特集 2022年 最強の学校組織をつくろう コラボレーションでつくる未来の学び ─コロナ禍だからこそできる新たな次元の学校づくり

トピック教育課題

2022.05.06

特集 2022年 最強の学校組織をつくろう
第2部 「令和の日本型学校教育」を実現するこれからの組織マネジメント

コラボレーションでつくる未来の学び
─コロナ禍だからこそできる新たな次元の学校づくり

千葉県富里市立富里南小学校長
古谷成司

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.5 2022年1月

コロナ禍だからこそ見出せた子どもたちの新たな学びの形

 新型コロナウイルス感染症拡大により、すっかり学校教育が変わってしまった。特に、学校外の人とのふれあいという面ではめっきり少なくなり、様々な体験学習が中止、もしくは、縮小という形をとらざるを得なくなった。千葉県の多くの学校では、小学6年生が「ゆめ・仕事ぴったり体験」という半日程度の対面での職場体験学習を行ってきたが、この学習も事業所の受け入れができないことから中止になっている。

 文部科学省から「学びの保障」をとの声があるが、この職場体験学習が職業講話のような形になってしまっては「学びの保障」にはならない。したがって、オンラインでも職場体験が可能になるよう、東京都内にある出版社(株式会社オフィス303)にオンラインでの職場体験学習をお願いすることにした。具体的には子どもたちは部下となり、上司である編集長から作家にインタビューして記事を書きそれをWebにアップする指示を受け、仕事をする体験であった。

 実際に体験が始まり、子どもたちを待ち受けていたのが編集長の駄目出しである。例えば、インタビューする前に考えた質問を編集長に提出したところ、「この質問ではどう答えたらいいかわからないよ」と突き返されるのである。また、インタビュー記事を作り上げて見てもらったところ、「まるで作家がここにいるような文章にしなさい」と修正が求められる。


オンラインで編集長の指示を受けている様子

 全てを終了するのに1か月半を要したが、その場所に行かなくても体験できるオンライン型だったからこそ可能になった職場体験であり、本来こういう体験であってもらいたいと願う形になった。担任も実際に事業所に行く形よりも何倍も望ましい学びになったと喜んでいた。

 今年度もオンライン職場体験学習を実施している最中であるが、1人1台タブレット端末が導入されたことにより、さらにバージョンアップした。子どもたちが作成した資料をオンライン上で画面共有しながら提案したり、ブレイクアウトルームをつくって複数の職業人にインタビューができるようにしたりと更なる発展を見せている。

 このように、コロナ禍で教育活動が縮減されていくことに対して、ただ嘆くだけのリーダーはこれからの学校は望んでいない。

 本校では運動会に入場門も退場門もない。校門に立て看板も置かない。万国旗はベランダの手すりに1枚1枚結びつけるだけ。こんな簡素な運動会でも保護者は好意的に受け取ってくれている。

 ある意味今だからこそ変えられることがある。ビルド&ビルドだった学校を今こそスクラップ&ビルドして、そこから新しい光を見出していきたいものである。

コロナ禍だからこそ教員の学びを変えるチャンス

 コロナ禍で様々な活動が制限されているのは子どもたちの教育活動だけではない。校内の研究も以前とは異なってきているが、3密を避ける制限のある中でも新たな光を見出したい。

 そのような中で生まれたのが“教員の個人研究”である。コロナ前は各学校で共通の研究テーマを決め、定期的に授業研究を校内全員で行い、時には教育委員会から指導主事を要請して指導を仰ぐ等しながら校内研究を進めてきた。

 しかしながら、コロナ禍ではなかなか大勢で一つ所に集まっての研修は難しい。

 そこで、少人数で実施できる研究スタイルにシフトすることにした。従来の学校統一の研究ではなく、個人が高めたいと考えている課題、例えば、「タブレットの活用」「授業中の意欲の持続のさせ方」「子どもの興味・関心を高める理科学習」等、教師各々の課題に応じて個人研究をベースに進めることとしたのである。最終的に2022年2月に個々が研究の成果についてプレゼン発表することになっている。

 このように、個々が年間通して継続的に自分の課題を解決することを追い求める研究の形は今の時代に合っていると考えた。というのも、現在20代の若手教員がどんどん増え、40代のミドルリーダー層は人数が少なく、50代のベテラン教員はそれなりの人数がいる。コロナ禍ではなかなか世代間の交流が生まれづらく、学校統一のテーマで研究を行うよりは、個々に課題解決を追い求める方が本人の研究に対するモチベーションを高めることにもつなげることができると考えたからである。

 ただし、こうした個人研究の場合に懸念されるのが、研究が独りよがりになったり、視野が狭くなったりすることである。

 そこで、校内でグループを組んで授業を見てもらい、同僚からアドバイスを受けることや、午前中に市教委の指導主事に授業を参観してもらい、放課後に授業者と指導主事で時間の都合をつけてマンツーマンで指導をもらうことにより、決して個人研究が独りよがりにならないようにした。

 また、視野が狭くならないように、「タブレットの活用」が課題になっている教員には、先述したオンライン職場体験学習で企業の方の力を適宜借りながらタブレットの活用を図る研究を進めた。

 「子どもが自らの思いを表現する」ことを課題にした音楽専科の教員は、大学の准教授と連携しAIAIモンキー(アクティブブレインズ社提供)の活用を図ることとした。


AIAIモンキーでグラフィカルに表現された全員の意見

 AIAIモンキーは、一人一人の意見をAIを使って瞬時に可視化する協働学習支援ツールである。子どもたちの多様な意見がグラフィカルに表現され、意見の共有や理解が深まるとともに、自分の意見を述べることが苦手な子どもにもやさしく、全員参加型の話し合い活動の実現につながる。

 敬愛大学教育学部の阿部学准教授には、鑑賞の授業において子ども一人一人が思いを共有し共感し合えるようにAIAIモンキーの効果的な活用方法について指導をしていただいているところである。

 このようにして、外部の力を適宜借りながら、そして、同僚のアドバイスをもらいながら一人一人が自らの課題を解決するようにしている。中央教育審議会答申による「これからの時代の教員に求められる資質能力」の中に、「学び続ける教師像」の確立がある。いわば“教師版個別最適な学び”のような形で個々の教師力を伸ばすことで「学び続ける教師像」に近づけることができるのではないかと考える。

いつまでも学校は「してもらう」ばかりではいけない

 先に述べた職場体験学習をはじめとして様々な体験学習がコロナ禍によりストップしたが、徐々に再開し始めている。5年生が米作り体験をしている学校を多く見かけるが、本校でも地元の農家のご協力をいただき、田植えから収穫まで行うことができた。

 コロナ禍以前は、収穫した米は家庭科の調理実習や収穫祭で用いたり、時にはバザーで販売したりしていたようだが、コロナ禍ではこうした活動は制限されている。では、この収穫した米をどのようにすべきなのだろうか。

 このことを考える前に、学校は「社会に開かれた教育課程」について考えてみたい。「社会に開かれた教育課程」の実現により、“より良い学校教育を通じてより良い社会を創る”という目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、新しい時代に求められている資質・能力を育むとされている。

 「新しい時代に求められている資質・能力」とは何だろうか。私はその一つが「利他的に生きる」ことだと考えている。これは、誰かのために、世の中のために役に立つことを自らの喜びとする生き方だと考える。

 これまでの教育課程では、地域の方々等外部の支援により教育活動を進めてきた。米作りや職場体験学習等々、どちらかというと子どもたちは外部の人に「してもらう」教育活動が多かったのではないだろうか。

 「利他的に生きる」子どもを育てるには小学生のうちから社会の役に立つことを体験させることが大事ではないだろうか。

 そこで、収穫した米の活用方法として「世のため人のために使うこと」につなげることとした。私が学習コンテンツづくりに関わった日本マクドナルド株式会社が提供する「食育の時間」を活用して、食品ロスに関する授業を行い、その中でフードバンクを取り上げた。

 そこから、収穫した米を「とみさとフードバンク」に預けることにつなげていった。このフードバンクを取り扱っている社会福祉協議会の職員の方に来ていただき、フードバンクで役立ててもらうようこのお米を手渡した。職員の方から感謝の言葉を直にいただくことができた。自分たちの行為が誰かのためになり、そして、感謝される。こうした行為の積み重ねが「利他的に生きる」子どもを育てることにつながるだろう。

 こうした教育課程を組んでいくことが、これから求められる「社会に開かれた教育課程」なのではないだろうか。

 何も体験することだけが「利他的に生きる」子どもを育てることではなく、日常の授業の中でも可能である。

 例えば、3年社会科のスーパーマーケットの学習では、ペットボトルやトレイ、紙パック、缶等のリサイクルを取り上げているが、このことがスーパーマーケットにとって直接的に利益につながっているわけではない。こうしたことも「世のために」行われていることであり、それを取り上げて気づかせていくことが必要である。

 このように、様々な教育活動の中で、利他的な生き方に触れさせていくためにも、我々教員がこういう視点をもっていくことが重要となってくる。

コミュニティ・スクールで課題を解決する教育課程につくりかえていく

 文部科学省が各学校においてコミュニティ・スクール(以下、「CS」)を立ち上げるよう求めている。CSは、学校と保護者や地域の皆さんがともに知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで、一緒に協働しながら子どもたちの豊かな成長を支え「地域とともにある学校づくり」を進める仕組みである。本校においても立ち上げの準備を進めているところである。

 学校評議員制度をそのまま移行するようないわゆる「なんちゃってコミュニティ・スクール」ではなく、CSの委員の方々や学校に協力してくださる方々、子ども、保護者、教職員が一緒になり、子どもを中心として学校や地域の課題をこのCSの取組の中で解決していくことが必要である。

 このCSにおいても軸は「利他的な生き方」であろう。本年度の全国学力・学習状況調査の質問紙調査で「地域や社会をよくするために何をすべきかを考えることがある」かという設問に対して、「当てはまる」が8.1%、「どちらかといえば、当てはまる」は35.5%であり、地域や社会に目を向けていないことが結果からわかる。とはいえ、いきなり地域や社会をよくすることを子どもたちに考えさせるのは難しい。そこで、身近な課題から地域や社会について考えさせることから始めることが得策だと考える。

 例えば、本校は4年生から自転車通学が始まり、安全な登下校が大きな課題となっている。子どもたち自身でこの課題を解決させていくことが考えられる。子どもたちが通学路の危険箇所・自転車の望ましい乗り方を考え、スクールガードや防犯組織に携わる地域の方々に意見をいただいて、タブレット端末を使って自転車安全マップを作成する。そして、それを翌年に自転車通学を始める3年生に対して作成したマップを使って教えていく。この他にも地域には子どもたちが関われる福祉的な課題もある。

 このように、CSの取組を通して子どもたちが地域や社会の課題解決の一助になっていき、本当の意味での「地域とともにある学校」になっていくのだと思う。

 コロナ禍が明けても決してコロナ前の学校に戻してはいけない。地域、企業、大学等学校外の様々な力を借り、学校にとって真に必要な教育活動が何かを考え、新たな次元の学校を創り上げていくべきである。

 

 

Profile
古谷成司 ふるたに・せいじ
 千葉県小学校教諭、富里市教育委員会指導主事、富里市立富里第一小学校教頭、富里市教育委員会主幹、富里市立富里中学校副校長を経て令和2年度から現職。平成15年度からNPO法人企業教育研究会の理事を務め、日本マクドナルド株式会社「食育の時間+(プラス)」やLION株式会社「衛生習慣教室」等、数々の企業と連携した授業づくりに携わる。

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