シリーズ・学びを変える新しい学習評価

ぎょうせい

【新刊紹介】「主体的に学習に取り組む態度」とは―『シリーズ・学びを変える新しい学習評価 理論・実践編2 各教科等の学びと新しい学習評価』より

授業づくりと評価

2019.12.13

(株)ぎょうせいはこのほど、新しい指導要録にもとづく学習評価が、新学習指導要領の完全実施と同じく、小学校は2020年度、中学校は2021年度スタートすることを受け、『2019年改訂指導要録対応 シリーズ・学びを変える新しい学習評価』(全5巻)を一斉刊行いたしました。

ここでは、特に『シリーズ・学びを変える新しい学習評価 理論・実践編2 各教科等の学びと新しい学習評価』第7章「主体的に学習に取り組む態度」の捉えと評価(62-64頁)から内容の一部を抜粋してお届けいたします。(編集部)

 

第7章「主体的に学習に取り組む態度」の捉えと評価
第1節「主体的に学習に取り組む態度」とは
―「関心・意欲・態度」の評価における誤解を乗り越えるために―

(1)新しい時代に必要となる資質・能力の育成と「主体的に学習に取り組む態度」の評価

 今回の学習指導要領では、「新しい時代に必要となる資質・能力の育成と、学習評価の充実」を目指し、その目標や内容を「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養」と整理している。
 資質・能力の育成が学校教育の目標として語られる以上、学校教育を通じて育成可能なものについての話であると理解する必要がある。特に「資質」の語については、一般的に「うまれつきの性質や才能。資性。天性」(広辞苑第6版)と解されることもあるが、学習指導要領前文では、「必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのか」「児童が学ぶことの意義を実感できる環境を整え、一人一人の資質・能力を伸ばせるようにしていく」と記述されているように、学習内容の吟味、学習方法、環境の整備などを行った上でその育成を図るものとして描かれている。もし、子どもがもともと持っているものを評価するに留まるのであれば、新しい時代に必要となるものを学校教育が子どもたちに育て得ているのかという教育評価の一部としての学習評価になり得ず、不適切である。「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(以下「報告」)において、学習評価の改善のために、「①児童生徒の学習改善につながるものとすること」「②教師の指導改善につながるものとすること」と明記されていることを想起したい。

(2)「学びに向かう力、人間性等」のすべてを観点別評価の対象とするわけではない

 さて、「報告」における図1「各教科における評価の基本構造」(「報告」p.6、『シリーズ・学びを変える新しい学習評価 理論・実践編2 各教科等の学びと新しい学習評価』p.24掲載)に基づくと、「学びに向かう力、人間性等」に関する目標に照らして示された学習状況評価の観点が、「主体的に学習に取り組む態度」である。なお、「学びに向かう力、人間性等」には含まれるものの観点別学習状況の評価や評定にはふさわしくないものがあることは明示されており、図1では「感性、思いやり」などが挙がっている。これらは「個人内評価」へと矢印がつながっており、「個人内評価」は、「児童生徒の一人一人のよい点や可能性、進歩の状況について評価するもの」と記されている。
 ここで改めて強調しておきたいのは、これは「各教科における評価の基本構造」を示しており、「学習指導要領に示す各教科の目標や内容に照らして学習状況を評価するもの(目標準拠評価)」と明記されていることである。主体的に学習に取り組む態度についても、各教科における目標との関係で評価していくこととなる。この場合、例えば中学校の保健体育の体育分野では「公正、協力、責任、共生」が記されており、「行動の記録」の項目との関係が問われるが、これも保健体育の目標・内容に基づいて評価を考えることとなる。

(3)長期的・発達的に捉え、子どもの学びに向かう力に資する評価に

 態度の育成は、教育評価の理論においては情意目標として分類され、その伸びについては、毎時間捉えることは難しく、長期的(毎時ではなく、一つの単元もしくはそれ以上)かつ発達的に理解する必要がある。こうした点への配慮が十分でなかったため、「挙手の回数」や「毎時間ノートをとっているか」などのチェックが「関心・意欲・態度」の評価で用いられてきたことが推察される。この方法では、一つの考え、一つの筋道で納得してパッと取り組む子どもは評価されやすく、深く考えていて挙手しなかったり、授業に深く入り込んでいてノートをほとんどとれなかったりという子どもたち、つまり、別の視点や状況からの考えを考慮に入れて考えているからこそ端的に表現することが難しいと感じる子どもたちは、評価されないということになってしまう。
 今回の「主体的に学習に取り組む態度」の評価では、上述のような挙手の回数や毎時ノートで評価する等の方法ははっきりと否定されている。では、いかにして態度が評価可能となるのか。また態度の評価が子どもたちの「学びに向かう力、人間性等」の育成に資することになり得るのか。これらを研究していくことが課題となる。石井英真は、「態度主義」(知識の伝達よりも主体性、意欲を育てる方が重要)が、子どものつまずきの原因を子どもの心構えに求めることにつながる危険性を指摘している(西岡他 2015 所収、p.85*)。今次の改訂の趣旨をふまえ、態度主義に陥らぬような評価の研究が求められる。

(4)「知識・技能」や「思考・判断・表現」の観点の状況をふまえた評価に

 今回の学習評価では、「知識・技能」や「思考・判断・表現」の観点の状況をふまえた上で、「主体的に学習に取り組む態度」を評価する必要があることが述べられている。ここからは、態度主義の評価を回避するねらいを見てとることができる。あくまで、その他の観点の状況をふまえた評価が求められるのである。こうして見ると、「主体的に学習に取り組む態度」の観点で評価を(しかも3段階評価を)行う必要があるのか、という疑問も生じる。少なくとも、3観点の内の一つだからといって、3観点を1:1:1の比重と考えて、「総和」をもとに評定を考えることは乱暴である(なお、そもそも、三つの観点別評価を「足す」ことで教科全体の評定が算出できるのであれば、観点別評価のみでよいはずであり、教科の評定欄は不要である。この点は、今回の報告での残された課題であると言える)。
 「報告」には、「例えば、知識・技能や思考・判断・表現の観点が十分満足できるものであれば、基本的には、学習の調整も適切に行われていると考えられることから、指導や評価に際して、かえって個々人の学習の進め方(学習方略)を損なうことがないように留意すべきである」とも記されている。これは、教科やその他の領域の学びにおいて、学ぶ内容と関係なく特定の学習の調整の仕方を教えたり使わせようとしたりすると、かえって子どもたちの学習方略が損なわれる危険性があることを示している。態度の評価の難しさを自覚しながら、子どもたちの「学びに向かう力」を豊かにする評価が求められる。(川地亜弥子)

(第2節以降に続く)

参考文献
*西岡加名恵・石井英真・田中耕治編著『新しい教育評価入門──人を育てる評価のために─』有斐閣コンパクト、2015年

 

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