トラブルの芽を摘む管理職の直覚

中山大嘉俊

トラブルの芽を摘む管理職の直覚 [第8回] 「どうなんですか!」

学校マネジメント

2019.10.02

トラブルの芽を摘む管理職の直覚

[第8回] 「どうなんですか!」

大阪市立堀江小学校長
中山大嘉俊

『リーダーズ・ライブラリ 』Vol.8

「どうなんですか!」

 「○○さんとクラスを変えて」「ウチの子も悪いがそこまで叱らなくても」……。さまざまな要望やクレームが学校にきます。昔では考えられない理不尽なクレームが増えたのも事実です。

 企業ではクレームの発生は「お客の期待水準」を大きく下回ったときだと言われますが、学校も同じでしょう。教職員の資質の向上や教育活動の充実を図ることでクレームを失くすのが正道でしょうが、保護者の価値観、「期待水準」が多種多様ですので、それらをすべて満足させるのは困難です。そのため「クレームは必ずある」という前提に立って対策を講じることが実際的です。本校では「状況を悪化させ
ない」(対応)と「同じクレームを起こさない」(教訓化)に力を入れて、次のようにしています。

クレーム応対の基本を身に付ける

 クレーム応対については、4月に全体、生活指導部、学年等で、事例をもとに初期対応の大切さと、以下の対応を基本に「二重クレーム」を起こさないように徹底を図っています。また、クレームがあれば、すぐに学年主任、生活指導部長、管理職の三者に伝え、組織的に対応することを必須にしています。

•子供より先に保護者に伝える(先なら説明、後なら言い訳)
…例えば、子供同士のトラブルで子供が親に「△△君に〇〇された」などと伝えた後では、担任が事実関係を親に説明しても耳に入らないことがあります。トラブル対応では、担任が顛末を子供より先に保護者に伝えるか否かで後の対応のしやすさが違ってきます。

•クレームは最後まで聞いてクールダウンを図る
…教員が自身の指導等に自信を持つのは大切ですが、相手の話を途中で遮り反論するのはよくありません。どこに不満があり何を要求しているのか、その背景には何があるのかを聞き取るようにします。保護者からの電話であれば家庭訪問します。クレーム応対も「人と人とのコミュニケーション」ですので、相手が話や気持ちを分かってくれたという理由で学校の立場に理解を示すことも少なくありません。

•非があればきちんと謝る
…こちらのミスが明らかな場合は、まずきちんと詫びることです。例えば、保護者から体調が悪いので配慮してほしいと言われていたのにしなかった、鉄棒から落ちた児童が「大丈夫」と言ったので連絡帳に書いて帰宅させたところ、翌日、骨折が分かったといったことです。また、教員の何気ない言動が意図したことと違って子供につらい思いをさせたような場合には、そう感じさせた自身の配慮不足・至らなさを謝るようにします。

•具体的な解決策を提示して迅速に対応する
…クレームに対して、例えば「明日子供たちから事情を聞いたうえで、今後の対応策についてお知らせします」とその場で対応の方針を示します。判断がつきかねる場合は、主任や管理職に相談して返事する旨を伝えます。なお、トラブルが解決しても、その後の子供の様子を保護者と情報交換し、担任として“忘れていない、気にかけている”ことを伝えることも大切です。

共通のポイントは事実関係の明確化

 クレームの対象でその後の対応は若干異なりますが、それぞれの声を真摯に受け止めて改善すべきは対策し、結果に至るまでを教職員で共有・教訓化していきます。

•子供(保護者)同士
…事実関係の把握と双方の言い分を受け止めることが基本です。子供と子供、保護者と保護者とを結ぶことをめざして、例えば、当人同士の話し合いで解決させるなどの解決策を提示し、合意が得られれば実行に移します。家庭訪問や保護者との話し合いには学年主任や管理職などと複数で対応します。

•担任や担当教員
…クレームはすぐに発生するのではなく、担任と子供とのミスマッチが重なって不満が高まることで表面化します。そうなる前に、周りの教員がその担任に注意や助言ができる職場でないとクレームは他にも起きるでしょう。また、どの教職員も着眼点と指導の方向が同じことを、子供に分からせることも大切です。なお、学校で解決困難なケースは、法律の専門家に相談することも必要です。

•子供・学校
…「電車のマナーが悪い」「公園にごみを平気で落とす」などの子供へのクレームや「学校の道路側の緑が少ない」といったクレームが学校に入ることがあります。「早急に対応します。ご連絡ありがとうございました」の具体が公園清掃や花苗の植栽などの見える形になればより有効です。また、“隠ぺい”と思われないように個人情報には配慮してPTAや学校協議会に報告することも大切です。

子供の前で教員の悪口を言わないよう保護者に伝える

 民間企業と異なるのは、教員個人へのクレームが多いこと、子供と担任とは最低1年間は付き合っていかなくてはならないことです。担任にとってクレームは精神的苦痛です。担任を孤立させないで皆でフォローする職場でありたいものです。また、子供も担任と保護者との間で不安定な状態に置かれていることも忘れてはなりません。

 管理職の仕事の一つに、教員と子供、教員と保護者とを結びつけることがあります。保護者が子供の前で担任の悪口を言えば、子供も当然影響され、担任を信頼しなくなること、「苦情を言うなら学校に」と、入学説明会やPTA総会などのいろいろな機会、また、「校長室だより」等を通じて訴えるようにしています。

 

Profile
大阪市立堀江小学校長
中山大嘉俊
なかやま・たかとし 大阪市立小学校に40年間勤務。教頭、総括指導主事等を経て校長に。首席指導主事を挟み現任校は3校目。幼稚園長兼務。大阪教育大学連合教職大学院修了。スクールリーダー研究会所属。

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大阪市立堀江小学校長

大阪市立小学校に40年間勤務。教頭、総括指導主事等を経て校長に。首席指導主事を挟み現任校は3校目。幼稚園長兼務。大阪教育大学連合教職大学院修了。スクールリーダー研究会所属。(2019年3月時点)

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