特集 Keynote 対話型授業を創る

トピック教育課題

2022.03.07

特集 対話の研究〜対話型授業の創造〜
Keynote 対話型授業を創る

金沢学院大学教授
共創型対話学習研究所長
多田孝志

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.4 2021年11月

 新たな社会の到来を視野にいれつつ、希望ある未来社会を構築できる人間の育成を希求する対話型授業の考え方と実践の在り方について考察していく。

対話型授業とは

 対話とは、自己をみつめ直し、人と人・事象・多様な生命体をつなぎ、見方や考え方を広げ、深め、感じるこころを育みつつ、そのつなぎの結び目から新たな解や叡智を創出していく行為であり、対話型授業は学びの世界で、対話の機能を実現していく活動である。

 グローバル時代の対話型授業を「自己内対話と他者との対話の往還により、差異を尊重し、思考を深め、視野を広げ、新しい知恵や価値、解決策を創り上げていき、その過程を通して、参加者相互が、共創的な関係を構築していく協同・探究的な授業」と定義しておく。

 対話型授業の教育的意義、それは、一人一人に自己の潜在能力・可能性への自信をもたせること、さらに、他者とともに新たな知的世界を拓く愉悦を感得させることにある。

対話のとらえ方を広げる3側面

 対話を活用した授業の成果を高めるためには、対話のとらえ方を広げる必要がある。筆者は、対話には下記の3つの側面と3つの要素があると考えている。

 第一は、「科学的側面」である。相手に自己の考えや感想をわかりやすく伝え、説得ある表現をするためには、科学的な思考や論理的な説明力が必要である。他方、相手の伝えたいことを的確に把握するためには、科学的とらえ方、すなわち情報分析力や、要約力、分類・整理力が不可欠なのである。

 第二は「芸術的な側面」である。芸術を表現者と鑑賞者による美の共創ととらえれば、そこに介在する重要な要素は、構図、色彩、配置、間の取り方といった技能の習得ではないであろうか。その技能を錬磨していく探究心が芸術としての価値を高めていく。相手を意識しての技能の習得、それは対話にも共通することである。さらに対話でも絵画や舞台芸術などと同じく、基礎的技能を習得し、さらに実体験を重ねていくことが高次な技能を習得させる。

 第三は「霊的側面」である。これは不可視的側面と換言してもよい。対話においてきわめて重要なのは、言語表現の背景への想像・イメージ力である。また、直感・気づき、響感、琴線に触れる(心の奥底にある感情が共鳴し合う)ことが相手の真意を把握するために大切である。

 対話の3側面を意識し実践することにより、対話のとらえ方が広くなり、授業において皮相的でない、深い次元での相互理解、相互信頼ができていく。

対話型授業の取り組み方

 対話型授業の在り方・取り組み方について下記の3つの観点から考察する。

(1)個としての学び
 指導の個別化と学習の個性化を学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」とされる。ここでは、対話型授業において、個別最適な学びを実現する基礎作業として、子どもたちが、対話に取り組むための基盤形成について述べる。

 対話型授業において個としての学びとして、重要なことは、自分の考えをもつこと、知的好奇心を喚起すること、自己変革力を高めること、自己回復力(レジリエンス)を育むことであろう。

 自分の考えをもつことには多少の訓練が必要である。日頃から、日常生活や社会生活上の問題に関心をもち、それに対して、しっかり自分の意見をまとめる訓練をしておく、さらに、多様な視点から根拠を挙げるように心がけると説得力ある意見をもつことができる。

 知的好奇心の喚起による、気づき・発見は、問いを生起させる。その疑問について、自己と対話することにより、思考を深め、視野を広め、「知りたい、話し合いたい」との他者との対話への意欲が高まっていく。

 個としての学びにおいては、自己変革力、すなわち、自分の考えをしなやかに変化させる柔軟さをもたせたい。批判されるたびに自分の考えを変えるのはよくない。しかし逆に頑なに自分の意見を変えないのでは対話する意味がない。相手の意見に納得したら、逆に積極的にそれを生かし、新たな自分の意見を生み出していく柔軟性を互いにもつことが大切である。

 きわめて重要なことは、自己回復力を高めておくことである。全国各地で先生方と語り合うと、共通していることには、子どもたちの自己回復力の低さがある。一度失敗したら、再度チャレンジすることがほとんどないという。国際社会では批判・反論はむしろ当然のことである。批判・反論されるには、自分の意見を尊重した、論議する価値があると認めたからと受け止め、さらなる自己見解を表出するための自己回復力を高めておきたい。

 個としての学びは、現象としては、振り返り・省察の時間を重視する。その具体例を以下に集約した。

 自己の内部にあるものを掘り起こし、心に生じることを明確にしていく時間。他者が伝えてくる多様なものを受け止め、組み合わせたり、また統合したりして、消化し、自分のものにし、自己見解を再組織する時間。身体感覚・五感を通して得たものを言語化する時間。微かな、わずかな表現から他者の伝えたいことについて感じ取り、推察する時間。早発への強制を脱し、混沌・混迷をへて、納得できる自己見解の創発に向かう時間。

 こうした対話の基礎力を個々人が高めておくことが、深い対話を生起させる。

(2)協働的な学び
 対話型授業は、新たな解や叡智の共創を目指して、対話を活用し、協働して探究する学びである。具体的な要件を列挙していく。

◯個々人の潜在能力への信頼、個性の尊重と活用
一人一人に豊かな可能性と潜在能力がある、このことへの信頼が対話を拡充する。

◯応答
対話とは応答である。相手の伝えてきたことをきちんと聴き取り、自己見解を表現することが基本である。

◯「相互支援関係」の構築へ
主体性・探究心を育むためには、参加者が互いに、支援し合い、啓発し合う「相互支援関係」の構築を目指したい。

◯多元的視点
様々な視点からの意見や見解、時空を広げた立体的見方、人間だけでなく多様な生命体の視点等々、多元的な視点をぶつけ合うことが論議を拡充する。

◯勇気・冒険心・発想力
臆せず語る、殻を破り、発想を豊かにしてみる。こうした冒険心を共有することが、戸惑い、混乱がおころうとも、新たな知的世界を拓いていく。

◯批判的思考
批判とは、誹謗・中傷とは異なる。疑問点を質問する、納得いかないことにはさらなる説明をもとめる、反論する、こうした批判的思考の習得が必要である。

◯粘り強い探究心
一度出したまとめた結果を問い直す、振り出しにもどす、別の視点から検討し直す、こうした粘り強い探究心の継続を遂行する対話体験が探究心や対話力を高めていく。

◯感性的アプローチの重視
言語表現だけでなく、相手の真意をみとり、思いに共感するには、感性・感受性の練磨、さらに想像・イメージ力を高めることが必要である。

◯ときの重視
沈黙・混沌・混乱は創造の母体である。授業において、沈思黙考する時間の確保が次の高みへ導いていく。振り返り、省察の時間を意図的に設定したい。

◯無駄の活用
世界的な発見・研究の端緒が、無駄、役に立たない、とっぴな意見や実験結果から生まれることもある。授業においても、それらも大切にする姿勢をもちたい。

 

 筆者は、協働の学びの究極の目的は「類推・汎用力」を高めていくことと考えている。類推とは、特定の事物に基づく情報を、他の特定の事物へ、何らかの類似に基づいて適用する認知過程とされている。汎用力とは、既習の学習や体験を通して修得した思惟方式や行動様式を自分のものとし、新たに課題が出現した折に、解決・対応する力といえる。

 先行き不透明な社会に生きていくためには、「類推・汎用力」の育成こそ大切であり、それは、深い思考を探究する対話型授業の過程で育まれていく。

(3)グローバル時代に求められる学び
 社会状況はダイナミックに変化している。第四次産業革命により、社会構造が変化し、情報機器の飛躍的な発展によりシンギュラリティが現実化しようとしている。教育分野においても、Society5.0に対応した、持続可能な開発のための教育(ESD)やSDGsが提唱されている。文部行政施策として学校教育3.0が提示された。新学習指導要領はESDを「改訂の全体において基盤となる理念である」と、その重要性を明示した。

 世界に視野を広げれば、OECD(経済協力開発機構)により、「2030年に望まれる社会のビジョン」と「ビジョンを実現する主体として求められる生徒像とコンピテンシー(資質・能力)」を創造する「Learning Compass2030」が進められている。その方向として「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」の育成が掲げられている。

 SDGsの示す、17項目の開発目標は、グローバル時代の対話型授業で順次取り上げるべき学習課題である。単なる皮相的な知識の習得をこえて、「当事者意識をもち主体的に行動できる人間」を形成するためには、以下の要件による対話型授業の展開が望まれる。

・相互理解の難しさを自覚しつつ、臆せず、反論したり、批判したりし、相手の伝えたいことを把握し、自らの考えを、分かりやすく説明し、相手を共感・納得させ、理解を深めることができる。

・対立・批判や異見に傷つくことなくむしろ、それらを生かし、調整し、新たな解決策や智慧を共創していける。予想外の状況や内容の変化に応じて、臨機応変に対応していける。

・十分な情報がなくても、さまざまな情報を紡ぎ合わせ、統合し判断し対話を継続できる。

・相手の心情・文化や立場への響感力や想像・イメージ力をもつ。

・完全には分かり合えないかもしれない相手とも、できる限り合意形成をもとめて対話を継続していく粘り強さをもつ。

・論議の流れを把握しつつ、新たな視点や発想をもつ。

・ユーモアやアイロニー(上質の冗談)、ときには印象的なエピソードの挿入により、聴き手を引きつけることができる。

・相手に信頼される人柄(教養・知見・判断力、人間関係形成力)を高めていく。

 この稿のおわりに、対話型授業における教師の役割について記しておきたい。

 対話型授業では、雰囲気作りや、課題設定、課題への学習意欲を高める工夫が大切なことは論を俟たない。しかし、実際に対話型授業を日々実践していると、上記とともに下記の事項に留意することが大切と気づかされる。

 その第一は、子どもを受け入れることである。それが子どもたちの心を開き対話に向かう気持ちを高めていく。

 第二は、記憶することだ。教師が「〜のとき、〜ができたね」等の、さまざまな記憶を活用することが、自己肯定感を高め、発言への勇気をもたらす。

 第三は、伝えることである。対話の意義を説明し、論議では広がらないときは助言する。さらに、一人の人間として感じ、考えたことを伝えてもよい。

 第四は、ゆさぶりである。具体策としてコメントがある。位置付ける、視野をひらく、勇気づける、発想を促すなどに分類できる。

 第五は臨機応変の対応力である。学びの過程で臨機応変にさまざまな対話の形態を活用したい。

 

 対話型授業を展開すると、一人また一人と、野の花が咲くように、子どもたちが発言し、語り合うようになっていく。相互に質問し合い、次々と課題を発見し、探究していく。

 そうした授業を全国各地で仲間とともに創ってきた。対話型授業、それは、どの子もが自己肯定感を高め、生きる力を育む学びの営みなのである。

 

 

Profile
多田 孝志 ただ・たかし
 目白大学教授、青山学院女子短期大学、立教大学大学院、東京大学、学習院大学兼任講師、日本国際理解教育学会会長、日本学校教育学会会長、日本グローバル教育学会常任理事、異文化間教育学会名誉会員を歴任。現在、金沢学院大学文学部教育学科教授、共創型対話学習研究所所長、高校生海外留学事業(トビタテ)審査委員長等。「教育の真実は現場にある」をモットーに、全国各地の教育実践者たちとともに、21世紀の新たな教育の創造を目指した活動に取り組んでいる。主な著書に、『学校における国際理解教育』『地球時代の教育とは』『地球時代の言語表現』『未来をつくる教育ESDのすすめ』『対話力を育てる』『共に創る対話力』『授業で育てる対話力』『グルーバル時代の対話型授業の研究』『対話型授業の理論と実践』他、共編に『東日本大震災と学校教育』『現代国際理解教育辞典』『グローバル時代の学校教育』『持続可能性の教育』『教育のこれからを読み解く57の視点』『時代を生き抜く教育への挑戦学校3.0×SDGs』他。

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