コロナ禍対応とカリキュラム・マネジメントの推進

　学習指導要領があり、それに準拠した教科書が充実している。子どもたちは４月に入学・進級し、各教科等の標準時数どおりに教育活動を展開してきた。「各学校が学校や地域等の実態を踏まえてカリキュラム・マネジメントを実現する」と言われてもピンとこない御仁も少なくなかったかもしれない。しかし、カリキュラム・マネジメント本格実施元年にその必要性を実感することが起こってしまった。

　コロナの影響は地域によって大きく異なる。臨時休業をほとんど行わなかった地域もあれば、６月末になって初めて通常登校が叶った地域もある。感染状況と失われた授業時数の地域差は大きい。年度内にどれだけ教育課程を終わらせるか。授業時数をどう確保するか。どの行事を中止したり、延期したり、短縮するのか。３密回避の中で授業や行事等をどのように行うか。分散授業のための教室をどう確保するか。等々、地域ごと学校ごとに判断・決定すべきことが山積みである。
改めて３側面から考えてみたい。

　１つ目は「教科横断的な視点での教育内容の組織的配列」である。授業時数確保の手段として教科等を越えて関連させて学習させる方が効果が高い場合は積極的に進めたい。特に、新型コロナウイルス感染症や本稿執筆時（７月初旬）の長期的な豪雨被害、あるいはその要因にもなっている地球温暖化や環境問題等の現代的諸課題は、その解決においては各教科等で身に付けた知識や技能の関連的な活用が求められるために、教科横断的な学びの実現は必須である。

　２つ目は「PDCAサイクルの確立」である。これまでは、大きなサイクルとしては年単位や学期単位での教育課程の見直し・改善、きめ細かいサイクルとしては授業単位の日々の見直し・改善を提言してきた。今回は、突然の臨時休業に伴う年間指導計画の見直し・改善が余儀なくされ、新年度も開始早々の見直し・改善が求められた。例年では夏季休業中に当たる日が授業日となり、また、第２波・第３波が来れば、その都度の見直し・改善が必要となる。本誌特集の愛知県知多市立旭東小学校の八釼明美教頭は「夏季に実施する短縮授業は、家庭学習を取り込んで教育課程を編成し、週案を活用して実施していく予定だ」と述べている。感染状況や学習状況、子どもや教職員の体調を見ながら週単位で軌道修正を図るための一つのツールが週案である。

　３つ目は「校内外の人的・物的資源の活用」である。これまでは最も説明が難しかった側面である。学校規模に応じて予算や教職員数は概ね決まっており、何よりも学習時間と勤務時間も共通である。時間割編成や組織編制、地域や家庭の協力等で学校の独自性を発揮してきた。今回は、この側面全体に関する工夫・改善が求められることとなった。特に、学校と家庭のICT環境の整備状況が休業中の家庭学習に大きな影響を与えた。また、教職員による感染症予防の作業も課題のひとつである。その点では、福岡市の全小中校における専門業者の登用は英断である。ICT環境整備も含め、この側面においては地方教育行政のバックアップは欠かせない。

デュアル思考による教育の新展開

　コロナ禍の中で様々な取組がなされた。一つは長期休業中のICT 活用である。GIGA スクール構想が大きく前進する契機となった。また、社会全体もそうだが、小・中・高校や大学においてのテレワークが定着した。筆者自身、現時点においてオンライン研修を２つ経験し、一定の手ごたえを感じている。コロナ禍が収まったとしても、オンライン授業と対面授業、職場勤務と在宅勤務、オンライン研修と対面研修を併用させていく考えが提案されている。

　また、家庭学習は主に宿題として、学校学習の補助的役割として、学習事項の定着を図るために位置付けられてきたが、今後は学校学習と家庭学習を連動させた単元計画が求められる。家庭学習が「保護者頼み」「保護者丸投げ」に陥らないためには、「一人学び」の育成が必然である。

　当たり前が当たり前でなくなったとき、人は深くかつ広く思考し、新たな視点をもつ。今回身に付けた複眼的（デュアル）思考を活かし、新たな教育の在り方を探究していきたい。

［参考文献］
１　村川雅弘・田村知子・東京都東村山市立大岱小学校編著『学びを起こす授業改革』ぎょうせい、2011年
２　村川雅弘『学力向上・授業改善・学校改革 カリマネ100の処方』教育開発研究所、2018年

むらかわ・まさひろ
鳴門教育大学大学院教授を経て、2017年４月より甲南女子大学教授。中央教育審議会中学校部会及び生活総合部会委員。著書は、『「カリマネ」で学校はここまで変わる！』（ぎょうせい）、『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』（教育開発研究所）など。