わたしの学校経営手帳 女性管理職の視点から[第5回] 地域の伝統継承と学校の役割

学校マネジメント

2022.04.08

わたしの学校経営手帳
女性管理職の視点から[第5回] 

theme:地域と共にある学校づくりと管理職の役割
opinion2:北海道倶知安町立北陽小学校長 金崎徳子

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.5 2022年1月

地域の伝統継承と学校の役割

羊蹄山をバックに運動会で和太鼓を披露

 「地域と共にある学校づくり」を考えるとき、伝統の継承をどうするかは外せない課題だと思います。本校には、少年団活動として続いてきた「和太鼓」と「クロスカントリースキー」の取組があります。和太鼓については、和太鼓作曲・演奏家の故高田緑郎氏が、本校児童のために作曲してくださった、「北陽太鼓」という曲があります。また、クロスカントリースキーでは、本校での少年団活動をきっかけに競技を始め、オリンピック選手として現在も活躍している卒業生がいます。地域の宝でもあり、自慢と言えるこの2つの取組に学校がどのように関わるべきか、また、「少年団活動」と言っても、いわゆる「学校型少年団」であり、本校の先生方が主となって指導、運営してきたことなど働き方改革の観点からも見直しが必要となっています。

価値の気づきと理解

 伝統と言われるこの2つの取組は、教職員の入れ替わりや、少年団活動の見直しなどによる活動の縮小により、日常の学校生活とは少しずつかけ離れてきていました。あくまでも少年団活動であり、教育課程外であるという意識が私自身にもあり、その価値に気づいておらず、学校教育と切り離すことばかりを考えてしまっていました。

 気づくきっかけは、保護者や地域の方との対話でした。「『北陽太鼓』を聞くこともなければその存在自体を子どもたちは知らないまま卒業してしまう」という声や「クロスカントリースキーを始めたのは小学校での少年団活動だった」という声を聞き、学校としてできることはまだ残されている気がしてきました。「これまでと同じように続けていくのは不可能。でも、学校としてできることはないか。子どもたちにとって、自分の学校や地域への愛着や誇りにつながる取組を教育活動へ位置づけられないか」と考えるようになりました。そして、そのような保護者や地域の方の願いや伝統を、先生方に伝え、これからの学校に合った可能な形で伝承していく方法を模索するのは、管理職の役割であると考えるようになりました。

 そこで、まず先生方に伝統を理解してもらうため、校内研修の時間や、放課後の時間などを利用して講習会を開きました。欲を出さず、あくまでも本校の伝統の良さを感じることを目的とし、「指導力をつける」という目標は持たないようにしました。実際に子どもたちに指導するのは、地域の力を借りればいいので、先生方には良さを分かってもらえればよいのです。ですが、和太鼓については、講習会後も自主的に練習し、1曲演奏できるようになった先生もいました。この講習会から、抵抗感なく本校の伝統である和太鼓とクロスカントリースキーについての理解を深め、良さを知らせることができました。

教育課程への位置づけ

 本町でも、多くのスポーツ少年団は地域の方々が事務局や指導者を担う形に変わってきており、少年団活動は社会教育へと移行が進んでいます。本校の太鼓少年団も、指導者は地域の方へお願いしていますが、クロスカントリースキー少年団は、学校型少年団の形を継続しており、事務局や指導者も学校職員が主として担っています。年度当初に数名の先生に担当をお願いするのですが、太鼓やクロスカントリースキーの経験がない職員がほとんどで、非常に負担の大きい取組です。それらのことから、少年団に入っている限られた児童のみが体験するのではなく、本校児童全員が触れることができるように教育課程へ位置づけることで、学校全体として伝統の継承に取り組むことにしました。

 上記は、音楽科の学習で、本校が和太鼓体験と関連づけている単元です。この単元の学習の発展的な活動として、町の「羊蹄太鼓保存会」の方をゲストティーチャーとして招き、太鼓の指導をしていただいています。

 また、スキーは全ての学年で年間8時間ほど学習しますが、そのうちの2時間をクロスカントリースキーの体験として取り入れています。低学年と高学年を異学年交流としてペアで活動し、スキーの装着や基本的な操作を高学年が低学年に教えることで、経験の少ない担任でも無理なく体験活動を進めることができます。今後、この時間に地域の方をゲストティーチャーとして招き、より専門性の高い方に指導してもらう計画をたてています。

地域への愛着

 道具や地域の人材が豊富であるという恵まれた環境を生かしつつも、教職員に過度の負担をかけることなく、持続可能な形で本校の伝統を継承していくには、全てを学校でなんとかしようとしないことが大切だと思います。学校で無理なことや難しいことはどんどん地域の力を借りて、学校、地域みんなで伝統を大事にする子どもを育てていきたいと思います。

 大切なのは、「太鼓が叩けるようになること」「スキーが上手になること」ではなく、自分の学校の伝統を知り、大切にしようという思いをもつことであり、そのことが地域への愛着や自分への自信につながり、より豊かな人間性を育むことにつながると信じています。

 

 

Profile
金崎徳子 かねざき・のりこ
 昭和45年生まれ。東北女子大学卒。平成5年蘭越町立港小学校を皮切りに、後志管内小学校3校で勤務した後、平成26年蘭越町立昆布小学校教頭として管理職をスタート。平成28年に現任校である倶知安町立北陽小学校へ異動し、令和2年に校長として自校採用され現職。現在も中学生の息子の子育てをしながら勤務。
●大切にしていることば
 すべては必然(自分の身に起きることは、偶然ではなく、自分という人間を豊かにするために必要な出来事。どんなにつらく大変なことでも、そこから学びや次に生かせることがあると前向きにとらえることが大切)

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