●子どもの学校生活 いじめ・不登校・外国につながる子供たちへの対応

トピック教育課題

2020.11.27

●子どもの学校生活
いじめ・不登校・外国につながる子供たちへの対応

神田外語大学客員教授
嶋﨑政男

『新教育ライブラリ Premier』Vol.2 2020年8月

「コロナ禍」といじめ問題

  阪神・淡路大震災の「学校の危機管理」の総括では、教職員の献身的な活動が賞賛された。東日本大震災でも、児童生徒を訪ね歩く教員の姿に感謝の声が多数寄せられた。

 今回の「コロナ禍」。未曾有の難題が次々に押し寄せる中、宿題を「宅配」したり、慣れないオンライン授業に必死に取り組んだりする教職員への感謝の言葉が各地で溢れている。「先生方の温かさや一生懸命さが伝わってきました」等の新聞の投書に心温まる。

 だが、現実はまだまだ厳しい。感染予防や学業保障に加え、児童生徒の心のケアや問題行動の予防、事情によっては家庭支援の役割を担うこともある。それでも、いじめ防止が「最大の使命」であることに変わりはない。このような緊急事態時におけるいじめ防止への取組に当たっては、特に、次の三つの視点を大切にしたい。

 第一は、出来事そのものに関するいじめの防止である。「原発事故避難者いじめ」のような「インシデントいじめ」の発生を防ぐため、計画的な指導を進める必要がある。文部科学省をはじめ各地方公共団体等から、多種多様な通知・ガイドライン・リーフレット等が発出・提供されている。これらを活用して、「感染者・濃厚接触者・医療従事者等への偏見・差別」を防ぐための指導を徹底しなければならない。

 第二に、長期休校や変則的な学校生活、あるいは家庭内での閉じこもり生活等、学校や家庭の問題から生じるストレスを原因とする、自傷行動やいじめ行為の懸念である。家庭との連携を深めたり、相談機関の周知を図ったりする等の対応が求められる。

 第三に、「新しい生活様式」が生み出している、学校生活の変化への対応の視点である。急激な変化に混乱していたり、ソーシャルディスタンスの意義が十分理解できていなかったりする児童生徒がいじめの対象になってしまうおそれがある。教師によるいじめの加担・助長も懸念されるので、児童生徒理解の深化と教職員間の情報交換に留意したい。

「コロナ禍」と不登校問題

 「コロナ禍」は不登校問題にも大きな影響を与えている。不登校生徒がオンライン授業に参加することによって、級友との信頼関係を築くことがきた、登校に不安感を抱いていた児童が休校期間を心理的安心感を蓄える「休養」として活用したなど、プラス面からの報告もある。

 一方、生活習慣の乱れから朝起きることができずに欠席してしまったり、休み中の遠隔授業にうまく適応できなかったりした児童生徒が、学校再開後も登校できないなど、マイナス面の事案も増えている。

 文部科学省は、「新型コロナウイルス感染症に対応した小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の再開後の児童生徒に対する生徒指導上の留意事項」(通知)を発出(2020年5月)し、自殺、不登校、児童虐待、差別・偏見の4点について、特段の注意を喚起した。

 この中で、不登校については、「学校再開後においても様々な不安やストレスを抱える児童生徒や、保護者の経済状況など家庭環境に変化が生じる児童生徒の増加が見込まれる」とした上で、「児童生徒等の状況を的確に把握」し、「組織的な支援体制を整える」よう求めている。

 長期にわたる休校期間や感染不安からの欠席を「出席停止」とする措置などにより、増加を続ける不登校数に歯止めがかかる期待もあるが、「コロナ禍」による不登校を生み出す要因は多様化・複雑化している点に留意する必要がある。

 文部科学省通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」(2019年10月)や、学習指導要領解説「総則編第3章第4節」に記された「不登校児童(生徒)への配慮」に従って、保護者との連携を密にした組織的取組を推進していくことが大切である。

「コロナ禍」と外国につながる子

 新学習指導要領では、「総則第4」に「児童(生徒)の発達の支援」が設けられ、「特別な配慮を必要とする児童(生徒)」として、「障害のある児童(生徒)」「不登校児童(生徒)」等と共に、「海外から帰国した児童(生徒)」「日本語の習得に困難のある児童(生徒)」が挙げられている。

 文部科学省の調査(2018年)では、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒は約4万人(日本国籍の児童生徒は約1万人)、未就学者が約2万人となっている。「ことば」はコミュニケーションの中核となる。文化・習慣等の違いのある中、「コロナ禍」は日本語の習得に困難のある児童生徒にとって、さらなる「生きづらさ」を強いてしまうことが考えられる。

 児童生徒一人ひとりの状況に応じた日本語指導の充実を図ることが急がれるが、同時に、保護者の日本語理解力を高める努力も欠かせない。教育委員会への指導員(通訳・翻訳)派遣要請、翻訳アプリの活用、NPO法人やボランティアの協力依頼等を通じて、学校だより等の内容を母国語で表示するなど、わかりやすく伝える必要がある。

 「コロナ禍」においては、感染防止のための様々な情報提供に加え、休校・分散登校等や「新しい生活様式」等への丁寧な説明が不可欠である。児童生徒及び保護者の日本語習得状況に応じた、わかりやすい情報伝達の工夫が求められる。

 なお、生活費への悩み等、福祉面からの支援や医療・保健からのはたらきかけが功を奏した例も散見される。児童生徒への支援を着実に進めるため、多様な専門機関との「緊密」「厳密」「緻密」な連携・協働を進めていきたい。

 

Profile
神田外語大学客員教授
嶋﨑政男(しまざき・まさお)
神田外語大学客員教授。公立中学校教諭・教頭・校長、東京都立教育研究所指導主事、福生市教育委員会指導室長・参事を経て神田外語大学教授。日本学校教育相談学会名誉会長、千葉県青少年問題協議会委員、千葉県いじめ対策調査会会長、9県市でいじめ対策委員長等を務める。主な著書に『学校崩壊と理不尽クレーム』集英社、『脱いじめへの処方箋』ぎょうせい、『いじめの解明』第一法規、『ほめる・しかる55の原則』教育開発研究所等。

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