田村 学の新課程往来
田村 学の新課程往来[第11回]教師のイメージ力
授業づくりと評価
2020.05.05
田村 学の新課程往来
[第11回]教師の「イメージ力」
國學院大學教授
田村 学
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.11 2020年2月)
「子供が生き生きする授業を実現したい」
「子供の成長が実感できる授業をしてみたい」
このように考えるのは、教師であれば誰もが同じであろう。教師の喜びは子供の成長やその姿にあり、それは日々の授業の積み重ねによって実現される。そうした授業を実現できる力を身に付けることが、多くの教師の願いであることは間違いない。
では、どのような力があればそうした授業が実現できるのだろうか。私は、「イメージ力」こそが優れた授業を実現する重要な教師力であると考える。
全ての教師が授業のイメージをもち、それを目指して実践の準備を整える。単元を構想し、授業展開を考えながら学習指導案を作成していく。このときに、それぞれの教師のもっているイメージがクリアであればあるほど、その実践に迫りやすいことは言うまでもない。霧に包まれたような、ぼんやりとした授業を目指しても、それは難しい。自分のクラスの子供一人一人が、本気になって学習活動に没頭する姿を具体的に思い浮かべることができる授業イメージであれば、その実現可能性は飛躍的に高まる。
この「イメージ力」は、生まれながらに備わっているものではなく、日々の精進と努力によって確実に高めることができる教師力であり、具体的には次の点を心がけることが欠かせない。
自ら授業を実践し、多くの人に参観してもらう、多くの優れた授業実践を参観する、日々の授業実践について語り合う。つまり、授業を「行う、見る、語る」ことを繰り返す中で、一人一人の教師の「イメージ力」は確実に向上していく。
このことは、どの教科においても同様ではあるものの、とりわけ生活科や総合的な学習の時間で重要になる。生活科や総合的な学習の時間では、学校や地域で扱う学習対象や素材が変わり、単元構成も一時間ごとの授業も各学校で異なる。このことが好ましい独自性を生み出しているものの、実践する側としては授業づくりの難しさにもつながっている。だからこそ、一人一人の教師の「イメージ力」を高め、各学校や地域の特色に応じた自分の学級に相応しい生活科の授業づくりを実現することが大切になる。
二つの「イメージ力」
実際に授業づくりを確かなものにしていくためには、二つの「イメージ力」が必要となる。
○単元のイメージ力
○授業のイメージ力
この二つのイメージを鮮明にすることにより、単位時間の授業が確かなものになる。ここからは、生活科を例に考えていくこととする。
単元をイメージする際には、図1を参考にしたい。生活科では、学習活動が質的に高まっていくことを期待する。しかし、ただ単に活動や体験を繰り返していれば高まっていくわけではない。そこで、話し合いや交流、伝え合いや発表などの表現活動が、単元に適切に位置付けられる。この体験活動と表現活動のインタラクション(相互作用)が学習活動を質的に高めていく。例えば、1回目の町探検に行き、そのことを教室で発表し合いながら情報交換する。すると、子供は「僕の知らないことがいっぱいあるんだなあ。また、町探検にいきたいな」と、2回目の町探検が始まる。2回目の町探検の後、教室で地図を使って町のすてき発見を紹介し合っていると「僕たちの町って、すてきな人がいっぱいいるんだな。もっと、お話が聞きたいな」と、インタビュー探検が始まる。このように、生活科では、体験活動と表現活動とが相互に繰り返しながら、学習活動の質的な高まりが実現されていく。
授業をイメージする際には、図2を参考にしたい。およそ全ての授業では、子供に何らかの変容を期待する。それは、関心や意欲の高まりであったり、真剣に考え何かに気付くことであったりする。そのような授業を実現するためには、まず、子供の姿を確かに捉える「見取る」ことが必要であり、その姿がどのように変容することを期待しているのかを示す「見通す」ことが欠かせない。この両者を結び付けるところに「具現する」45分の授業が存在し、そこで教師が様々な取組をすることになる。つまり、入り口の「見取る」と出口の「見通す」がなければ、「具現する」を考え、イメージすることは難しい。
具現する学習活動のイメージ
生活科では、子供が充実した活動や体験をするとともに、そのことで生まれる気付きが大切である。この気付きが質的に高まることによって、学習活動は一層充実したものへと高まっていく。学習環境の構成や学習活動の設定などで生活科の授業を「具現する」ときには、この気付きの質を高める以下の四つを意識することが考えられる。
○振り返りや表現する学習活動
○伝え合いや交流する学習活動
○試行錯誤や繰り返す学習活動
○多様性を生かした学習活動
実際に体験活動を行う際には、単発の体験ではなく没頭して何度も挑戦できるような体験活動を行うことが大切である。また、一人一人の思いや願いが実現される多様性を十分に保障し、そのことを生かし高めることを大切にしたい。この体験活動を生かし、確かな学習活動へと高めていくためにも、発表や交流、話し合いや伝え合いなどの表現活動を行うことが大切になる。つまり、この表現活動を行うことで自らの行為や体験を意味付けたり価値付けたりしていくことができる。また、無自覚な気付きを自覚したり個別の気付きを関連付けたりして気付きの質を高めることにつなげていくことができる。こうした「具現する」学習活動を具体的に用意することによって、単元も、授業も、より確かに、豊かにイメージできるものと考える。
Profile
國學院大學教授
田村 学
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。