Q&A どうなる! どうする? GIGAスクール[第2回] アイデアと工夫で端末活用のチャンスを創る
トピック教育課題
2021.11.01
目次
Q&A どうなる! どうする? GIGAスクール[第2回]
アイデアと工夫で端末活用のチャンスを創る
[回答者]放送大学客員教授 佐藤幸江
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月)
Q
文部科学省は、児童生徒が1人1台端末を「文房具」のように使うとしていますが、その言葉は、どのような意味を持つのでしょうか。また、「文房具」にするためには、どのように活用していけばよいのでしょうか。
A
今、児童生徒の「文房具」というと、思い浮かぶのは、鉛筆、消しゴムやノートでしょう。そこに、1人1台端末が加わることになるということです。写真1にあるように、机上には、これまでの文房具と共に1人1台端末があることになりますね。「文房具」ですから、児童生徒が「使いたい時に使いたいように自由に」使うということが大事になってきます。時々、「GIGA、GIGAと言っているけれど、使わなくても授業はできる」という言葉を耳にします。けれども、「文房具」ですから、教師が「使う、使わない」の判断をするのではなく、あくまでも判断の主体は児童生徒になります。小学校1年生の頃は、「はい、ではノートを出して。鉛筆はこう持って」と指導をしますが、いつまでも、そのように教師がコントロールしてはいないはずです。児童生徒が、自由意志の下で、使用することを前提としている言葉であることを、教師は肝に銘ずる必要があります。
このように、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末は、第1回でも話題になったかと思いますが、これまでの教師が主体となって授業でICTを活用するというイメージから、大きく転換をすることになります。けれども、今までICT活用とかタブレット端末とかとは距離を置いていた教師にとって、「厄介モノ」になってしまうのでは元も子もありません。
そこで、提案です。
端末やネットワーク環境整備は、教育委員会が実施しました。けれども、整備された環境を、児童生徒がどのように使うかの場面設定は、教師の工夫にかかっていると言えます。学級の児童生徒の実態や、教師自身のこれまで蓄積してきた専門的知識と合わせて、この工夫をしていくということは、教師の創造的な仕事であり、それを楽しむことをオススメしたいと思います。
以下をヒントに、皆さんの学級や学校で、様々な工夫が生まれることを期待したいと思います。「厄介モノ」が、児童生徒にとって自分自身で「学ぶ道具」になるようにしたいですね。
●机が狭い問題
写真1のように、机上はいっぱいになってきます。どのように工夫すると使い勝手が良くなるでしょうか? 机の広さを拡張したり、3台の机を2人で使ったりもできます。ただ、費用や教室の広さが問題になります。となると、いかに、児童生徒が使いたいと思った時に、すぐに出して使えるようにするかを工夫することになるでしょう。写真2は手提げ袋に入れて、写真3は机の横に100円均一で購入したという透明ケースを貼り付けています。
●今まで紙でやっていた場面を代替
ここのアイデアは、たくさん出てくるのではないでしょうか。一人一人で取り組む場面、グループや係が交代で取り組む場面もあるでしょう。
写真4は、中学校で書いている「学級日誌」です。「今週の目標」や「授業評価」の項目もあり、より主体的に学校生活を送ろうという意欲を持たせる工夫も見られます。また、日誌は、クラスルームから共有されていて、担任はもちろん、学年の教員、生徒が入力・編集することができるようになっているそうです。みんなで情報を共有することができ、さらにわかった情報をすぐに打ち込んだり、いつでも修正ができたりすることも便利な点だそうです。また、この学級の朝の会では、クラス全員が端末を開きながら参加しているそうです。
●誰でも使える機能を活用
タブレット端末で、誰でもすぐに使える機能は「カメラ機能」でしょう。「ここで、写真があると理解が深まるのに」と思われた場面はありませんか。例えば、帰りの会などで「いいところ見つけ」をやっている学級はありませんか。写真を「ほらね」と提示することで、情報がより確かなものになりますね。友達の素敵なシーンを撮ろうと、いろいろな工夫も出てくることでしょう。撮った後に、承諾を得なかったためにトラブルも起きるかもしれません。そのような時は、個人情報を考えさせるいい機会と捉えましょう。また、交代であっても、日常的に使う経験をしておくことで、生活科の観察記録、社会科での資料提示、理科の実験記録等々、主体的に活用する幅がどんどん広がっていくと思います。
●こんなアイデアも
「使いたい時に使う」ということが児童生徒に浸透してくると、こんなことが起こってくるようです。写真5は、生徒会が作った「もしもBOX」設置のお知らせポスターだそうです。専用のGoogleフォームに入力すると、生徒会からメールで返信が来るそうです。「ただし、誹謗中傷や、イタズラのためのものではありません」という但し書きもあります。情報モラルも、自分たちで身につけていく様子が見える事例ですね。
「◯◯が足りないので、できない」「他の人もやっていないからやらない」「何が起こるか、心配で」等々、教師が使わない理由は、様々つけられます。けれども、何度も言いますが、今回の1人1台端末環境の整備は、児童生徒のためのものです。先生方のこれまで蓄積した知見で、児童生徒が「文房具」として端末を活用していくチャンスを創り出していただければと思います。
[資料提供]
茨城県那珂市立芳野小学校
鳥取県倉吉市立河北小学校
北海道教育大学附属函館中学校
Profile
佐藤 幸江 さとう・ゆきえ
横浜市の小学校主幹教諭、金沢星稜大学人間科学部教授を経て現職。文部科学省「平成28年度先導的な教育体制構築事業」委員、「平成28年度文部科学省委託ICTを活用した教育推進自治体応援事業」委員。「日本教育メディア学会」編集委員、「AI時代の教育学会」理事、全国の情報教育を推進する教師集団の組織「D-project(デジタル表現研究会)」副会長。各地域のICT推進事業、プログラミング教育推進事業や各学校における校内研修の講師等を歴任。