持ちですわっていたんだから、その四日もたいせつだよ」とある子供が発言したのである。この発言は、叙述から想像したものであることが分かる。そこで、その子供の発言から、ペアになって、四日間待ったことの意味について考えさせた。
次時ではさまざまな意見が出るなかで、ある子供が、「プレゼントと同じだよ」と言った。そこで、「それはどういうことかな?」と問い返すと、「クリスマスプレゼントとか、誕生日プレゼントとか、待っているとき楽しみでしょう? だから、このお手紙も同じ」とのことだった。これには、多くの子供たちが共感し頷いていた。
このように、自分の経験から結び付けて考えるということは、文学的文章の学習における「言葉による見方・考え方を働かせる」という部分ともつながると考える。この学習を終えたとき、他の文学作品でもシリーズになっているものがあるから読んでみたいというように、学びが広がっていく姿も見られた。
教材といかに出合わせるかという点、自分の考えをもたせ、それを対話を通してさらに深化させたり新たな視点に気付かせたりする授業展開、最終的には個々が学びの深まりを実感できるような振り返りをさせていくということが、これからポイントになってくるのではないだろうか。そうした国語授業を、これからも目の前の子供たちと共に創っていけたらと思っている。
Profile
弥延浩史
やのべ・ひろし
1980年東京都日野市生まれ。弘前大学教育学部を卒業後、弘前市立時敏小学校、藤崎町立藤崎小学校教諭を経て、2018年度より現職。令和2年度 東京書籍小学校国語教科書編集委員、全国国語授業研究会理事、国語「夢」塾幹事。主な著書に『小学校国語 クラス全員が熱中する! 話す力・書く力をぐんぐん高めるレシピ50』(単著:明治図書)、『クラスのつながりを強くする! 学級レク&アイスブレイク事典』(単著:明治図書)他、編著・共著多数。新採用のころから、話すことや書くことのおもしろさを子供たちに実感してもらいたい、学級を前向きに高め合うことのできる空間にしたいと、様々な実践に取り組む。現在は、「対話のある授業」をいかにつくっていくか、対話を通して学び合い、高め合っていく学習集団をいかに育てるかを考え、実践に取り組んでいる。