知っていますか SDGs 持続可能な開発目標の概要と今後の課題

トピック教育課題

2020.07.08

知っていますか SDGs
持続可能な開発目標の概要と今後の課題

宇都宮大学教授
湯本浩之

『新教育ライブラリ Premier』Vol.1 2020年5月

「持続可能な開発」とは何か その意味とこれまでの経緯

 今や77億を超える人々が暮らす地球社会は、飢餓や貧困、環境破壊や人権侵害、民族対立や地域紛争などの地球規模の諸問題に直面しており、これらの深刻な問題を早急に解決していくことが人類共通の課題となっている。こうした地球的課題の達成に向けて、2015年に国連で採択されたのが、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下、2030アジェンダ)である(UN,2015)1。この文書の中には、2030年までの達成が公約された17のゴール(基本目標)と169のターゲット(具体目標)が明記されており、これらは合わせて「持続可能な開発目標(SDGs)」と呼ばれている。本稿では、その概要を説明していくが、その前に「持続可能な開発」の意味とこれまでの経緯を確認しておこう。

 この言葉が世界的に普及する契機となったのは、国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」(1987)が公表した報告書『Our Common Future』(邦題:地球の未来を守るために)であった。この中で「持続可能な開発」とは「将来世代のニーズ(必要)を損なうことなく、現在世代のニーズを満たすこと」と定義された。「将来世代のニーズ」とは、これから生まれてくる子や孫の世代がその経済活動のために、豊かな地球資源からの恩恵を受けることであり、「現在世代のニーズ」とは、今を生きる、とりわけ貧困層の人々が地球資源の公平な配分を受けることである。すなわち、「持続可能な開発」とは、どの世代に生まれたとしても、有限な地球資源の中で誰もが経済活動を持続的に維持し、生活の質を高めていくことであり、そのために必要な地球資源を保全し、世代内でも世代間でも共有していくことを意味している。言い換えれば、経済と環境の持続可能性を両立させた社会づくりを進めていくことであり、それを可能とする社会が「持続可能な社会」である。

 1992年に開催された「国連環境開発会議」(通称:地球サミット)では、この持続可能な開発という考え方がその成果文書に反映された。さらに、1990年代には、教育、人権、人口、社会開発、女性、居住などをテーマとする国連主催の会議が開催され、地球社会が直面する優先課題がそれぞれに確認された。そして、2000年の「国連ミレニアム・サミット」を機に、これらの課題が2015年を達成期限とする国連ミレニアム開発目標(MDGs)として統合されたのである。貧困・飢餓の撲滅や初等教育の完全普及など、主に発展途上諸国を対象とした八つの目標で構成されたMDGsは一定の成果をあげた一方で、未達成の課題も多く残された。そこで、MDGsが取り残した課題や2000年代に新たに顕在化した課題に取り組むために、MDGsの後継となる国際目標として採択されたのが、2030アジェンダである。

2030アジェンダや持続可能な開発目標(SDGs)に見られる特徴

 MDGsと比べて目標数が倍増したSDGsは、2000年代に入って複雑化する多様な地球的課題に対応するものであるが、SDGsの特徴として「三つの側面」が強調され、「五つの決意」が表明されている。その「三つの側面」とは「経済」と「環境」と「社会」である。これは「経済」と「環境」の持続可能性の両立を柱とする、いわば“MDGs型”の持続可能な開発ではなく、これに「社会」の持続可能性を加えた3側面を鼎立させていくことが2030アジェンダの中で強調されている。有限な地球資源の範囲内で経済を発展させるだけでなく、その経済発展によって社会の中に分断や対立ではなく、寛容や包摂が拡がるような社会づくりが、“SDGs型”の持続可能な開発の使命であると理解できよう。「五つの決意」とは「SDGsの5P」とも言われ、17目標の達成によって実現しようとする世界を次の五つの言葉で表している。すなわち、「人間(People)」「豊かさ(Prosperity)」「地球(Planet)」「平和(Peace)」そして「パートナーシップ(Partnership)」の五つだが、それぞれに17目標が対応している(図1参照)。

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