講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[最終回][校長の教育内容・方法学]子供の未来を拓く教育内容・方法のレベルアップ

学校マネジメント

2022.05.16

講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[最終回]
[校長の教育内容・方法学]子供の未来を拓く教育内容・方法のレベルアップ

一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.6 2022年3月

新しい時代を拓く教育課程のチャレンジ

 今回の学習指導要領の改訂は2030年を目途にし、子供たちが激しい変化の時代の中で自己実現や社会の発展など未来を拓いていく力を身に付けることを目的にしています。社会に開かれた教育課程、三つの柱等の資質・能力育成の重視、カリキュラム・マネジメントの充実、主体的・対話的で深い学びの実現のための授業改善、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が学校教育に求められています。

 本欄では、新しい時代の校長に必要なビジョン、リーダーシップやマネジメント等の資質・能力を取り上げてきました。最終回は、これら新しい時代に必要な校長の資質・能力を基盤として、未来を拓く子供に必要な教育内容・方法について考えます。

 各学校は学習指導要領に基づいて教育を展開し教育水準を担保しています。その上で学習指導要領の内容や方法で何がこれまでと変わったのか、新たに重視されているのかをあらためて確認し、地域や学校、子供などの実態に応じて教育課程、指導内容・方法を創意工夫することが必要です。さもないと通り一遍の教育、子供にとって魅力のない教育・指導で終わり、前述の改訂の趣旨を実現できません。

 現在も教育改革は進んでいます。これを踏まえ、社会の進展を見据えて、子供たちのために教育課程、教育内容・方法の何を重視し、一層のレベルアップを図るかを決断するのが校長の役割です。本稿では、SDGs、ICT、キャリア教育を重視して考えます。

SDGs(持続可能な開発目標)実現の実践

 「SDGs(持続可能な開発目標)」は、国内外で拡大する貧困と格差、気候変動や生物多様性の喪失など、ここ数十年の間に人類に破局的状況をもたらしかねない慢性的危機に対して、2030年という年限を切り、17のゴールと169のターゲット、232の指標を示し、これら危機の克服を目指しています。

 17の目標は一見して分かるように、現代における地球規模の社会問題の全てが網羅されています。これを解決しなければ子供たちの未来は危ういものとなると言われています。それだけに子供にとっても自分ごとの問題です。教育は4番目のゴールで、他の目標全てと関係があります。学習指導要領においても「持続可能な社会の創り手となる」ことを求めており、積極的なチャレンジが期待されています。

 学校においては17のゴールと各教科等の内容との関連を検討し、ゴール間の関連にも目を配りながら、指導の重点として幾つかのゴールを取り上げていくことが適切でしょう。指導に当たっては、教科等横断的な指導により各教科等の関連を図る(カリキュラム・マネジメント)、探究的な学習、体験的な学習などを通し子供がゴールを目指す、問題解決に主体的・対話的に取り組み自ら学びを深め実践につなげていく、などが実現する指導の工夫が必要です。

【参考図書】諏訪哲郎他編著『学校3.0×SDGs』((株)キーステージ21)/南博・稲場雅紀著『SDGs―危機の時代の羅針盤』(岩波新書)他多数あり。

ICT活用の質的な深まり

 ICTは情報通信技術のこと。GIGAスクール構想は「児童生徒1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく公正に個別最適化された創造性を育む教育を全国の学校現場で継続的に実現させる」ことを目的としています。学習指導要領では「各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」を求めています。実現に向け急速に進行中です。

 ICT環境を整えることで、子供一人一人の反応を踏まえた双方向型の一斉授業や、個々の教育的ニーズや学習状況に応じた個別学習が可能になります。子供自身が各自の考えを即時に共有して多様な意見に即時に触れられること、より豊かな学びができるようになることが期待できます。家庭学習への活用、不登校児童・生徒の学習への活用等が期待されます。

 今後配慮すべきことはICT活用の質です。使う・慣れる段階からICTを文房具として使いこなし、多彩な使い方を身に付けるようにします。状況に応じた使い方の工夫、アナログの思考ツール等とのハイブリットな活用の工夫などにより、単なる使用から主体的に活用して学びを深めることを全ての子供に実現することです。目指すのは学びの深まりです。

【参考図書】高橋純編著『はじめての授業のデジタルトランスフォーメーション』(東洋館出版社)

キャリア教育の新たな展開

 「キャリア教育」が特別活動の学級活動に位置付けられ重視されました。「現在や将来に希望や目標をもって生きる意欲や態度の形成」「社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解」等を目指しています。

 昨年11月に出版された『LIFE SHIFT2 100年時代の行動戦略』では、長寿化の進展とテクノロジーの進化の時代にどう生きるか、その行動戦略を示しています。これまで人生は教育→仕事→引退の3ステージでした。人生100年の時代では労働市場や仕事が変容し常にレベルアップが求められること、引退まで長く働くことなどから、100年の見通しの中でマルチステージの生き方の重要性を論じています。

 キャリア教育もそうした見通しのもと、生き方、働き方を考える学習が必要です。先見の明に学び見通しをもち、子供が夢や希望をもって未来を切り拓いていけるようキャリア教育を進めていきましょう。

【参考図書】アンドリュー・スコット、リンダ・グラットン著、池村千秋訳『LIFE SHIFT2 100年時代の行動戦略』(東洋経済新報社)

 

 以上、いずれも子供とともに教師も自らの生き方として考え、学ぶことが必要な問題です。教育・指導の場としては、総合的な学習(探究)の時間が最適です。リーダーとして校長自ら、時代が求める探究課題を設定し、学校経営、教育課程経営に位置付け、先端となって取り組んでいきましょう。

 

 

Profile
寺崎 千秋 てらさき・ちあき
 全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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