Leader’s Opinion~令和時代の経営課題~

山本宏樹

Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~ [今月のテーマ]必要な校則とは何か 校則見直しの3ステップ 山本宏樹

トピック教育課題

2022.05.09

Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~
[今月のテーマ]必要な校則とは何か
山本宏樹+妹尾昌俊

東京電機大学准教授
山本宏樹

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.5 2022年1月

校則見直しの3ステップ

 校則見直し運動が本格化している。文部科学省も本年6月の事務連絡にて「学校における校則の内容や校則に基づく指導」を「絶えず積極的に見直」すように求めており1、「校則を全廃した学校」が賞賛される社会的風潮もある。ただ、それぞれの校則には教師の想いや学校側の事情が伴っており、何をどう見直せばよいのか悩まれている関係者もおられよう。

[注1] 文科省事務連絡「校則の見直し等に関する取組事例について」(2021年6月8日)

 そもそも法は人類が生み出した文明の利器であって「校則を無くせば、自動的に学校が良くなる」といった簡単な話ではない。校則をどのように活用して「校則の不要な生徒集団」を育てていくかが重要である。

 では、具体的に何から見直していけばよいだろうか。拙稿では校則見直しを便宜的に3つのステップで考えてみたい。

①法と科学に基づく校則精選

 校則見直しの第1ステップは「法と科学に基づく校則の精選」である。例えば、文科省の通知2を根拠として、2015年以降、服装規程の見直しが各地で進められており、すでに4割の高校で女子生徒のスラックス着用が認められているという3

[注2] 文科省通知「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(2015年4月30日)
[注3] 内田良「服の自由化 大人が消極的 コロナ禍の校則見直し」(Yahoo!ニュース、2021年9月13日)

 性の在り方をめぐる議論は非常にセンシティブであり、生徒から許可願や自由化の申し立てが出されるのを待たず、学校が積極的に校則の見直しを進める必要があるだろう。

 科学という点では「日焼け止めクリームの使用解禁」も近年の校則見直しの好例といえる。世界保健機関は2000年代前半から子ども時代の日焼けが後年の皮膚がんや白内障のリスクを高める点に警鐘を鳴らしており、国内でも2015年に日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会が耐水性日焼け止めクリームの使用を推奨するに至っている。

 学校管理下で重度の日焼けが起こった場合には責任問題に発展する場合もあり、千葉市など一部自治体ではすでに「使用許可制」から「使用推奨」に舵を切っている。プールの水質汚濁が懸念される場合は、ラッシュガードとの併用が望ましい。

 「旅行届の提出」「友人宅への外泊の禁止」、早帰りの日に午後4時までの外出を禁止する「4時禁」などの「家庭生活のきまり」についても精選が必要である。そうした細かな「家庭生活のきまり」が家庭や地域の「学校依存」を助長し、学校の多忙化を促進させている、という識者の指摘は重要である4

[注4] 内田良「学校は変われるか」『日本労働研究雑誌』2021年5月号、p.47

 校則を削除したうえで、必要に応じて各家庭に個別支援を行うのがよいだろう。

②必要な校則の整備

 削減ばかりが「見直し」ではない。第2ステップとして、校則や規程を新設・明文化することも検討する必要がある。

 例えば文科省は2006年の通知で「懲戒基準の明示と周知徹底」を求めている5。児童生徒や保護者に対して説明責任を果たし、生徒の「自己指導力」を醸成する目的の他、指導内容をめぐるトラブルや不適切指導を予防するためにもこの点は重要である。

[注5] 文科省通知「児童生徒の規範意識の醸成に向けた生徒指導の充実について」(2006年6月5日)

 近年、各種法整備の結果、教師の指導の適切性をめぐって各地で検証委員会の設置が相次いでいる点にも注意が必要である。児童生徒の問題行動に対して指導を行う際、「ルールの事前告知」「十分な事実確認」や「弁明機会の提供」を怠ったり、「過酷な懲戒」を加えるなどした結果、生徒の自死や不登校といった重大事態を招くケースが多く、「学内停学」や「別室指導」などをめぐって法的に問題のある懲戒運用も目立つ。

 「中学生らしい髪型」等の曖昧な表現についても紛争のもとになるため、現在進行中の『生徒指導提要』の改訂動向も睨みながら、具体的基準を周知していくべきであろう。

③校則見直しルールの制定

 第3ステップとなるのは「校則見直しルール」の制定である。個々の学校の実情や校風、児童生徒の顔ぶれによって「必要な校則」は異なり、見直した校則に正統性を付与するプロセスも必要である。そのためには、柴山文科大臣(2019年当時)も述べているとおり、学校共同体のメンバー(児童生徒、教職員、保護者など)で柔軟に校則等について協議・承認できる制度を導入することが有効である。

 一から検討するのは困難であるが、幸いなことに、すでに各地の先駆的事例がインターネット上に公開されている。以下のキーワードをインターネットで検索することで、多くの情報が入手できるだろう。
・長野県辰野高校三者協議会(1997年〜)
・高知県奈半利中学校三者会(1998年〜)
・私立大東学園高校三者協議会(2003年〜)
・熊本市教育委員会「校則・生徒指導のあり方の見直しに関するガイドライン」(2021年3月)
・日本若者協議会「校則見直しガイドライン」(同年10月)

「校則見直し」実践を成功に導くために重要なスタンスは「迷ったら解禁して様子を見る」である。例えば「下着・肌着の色指定」や「学級間の往来禁止」「置き勉禁止」などの校則には擁護論もあるが、校則で一律禁止にする合理性は乏しい。

 生徒の異議申し立てに対して、なんだかんだと理屈をつけて門前払いを続ければ、生徒の主体性は萎え、諦念や鬱屈した反発心が残る。それよりも「獲得した自由を適切に使いこなすこと」を条件に解禁してみるのがよいだろう。

 問題が発生した場合は話し合いや個別指導で対応し、どうしても問題が解決できない場合は、その経緯を根拠として再度禁止することもできる。

 校則をめぐって教師と生徒が一進一退を演じるなかで、生徒会活動に活力を取り戻すこと。それこそが「校則のない学校」への通行手形である。

 

 

Profile
山本宏樹 やまもと・ひろき 
 一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は教育科学・教育社会学。2012年東京理科大学助教、2016年東京電機大学助教、2019年から現職。近著に「校則指導の新たな争点:生徒指導の法化と修復的実践」エイデル研究所『季刊教育法』第204号、2020年3月、pp.22-29。「GIGAスクールの科学的根拠(エビデンス)」『教育』2021年11月号(通巻910号)pp.29-36など。

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