校長室のカリキュラム・マネジメント

末松裕基

校長室のカリキュラム・マネジメント[第1回] 校長の学校づくりのために―率直な対話を心がけて

学校マネジメント

2020.07.06

校長室のカリキュラム・マネジメント[第1回]
校長の学校づくりのために―率直な対話を心がけて

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.1 2018年5月

東京学芸大学准教授
末松裕基

 この連載は、教育界にありふれた考え方や当たり前とされていることを少し別の角度から捉え直すことで、学校づくりのためのアイデアや視点の参考となるような内容にしていきたいと思います。慌ただしい日々を見つめ直す一助となればと思います。そのためにも、政策等の形式的で一般的な解説をやめて(そういうものは他にいくらでもありますし、そういうものにもう飽き飽きしている方も多いのではないかと思います)、わたしも先生方と本音トークをしたいと思っています。

違和感と危うさ、そして可能性へ

 先日、大学の教職課程の授業でこんなことがありました。受講生は小学校と幼稚園の教員を目指す学部三年生が中心でした。授業の課題の一つとして「これからの学校に必要なこと」を論じるレポートを出題したのですが、ある学生が「これからの学校にはいま求められているカリキュラム・マネジメントに一丸となって取り組んでいく必要がある─」と書いていたのです。

 わたしは“こんな時代になったのか”と驚くと同時に、とても違和感を覚えました。管理職試験の作文であれば、そのような解答も褒められたかもしれませんが、二十歳前後の学生が心の底からそのような必要性を感じて論じているとは到底思えなかったからです。恐らくその学生は他の授業等で、中央教育審議会や政府関連文書で近年そのようなことが重要視されているということを習い、それを鵜呑みにして論じたのではないかと思います。

 何が言いたいかというと、そのような思考様式には大変な危うさを感じるということです。そこには当人の自発的な問題意識があるかどうか疑わしいです。昨今もてはやされている「カリキュラム・マネジメント」というものは正直、わたしにもよく分かりません。皆さんもそう思ってはいませんか? 「学校経営」と何が違うのだろうとも思っていますし、「カリキュラム・マネジメント」という言葉を使っている人は大丈夫かなとも思います(本連載名にもなっていますが、これはわたしの考えたものではありません。変更を申し出ようかとも思いましたが、そのままにしておいた方が色んな問題を逆に考えることができるので良いかなとも思い、そのままにしています。今の学校をめぐる問題を象徴しているようにも思いますので、そういう現状やある意味理不尽さがあるからこそ、人間が考え、問題に向き合い解決する意義や価値も高まるのではないかと思っています)。

 2016年12月の中央教育審議会答申では、「カリキュラム・マネジメント」は次のように定義されています。

 各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校が設定する学校教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づき教育課程を編成し、それを実施・評価し改善していくことが求められる。これが、いわゆる「カリキュラム・マネジメント」である。

 以上を踏まえて、皆さんは普段の「カリキュラム・マネジメント」への向き合い方についてどのように考えたでしょうか。

 恐らく、政策的に提示されている説明の新規性や重要性を実感を伴って理解できるものではないと受け止めた方が多いのではないでしょうか。

 これは、それらのものが自分たちにとって「意味がない」「関係がない」ということを表しているのではありません。学校は様々な公的影響下にありますし、ましてや校長はその影響をさらに強く受けます。ただし、政策的に言われていることやそこに示されている文言をもって、そのまま学校づくりの指針とすることには無理があります。裏返すと、学校には自らが自由に考え、取り組んでいく裁量の余地が大幅に残っているということです。

率直で丁寧な対話を

 本連載では、このような問題意識から、現代の学校づくりについて、多様な角度から問題を考え、その実践のために時事的な話題も含めて論じることを試みたいと思います。

 具体的には、学校づくりにおいて、経営方針はどのようにあるべきか、経営のポイントや改善点はどのように考えられるか、学校経営において取り組むべき重要課題はなにか、これらについて、以下のトピックなどを議論し、共に考えていきたいと思います。

・組織経営、家庭や地域との連携のあり方
・若手の育成、学校における研修のあり方
・自らの力量形成、リーダーシップ開発のあり方
・教育改革との向き合い方
・現代社会の変化や貧困など社会問題への対処の仕方
・そもそも経営とは何か?

 これらは、現代の学校の課題を根本的に考えることとも不可分です。わたし自身が日々、教育について素朴に感じている問題についても、可能な限り検討し議論していきたいと思います。この連載を読み終えるころには、読者の皆さんが自らの言葉や考えで、学校づくりの課題やあり方を理解し、論じられるようになることを期待したいと思います。また、昨今、「アクティブ・ラーニング」「協働」「チーム学校」「コミュニティ・スクール」など多くのキーワードが教育界で流布していますが、それらに無批判に向き合うことが結果としてどのような機能を果たし、問題を生み出すことになるかについても一緒に考えていきたいと思います。

 数日や数か月ではなく、自らの教職生活や今後の十年後の教育界や世界を見越して、様々な角度から丁寧にじっくりと思考していきたいと思います。そして、ここで共に考えた内容をもとに職場の先生方や他校の校長、保護者の方々とも一緒に議論や対話をしてほしいと思います。

 かつて、吉本隆明という思想家が「学校というものが、もっと率直な空気の流れる場所になってくれないものかと思います」と言っていました。学校に漂う「偽の厳粛さ」が日本社会の諸悪の根源であるとまで言っています(吉本隆明『ひきこもれ―ひとりの時間をもつということ』大和書房、2002年、60-65頁)。

 わたしもそのように思います。全てについてプライベートな価値観を曝け出す必要はありませんが、公共空間の場で多少の意見の違いも含めて、教育に関わる人たちがもっと自由にのびのびと語り合ってほしいと思います。本連載がそのきっかけの一つになればと思います。

 

 

Profile
末松裕基 すえまつ・ひろき
専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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特集:新学習指導要領全面実施までのロードマップ

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学芸大学准教授

専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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