田村 学の新課程往来
田村 学の新課程往来[第9回]ESDとSDGs
授業づくりと評価
2020.03.25
田村 学の新課程往来
[第9回]ESDとSDGs
國學院大學教授
田村 学
ESDってなに?
「Sustainable Development : SD」とは、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」のことであり、「持続可能な発展」と訳されることもある。そして、そのための教育が「Education for Sustainable Development : ESD」であり、「持続発展教育」と記したり「持続可能な発展のための教育」などと訳したりしている。つまり、ESDとは、永続的に発展し続けることができるような持続可能な社会を形成していく人材を育成していこうとする教育と考えることができよう。
このESDは、2002年のヨハネスブルグ・サミットにおいて、日本が、2005〜2014年までの10年間を「国連持続可能な開発のための教育の10年」(以下、「国連ESDの10年」)と提唱したことから始まっている。名古屋市と岡山市で開催された「ESDに関するユネスコ世界会議」は、「国連ESDの10年」の最終年にあたり、日本政府とユネスコによりESDの一層の推進に向けて開催したものである。
なぜESDなの?
現代の社会は、大量生産と大量消費、大量廃棄による経済成長に支えられている。また、産業の発展と人口増加に伴い、様々な問題も発生している。例えば、気候変動などの環境問題、資源の枯渇などのエネルギー問題、貧困の拡大などの南北問題、飢餓や食糧不足などの食糧問題などであり、それらの問題は広がりを見せる一方、収束に向かう気配はなかなか見られない。私たちの子や孫などの将来の世代においても、現在のような恵みある豊かな暮らしを行えるかどうかは、甚だ心配な状況が生まれている。
将来世代を含む全ての人々に、質の高い生活をもたらすことができるような発展を目指していくためにも、持続可能な社会の構築に向けて行動できる人材を育成すること、希望のもてる未来社会を築いていく人材を育成していくこと、自分の考えで地球的視野で行動できる人材を育成していくこと、こうした地球上の様々な問題を自分事として深く理解し日常の暮らしにおいて自分自身の行動を変革していくことのできる人材を育成することが、今、求められている。
その鍵を握っているのがESDである。極めて、私たちの暮らしに密接なものであるとともに、だれもが意識していかなければならない重要なものである。
国内でも、様々な主体がESDに取り組んできた。小・中学校、高等学校、大学などの学校における教育はもちろん、社会教育施設、自治体、NPOや企業などの地域社会における教育でも展開されてきている。とりわけ学校においては、ユネスコスクールを推進の拠点として位置付け、積極的な取組を行ってきた。
どのように学校教育とつながるの?
平成25年6月に閣議決定した第二期教育振興基本計画には、第一期に引き続きESDの推進を以下のように記している。
「現代的、社会的な課題に対して地球的な視野で考え、自らの問題として捉え、身近なところから取り組み、持続可能な社会づくりの担い手となるよう一人一人を育成する教育(持続可能な開発のための教育:ESD)を推進する」
また、平成20年1月の中央教育審議会答申や平成20年3月に公示された小学校と中学校の学習指導要領においては、各所で持続可能な社会の構築に向けた考えが示されている。特に、小・中学校、高等学校に位置付けられた総合的な学習の時間は、現代社会の横断的な課題を探究的に学習する時間であり、例えば、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの現代社会の諸課題を扱う。これらは、いずれも持続可能な社会の実現に関わる課題であり、全ての人が自分事としてよりよい解決に向けて行動することが期待される課題である。さらには、様々な課題の解決を通して、資質や能力及び態度を育成し、自己の生き方を考えることとしており、極めてESDの考え方と共通点が多い。もちろん、ESDはここに記した教科等以外においても推進すべきであり、教育課程全体で取り組むことが期待されている。
平成29年告示の学習指導要領では、さらにESDに関する記述が明確になった。象徴的なのは、学習指導要領の前文において、「これからの学校には、こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ、一人一人の児童が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる」(下線は筆者)と明確に示されていることにある。各教科等においても、ESDの視点から内容を見直している。
SDGsとの接点
加えて、今日的にはSDGs(Sustainable Development Goals)が社会的にもインパクトのあるキーワードになってきた。2015年9月の国連総会で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェェンダ」と題する成果文書で示された2030年に向けた具体的行動指針である。持続可能な開発のための17のグローバル目標と169のターゲットから構成されている。このSDGsの中には教育の目標も設定されているものの、17のグローバル目標を中核となって支えるものが「教育」であり、そこにESDが重要な役割を担うことは明らかであろう。今後一層ESDがクローズアップされてくることが期待される。各学校では、こうした国際的な動向や未来社会への変化を視野に入れておくことも欠かせないのではないだろうか。
学習指導要領自体が、新しい発想や価値に基づいて構成されている。そうした中で、各学校が独自の教育課程を編成し実施する際に、一人一人の子供にどのような成長を願うのかを考えることが大切になる。ESD、SDGsなどの世界的な取組や価値を視野に入れて教育課程を検討することも欠かすことのできない視点となろう。グローバルな視野を持ちつつ、ローカルな課題に対応できる人材の育成が、これからの社会を創造していくのであろう。
Profile
國學院大學教授
田村 学
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。