solution ●手法 家庭背景や発達段階の課題を持つ子供への具体的なアプローチ
トピック教育課題
2022.06.24
solution ●手法 家庭背景や発達段階の課題を持つ子供への具体的なアプローチ
北海道有朋高等学校通信制課程教頭
小林洋介
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.6 2022年3月)
本校は今年度で創立73年目を迎える北海道唯一の公立通信制高校であり、定時制課程(三部制の完全単位制)も併置している。また令和3年4月から「遠隔授業配信センター(通称T-base)」が開設され、道内の離島や小規模の道立校27校へ授業を配信している。通信制課程の在籍生徒数は約3000人で、その約半数が全道各地にある32の協力校でスクーリング(面接指導)を受けている。また、技能連携制度により高等専修学校2校で学んでいる生徒が約300人在籍している。本校在籍者のうち定職に就いていない10代が6割以上を占めている。
生徒の問題行動等の背景には、個々の生徒の発達状況に関わるものと、家庭や友人関係等生徒の生活環境に関わる問題がある。この問題が複雑に絡み合い、学校だけでは解決できないケースがとても多く、関係機関等と連携した対応が継続的に求められている。さらに通信制課程の特性上、非受講生(在籍だけして学習していない生徒)や卒業生、中途退学した生徒が、悩みを聞いてもらいに来校するケースもある。学校以外の相談機関を知らない生徒(元生徒)にとって、学校が福祉的支援・心理的支援へつなぐ地域資源としての重要な機能を果たしているといえる。
具体的事例と新たな試み
スクールソーシャルワーカー(以下、SSW)、スクールカウンセラー(以下、SC)が継続的に支援をしている例を紹介する)例は部分的に脚色)。
〈例2〉生徒B両親の離婚後、父方の実家で暮らすが祖父母から虐待があり、メンタル不調、自傷、薬物多量使用(OD)を誘発。母が呼び寄せたが、メンタル不調は変わらず続き希死念慮も生じてきている。本人は入院を希望している。
〈例3〉生徒C精神衛生保健福祉手帳取得。中学時、父親から虐待を受ける。以来、精神的に落ち着かない状況になり、不安になると自ら警察等に電話し話を聞いてもらうことがある。卒業後は進学と自宅を離れた生活を希望。自傷行為、ODあり。本校から数百km離れた地に住んでおり、Zoomを活用しオンラインでSC・SSWとの教育相談を実施。電話とは違い相手が見える安心感があり、とても印象のよいものであったとの感想を双方から得ている。
相談窓口になっているのが保健室(養護教諭)と教育相談係(生徒指導部)である。直接、保健室に来室し相談依頼することが一般的であるが、入学時に提出する健康調査票の相談希望の有無確認欄で「希望有り」とした生徒に対しては、電話による教育相談を行ったり、登校日に相談機会を設けたりして対応している。生徒・保護者が望んだ場合は、日時を設定して相談活動を行い、内容によっては協議の上SC・SSWへつなぐケースもある。在籍生徒が全道に及ぶ本校では、実施校(北海道有朋高)へ通うことができない協力校生徒が、電話で担任に相談をし、その内容を担任が教育相談部につなぎ、SC・SSWと連携するケースも少なくない。今年度、実施校へ来ることのない協力校生徒に対しオンラインの教育相談を実施した(例3)。
これからの課題と展望 「チーム学校」で「最高の砦」をめざす
「チーム学校」の一員としてSSWには福祉的側面、SCには心理的側面から支援をいただいている。また今年度より地域若者サポートステーション(以下、サポステ)と協働した相談会を校内で複数回実施した。サポステは、「地域の保健室・進路指導室」の異名を持ち、在学中の生徒のみならず卒業後においても相談業務に応じていることを周知した。本校には全道各地にたくさんの不登校傾向の生徒が在籍している。その多くが発達状況における課題(コミュニケーション能力不足、精神疾患、発達障害等)と、家庭環境に関わる課題(貧困、虐待、非行、引きこもり、ヤングケアラー等)を抱えている。SSWからは「有朋高校は北海道の高等学校の仕組みにおける『生活保護』のような存在です」と評され、複雑化・多様化する問題に対する適切な支援は、本校の喫緊の課題となっている。配慮を要する生徒として把握している数が実施校126人、協力校153人であり、特に協力校生徒に対しては、定期・不定期のSC・SSW派遣や、効果的な支援体制の構築がなされていなかったことが課題であった。今年度より協力校生徒に対して、試行的にオンラインによる相談活動を実施し効果を実感した。今後はその効果を適切に検証・評価し、活用していく組織体制づくりの充実を図っていく。学校における福祉的・心理的支援によって生徒と家庭、地域の関係機関を確実につなげることが、安全に安心して学校生活を続ける上で重要である。特に生徒・保護者に対しては、制度的な情報のみを伝達するだけでなく、実際の行動に移れるような具体的な情報を提供する必要がある。そのためにも、校内連携によるチームサポートと、関係機関との連携によるネットワーク体制の構築が不可欠である。チームのメンバーはいつ、誰が、どこに、何を、どのように働きかけていくかについて、互いの役割を相互に理解することが重要だ。早急な構築と運用に向け、変化を嫌いともすれば前例踏襲に陥りがちな教職員の意識改革と一体的に取り組んでいきたい。
通信制課程への進学者数は増加し続けており、地域資源としての需要が高まっている。通信制課程を高等教育の学びにおける「最後の砦」と標榜する書もある。生徒がこの学校に来てよかったと思える「最高の砦」となるよう、学校が一人一人に寄り添った指導や支援を行い、生徒に社会を生き抜く力を身に付けさせ、自らの将来を切り拓いていく手助けをすることを、その役割として再認識するところである。
Profile
小林 洋介 こばやし・ようすけ
平成8年度に北海道有朋高校単位制に着任し教員生活が始まる。教科は地歴公民。北海道中標津高等養護学校(現・北海道中標津支援学校)、北海道枝幸高等学校、北海道稚内高等学校全日制課程にて教頭を歴任。令和3年4月より北海道有朋高校通信制課程教頭に着任。