特別寄稿 地域と学校による協働活動のさらなる深化を 地域住民の学びにも好ましい影響を与えることの浸透を

トピック教育課題

2021.06.14

特別寄稿 
地域と学校による協働活動のさらなる深化を 
地域住民の学びにも好ましい影響を与えることの浸透を


青森中央学院大学教授
高橋 興

『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3月

学校数減少が教育に大きな影響を及ぼすことの再確認を

 文部科学省(以下、「文科省」)の学校基本調査によれば、令和元年5月の公立小学校数は1万9432校、中学校数は9371校であった。これを平成元年調査の結果と比較すると、小学校は約21%(5176校)の減少、中学校は約11%(1207校)の減少となった。

 さらに、同省が令和2年12月に公表した同年の調査結果(確定値)によれば、小学校数は1万9217校(215校減)、中学校数は9291校(80校減)で、減少が止まらない。

 この間における学校数減少の大きな要因が、平成の大規模な市町村合併や少子化に伴う学校統廃合にあることは明らかで、そのメリット・デメリット等についても、例えば児童・生徒のスクールバス通学による心身の負担増や部活動の制約など様々に論じられてきた。

 私は学校数減少に伴う学区の拡大が学校と地域住民等の関係を大きく変える可能性があることこそ最も重大だと考える。

 すなわち、地域の子どもたちがスクールバスで通わざるを得ないような場所にある小・中学校に対し、地域住民等が従来から言われてきたような「コミュニティの核」や「地域のまとまりの拠点」としての学校、あるいは「我がマチの学校」などという意識を強く持ち続けられるか大いに疑問だからである。

 学校と地域住民等との関係は、今日におけるあらゆる教育活動の根幹にかかわる大問題であり、その関係が徐々に変化している状況を再確認しておくことが大切だと思われる。

学校と地域の連携・協働を図る取組の概要と成果

 学校と地域との連携・協働関係の構築を目指す取組は、早くから学校教育と社会教育(家庭教育を含む)が相互に補完し合いながら協力する「学社連携」、連携をさらに強化し学校教育と社会教育が部分的に重なり合う「学社融合」が提唱され取組が進んだ。しかし、学校教育側からは「社会教育の片想い」「一方的なラブコール」などと揶揄されるありさまで、必ずしも期待された成果にはつながらなかったように思われる。

 しかし、平成年代の国による相次ぐ法制度化と予算措置を伴った事業化で急速に進展したように見える。その取組経過を以下に簡単に整理しておくことにしたい。

(1)「総合的な学習の時間」が外部と強くつながる契機
 平成10年12月及び翌年3月告示の学習指導要領で「総合的な学習の時間」が創設されたのを契機に、各校は授業をはじめとする教育活動に幅広い外部人材を活用する形で、地域社会との関わりを一気に深めた感がある。

 ちなみに、文科省の「平成30年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査」によれば、外部人材活用状況が小学校84.8%、中学校82.1%の高率で、このうち「総合的な学習の時間」が占める割合は小・中学校とも60%を超えていた。

(2)学校を地域に開く法制度等の整備
 文科省による関係法制度の整備は、学校と地域の好ましい関係づくりを加速するきっかけとなった。その整備の概要を以下に簡単に整理する。

◇学校運営協議会制度(CS)
 平成16年9月、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(以下、「地教行法」)を改正し、公立学校の管理運営の改善を図るため、教育委員会が指定する学校の運営に関して、地域住民や保護者等で構成される学校運営協議会(コミュニティ・スクール。以下、「CS」)を設置できることを法制化した。

 しかし、CSについては設置による効果への疑問や、導入済みの学校評議員制度で十分という考えの関係者、同協議会が学校運営基本計画(方針等)の承認権や教職員の任用について意見具申権を有することに対して強い警戒心を持つ関係者も多く、制度導入5年後の平成21年4月でも指定校数が僅か475校という厳しい状況が続いた。

(3)具体的な事業の推進––地域の学校支援から協働へ
 文科省は関係法制度の整備に続き、従来はこの分野の事業費として想定されなかったほど多額の予算を投じて「学校支援地域本部事業」を始め、見直しを繰り返しながら今日に至っている。

 そして、この間における一連の取組で注目すべきは、地域による一方的な学校支援から、やがて地域と学校の双方向性が重視されるようになったことである。

 以下にその取組の概要を述べる。

◇学校支援地域本部事業
 平成20年度、文科省の委託事業として、学校の求めに応じ地域のボランティアが必要な支援を行う体制を整備する「学校支援地域本部事業」がスタートした。

 同事業は、配置されたコーディネーターが連絡調整役を果たしながら、地域住民等による学校支援活動を通じて、学校・家庭・地域が一体となり、地域ぐるみで子育てをする体制を整備するものだ。初年度には全国の867市町村が取り組み、対象学校数は6494校に及んだ。しかし、同事業は翌21年度に早くも事業内容が大きく改変され、取り組む市町村数も増加しなかった。

 けれども、同事業は例えば子育てが終わり地元校への関心が薄れていた人、学校の様々な教育活動等に役立つ専門知識・経験等を有する方など、多くの地域住民等を学校に誘い、やがて熱意あふれる有能な学校支援ボランティアに変身させる機会をつくった例も多くあった。

◇地域学校協働活動推進事業
 同本部事業は平成29年度、地域による一方的な「学校支援」ではなく、双方向の「協働」への発展を目指す「地域学校協働活動推進事業」に再編された。

 同事業は、社会教育法第5条第2項に規定された幅広い地域住民や企業・各種の団体等が学校と協働して行う「地域学校協働活動」を推進するため、地域と学校をつなぐ役割を担う「地域学校協働活動推進員」の配置や、取組の基盤となる「地域学校協働本部」の整備を促進するものである。

 また、これらの取組で学びによる地域人材の育成や「放課後子ども教室」、地域住民等が中高校生の学習を支援する「地域未来塾」開設、外部人材を活用した土曜日の教育支援活動などで、社会全体の教育力の向上と地域活性化を図るものだ。

 本事業では社会教育法第9条の7で教育委員会が委嘱でき、CSの委員にも任命できるなど位置づけを明確にした「地域学校協働活動推進員」の配置が最も注目すべきことである。これにより、コーディネート機能の充実や地域の実情に合わせた個別の活動の総合化・ネットワーク化を図り、事業の推進体制が強化された。

 すなわち、前述した学校支援地域本部事業で配置されたコーディネーターは、位置づけや果たすべき役割が不明確で、それぞれの活動ごとにコーディネートがなされ、ともすれば横の連携が十分ではなく、コーディネート機能が特定の個人へ過度に依存し、持続可能な体制が作られにくい、としばしば指摘されてきたからである。

 文科省による調査の結果によれば、令和2年7月1日現在、地域学校協働本部が整備されている公立小・中・義務教育学校は46都道府県内の1万8130校(前年比3143校増)で、全国の公立学校のうち50.3%が同協働本部にカバーされている。

(4)協働活動とCSの一体的推進
 前述した地教行法と社会教育法の改正は地域学校協働活動とCSの一体的な推進の契機となった。

 すなわち、CSの指定校数は導入10年目の平成27年4月1日でもなお2389校に過ぎなかった。けれども、法律改正により学校運営協議会の設置を各教育委員会の努力義務化した平成29年4月には一挙に3600校と急増し、令和2年7月1日には、9788校(全国の学校の27.2%)となった。

 また、文科省の「CS及び地域学校協働活動実施状況調査」によれば令和元年5月1日現在、CSと地域学校協働本部の両方の機能を備えた学校は全国の公立小・中・義務教育学校のうち4015校(全国平均14.1%)まで増えており、両者の一体的な推進体制の整備が徐々に進みつつあるように思われる。

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