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自己との対話で惑わない生き方を

NEWトピック教育課題

2019.07.26

インタビュー

大谷徹奘 氏 法相宗大本山薬師寺執事

『新教育課程ライブラリ Vol.1』2016年1月

全国を飛び回り老若男女に生き方を説く大谷徹奘氏。定期法話会や「こころの学校」という全国行脚の説法会などを行い、座の温まる暇もない毎日を送っている。時にはユーモラスに、時には迫力をもった語り口で、一人の人間としての生き方や末代までの幸せを考えるいのちの紡ぎ方などを説く。予測のつかない現代をどう生き抜くか、子どもたちに何を伝えるべきか─。大谷氏に聞く。

信念をもった言葉を伝える

■法話の作法

─毎日のように全国を飛び回って法話をされていますね。

 年間200回くらいですね。日によっては午前・午後と違う場所で法話をすることもあります。学校や教育関係の団体などに呼ばれることも多いですね。先日、ある小学校に伺って子どもたちの前で法話をさせていただきました。1年生もいて、黒板に字を書いたら、「先生、ひらがなで書いてもらわないと読めません」と言われて参りました(笑)。学校回りはかなり精力的にしていますが、そこで感じることは、子どもたちはピュアだし、子どもたちなりに悩みももっているということです。感想文の中に「先生、私を救ってくれてありがとう」とか「お話を聞いて死ぬのをやめました」などというのもあり、感激します。

─どういうところに気をつけて法話をされるのですか。

 子どもたちにとっては、私が人生で初めて見るお坊さんかもしれません。だから、そこで話を外すとお坊さん嫌い、仏教嫌いになるかもしれない。ですから、できるだけ子どもの目線に沿った話をしようと心がけています。教師の方々も日々一所懸命に子どもと向き合っておられると思いますが、宗教者だからこそ心に届く話もあります。だから、嫌われないように心を込めて話をしています。

 それから、信念をもって話すことですね。先日は、日蓮宗のお寺で法話をさせていただきました。薬師寺は法相宗ですので、東芝がソニーに乗り込むようなものです(笑)。教義としては受け入れられないものもあるかもしれませんが、人生の真実を語れば聞いてくれます。学校にしても、「なぜ講演に僧侶を呼ぶのか」というクレームをいただいたこともありましたが、信念をもって語れば、共感してくれます。ですから、言葉一つにしても、勉強して選んで信念をもった言葉として伝えるように心がけています。逆に、無意識に使ってしまった言葉にはクレームが付くことがあります。信念をもった言葉と何気なく使う言葉とでは相手にされ方が違うということです。ですから、私は一言一句に気合を込めて話します。僧侶として生きていく以上、これがつとめですから、絶対に手を抜くことはありませんね。

心を折らない生き方

■師匠からの教え

─最も影響を受けた人は。

 お釈迦様と玄奘三蔵と師匠高田好胤和上です。師匠には修行に入る前からずっと教えを受けました。実は私は、仏の道に入った後も、師匠の眼を盗んでは怠けたり、夜の街に繰り出したりと、あまりよい僧侶ではなかったのですが、師匠は常に分かっていて優しく諭してくれました。自暴自棄になって深酒をして師匠に呼ばれた時、厳しく叱られるかと思ったら、「お前は疲れているから休みなさい」と言われ、それをきっかけに改心したということもありました。ですから、私は、つらいことや苦しいことがあると、師匠だったらどう対応するのだろうかと考えます。さらに、玄奘三蔵だったらどうされるか、お釈迦様だったらどう行動なさるかと考えます。いつもそういう人たちと対話をして行動することで乗り越えようとしています。

─師匠高田好胤和上から教わったことは何ですか。

 萎えないこと、心を折らないことです。師匠も苦労を重ねてきた人です。しかし、決して萎えなかった。人間は心が折れたらいけません。竹のようにしなやかに生きることが大事です。競争で1等賞になろうがビリになろうが、人にレッテルを貼られる人生ではなくて、自己責任として受け入れることです。人を気にするから心が折れる。自分自身を受け入れて前向きに生きていけばいいのです。私も、これまで様々な苦難やトラブルもありましたが、鈍いようで、すぐに忘れてしまうし、それが法話のネタになったりします(笑)。

 それから、師匠から教わったことの一つに、いわゆる「イート・アンド・ドリンク」というのもありますね。立場を越えて人として付き合うということです。師匠は法話の後などに参加者とお茶を飲むことが多かったのですが、そこでは講師としてでなく、同じ人間として会話をし、お互いのことを話し合うんです。職業人が仕事をするのは当たり前。ですが、その前後をどう使うかによって仕事そのものや人間関係が変わってくるということです。学校の先生は今、すごく忙しいと聞いていますが、よい授業をするのは当たり前だと思います。むしろ、その前後にどう子どもと向き合っているかが、教師としての生き方に大きく影響するのではないかと思います。

自己対話が自らを救う

■静思のすすめ

─「静思」を説かれていますね。

 「静思(じょうし)」とは自己対話のことです。自分に与えられたものをしっかりと見つめ積極的に受け止めているか、初心を忘れていないか、相手の心を忘れ自分の思いだけで生きていないか、といったことを自問することが第一歩です。私はよく、「あなたはひもで括られて仕事をしているのですか」ということを言います。例えば、会社員なら、あなたを会社が括って入社させたのですか、学校の先生なら、あなたを教育委員会が括って学校に無理やり入れさせたのですか、ということです。考えてみれば、自分で決めてその道に入っている。しかし、それを忘れて今の状況を恨んだりすることが多いですね。人間は汚い生き物です。辛い、苦しい、悲しいが並ぶと文句しか言わなくなります。しかし、そこで心を折ってしまったら、周囲の人に迷惑をまき散らすことになります。自分が苦しいからといって自殺をしてしまったら、家族や友人ら多くの人の人生に消せない傷をつけてしまうことになるのです。だから、常に、自分と対話をして腹をしっかり据えることが大事なのです。自分が選んだ道、自分なりの自分を常に思い返すこと、それが静思です。静かに自分を見つめ、辛い、悲しいという現象だけを見るのでなく、どこに出口があるのか、自分は今何をしなければならないのか、何のために何をすればよいのかということを、自分に腹据わりさせるための対話が静思です。人の言葉に揺さぶられている間は自分自身が見えてきません。自分の言葉で自分と対話することが大事なのです。

─ご自身の静思は。

 私にも迷いはたくさんあります。しかし、自分だけが迷っているわけではないと思っていますので、周りの人たちが何に迷っているのかを考えます。それから、自分には、どんな自分になりたいのかということを問いかけます。どんな自分でいればよいのか、法話の時にもどんな自分をお見せできればいいのかということを常に考えます。


全国で開催される法話会や講演は年200回にも及ぶ。学校巡回も多く、東日本大震災後は東北地方にも足繁く通っている。

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特集 新教育課程型授業を考える─アクティブ・ラーニングの理論と実践

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