特集 教師エージェンシーを育成するスクールリーダーの役割

学校マネジメント

2021.12.14

教師エージェンシーを育成するスクールリーダーの役割

 したがって、教職に内在する職業的性質としての個人主義・現在主義を和らげ、保守主義を打破することが、教師たちが変化に開かれ、成長マインドセットを発揮し、目的意識を明確に持って実践にあたること、すなわち教師エージェンシーの発揮と育成を促すことが、スクールリーダーの重要な役割となる(e.g.,Hargreaves 2010)。学校における教師たちの個人主義的性質を和らげるためにスクールリーダーがなすべきことはたくさんある。まず何よりも、スクールリーダー自身が個人主義化してしまいそうな自己を認識し、同僚を信頼し、同僚に助けを求め、同僚とよく協働することが必要である。教師にとって個人主義あるいは独学は、内に籠るがあまり公での実践の効果検証を拒みやすくするシングル・ループの学習サイクルを生み出してしまう(Argyris & Schön 1974)。そうすると、個人の実践の中だけで学びが回帰し、実践の効果が次第に減退してしまうことになる。スクールリーダーこそが学び手となり、同僚から学ぶことに開かれる必要がある。

 そして次に、スクールリーダーが学校の内外で教師たちの協働を多様多層に編み込む必要がある。教師たちの同僚との関係を紡ぎ、信頼関係を耕し、専門職としてのネットワークを豊かに広げることがスクールリーダーに求められる。例えば、校内研修を教師たちが特定のテーマについて探究するワーク形式に仕立てたり、授業研究を推進して同僚間の授業の見合いと子供たちの学ぶ姿の共有を後押ししたり、教科横断の新しいカリキュラムづくりを組織したり、地域の企業や団体の集まりに教師たちを連れて行ったり、全国または国際規模の学会や会合に教師たちが参加するのを奨励したりなど、多様な試みが考えられる。

 また、教師たちの現在主義的性質を和らげるためにスクールリーダーがなすべきことは、教師たちとともに、この現代に起こっている科学技術の急発展と暮らしの変貌に見られる社会変化への見識を深めていくことである。社会変化とはすなわち、産業社会から知識社会への移行であり、気候変動による想定外状況の多発であり、グローバリゼーションの拡大による多様性の高まりと新型コロナウイルス感染症パンデミックに象徴される地球規模の問題拡張などによる社会情勢の変化である。そして、スクールリーダーは未来志向の学びとカリキュラムを教師たちと子供たち・若者たちと協働してデザインし、現在から未来へと視野を拡張して教育実践と学校組織をカタチづくっていく必要がある。エージェンシーは、個人・社会・世界のより良い未来=ウェルビーイングを実現するために責任をもって行動する力である。この「より良さ」という未来志向のビジョンを学校に打ち立てない限り、子供たち・若者たちはおろか教師たちもエージェンシーを発揮し育むことは難しくなるだろう。

教師エージェンシーを育成する学校組織

 これら教職に内在する個人主義・現在主義・保守主義を和らげて教師エージェンシーの育成を推進するには、専門職の学び合うコミュニティとしての文化を学校に成熟させていくことが必要になる。専門職の学び合うコミュニティは、子供たち・若者たちの「学びと育ちを保障することを教育実践の大黒柱に据え、教師たちの組織学習にもとづく協働とケア、子どもの学びの実態に即した評価に基づく実践の実態把握と成果検証、この2つの支柱を支えとしながら常に改善し続けていく文化の特徴をもつ学校組織」(木村2019、p.9)である。授業研究やカリキュラム協働開発といった協働システムを構築・推進し、そのシステム内で子供たち・若者たちの学びと育ちの実態に根ざした省察的で情動的なコミュニケーションを奨励する。そうすることで、教師たちは学校のビジョンを共有し、互いに助け合い学び合いながらより良い授業、より良い学校、そしてより良い社会と世界を実現すべくエージェンシーを発揮し育んでいくことが可能になるのである。

 そして、教師たちが子供たち・若者たちとエージェンシーをともに発揮して学び合い育ち合う「共同エージェンシー」(OECD 2018)という堅固な岩盤が現れる。それが、専門職の学び合うコミュニティとしての学校文化の成熟をさらに支えてくれることになるだろう。

 

 

[参考文献]
・Argyris, C. & Schön, D.(1974)Theory in Practice:Increasing professional effectiveness, New York:Jossey Bass.
・Bandura, A.(2006)Toward a psychology of human agency, Perspectives on Psychological Science, 1 (2), pp.164-180.
・Hargreaves, A.(2010)Presentism, individualism, and conservatism:The legacy of Dan Lortie’s Schoolteacher:A sociological study, Curriculum Inquiry, 40(1), pp.143-154.
・木村優「授業研究が実装する専門職としての教師の資本育成と学び合うコミュニティ成熟機能:授業研究の歴史的展開を踏まえた理論研究」『教師教育研究』(福井大学大学院連合教職開発研究科紀要)、第12号、2019年、pp.3-11
・Lortie,D.(1975)Schoolteacher:A sociological study. Chicago:University of Chicago Press.
・文部科学省「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」中央教育審議会、2012年8月28日
・Schoon,I.(2017)Conceptualising learner agency:A socio-ecological developmental approach,Center for Learning and Life Changes in Knowledge Economiesand Societies Research Paper,64,https://www.llakes.ac.uk/sites/default/files/LLAKES%20Research%20Paper%2064%20-%20 Schoon%2C%20I.pdf
・Schoon,I. & Lyons-Amos,M.(2017)A socio- ecological model of agency:The role of structure and agency in shaping education and employment transitions in England, Longitudinal and Life Course Studies,8(1),pp.35-36.

Profile
木村 優 きむら・ゆう 
 1978年、東京都生。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了、博士(教育学)。福井大学大学
院教育学研究科機関研究員、同准教授、福井大学大学院連合教職開発研究科准教授、ボストン・カレッジ客員研究員を経て、現職。専門は、教育方法学、教育心理学。主著書に『情動的実践としての教師の専門性』(風間書房、2015年)、『「協働の学び」が変えた学校』(共著、大月書店、2018年)『授業研究』(共著、新曜社、2019年)など。

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