教職 その働き方を考える

高野敬三

教職 その働き方を考える[第6回]校内ガバナンスの見直し

トピック教育課題

2019.10.24

教職 その働き方を考える
[第6回]校内ガバナンスの見直し

明海大学副学長 高野敬三

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.6 2018年9月

●本稿のめあて●
各学校には、校長、教頭の他、法改正により、主幹教諭・指導教諭等を置くことができるようになりました。このことにより、学校管理職は、こうしたミドルリーダーとチームを組み、学校経営を行うことができるようになりました。今回は、校内ガバナンスの確立の視点から、管理職とミドルリーダーのチーム化について提言します。

「鍋蓋」型学校経営

 

 従来、学校には、校長と教頭がいて、あとは身分的・職務的にも平等な教員がいるという状況でありました。組織的には、主任を含む教員が同じ層に属して、その上に校長・教頭といった管理職が乗る「鍋蓋(単層構造)」型の学校経営が長く続いてきました。こうした組織の場合、学校のほとんどの教員が同等であるため、「民主的」であると言われる反面、多様な意見をまとめることが困難であり意思決定に時間がかかるという課題がありました。前号において、職員会議については、平成12年に学校教育法施行規則を改正して、その位置付けを校長の補助機関として明確化したことを紹介しましたが、なかなか、教員の平等意識は変わりませんでした。

「ピラミッド」型学校経営

 一般的に、企業などの会社組織では、各部や各課には、部長、次長や課長、課長補佐や係長を置き、組織面で管理職とそれを支えるミドルリーダーを中心とした経営を行っています。実は、学校には、このような組織体制とそれに伴う意思決定ルートは長い間、風土として確立されていませんでした。

 そうした中にあって、国は、平成19年に学校教育法を改正して、学校の組織運営体制を確立するとともに、指導体制を充実するために「主幹教諭」と「指導教諭」を新設しました。その上で、平成20年には、「副校長」の職を新設しました。これにより、三角形で例えれば、一番下に教員・各主任(職ではない)で構成される一般教員の層、2層目には、ミドルリーダーとしての主幹教諭・指導教諭の層、最上層には、教頭、副校長、校長といった職である管理職の層ができあがりました。いわば、「ピラミッド(重層構造)」型の学校経営体制ができあがりました。

 改正学校教育法上、主幹教諭は、校長(及び副校長)、教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理し、児童(生徒)の教育をつかさどるとされています。これまで教頭に課せられてきた職務と同じ「校務を整理する」といった職務が一部ではあるものの課せられました。「校務を整理」するとは、教職員の種々の意見をとりまとめ、事前の準備や調整を行い、資料をそろえて校長の意思決定を助けることです。あくまでも主幹教諭は「校務の一部を整理」することから、校長等管理職からの命を受けて、例えば、生徒指導に関する「校務の整理」(生徒指導主幹)、教務に関する「校務の整理」(教務主幹)、学年に関する「校務の整理」(学年主幹)となることには注意する必要があります。

 また、指導教諭は、改正学校教育法上、教諭等に対して教育指導の改善と充実のために指導・助言を行うことが職務として求められています。教科指導や授業改善の推進リーダーとしての位置付けです。

 一方、副校長は、校長の補佐役であり、教頭とは異なり、校長の命を受けて校務の一部をつかさどることができる職務です。「校務の一部をつかさどる」とは、校長から命を受けた範囲内で、校長と同じ校務掌理権や所属職員監督権を行使できることを意味します。

 これまで見てきましたように、学校に、重層的な学校経営体制を敷くことができることとなりましたので、校長・副校長・教頭がミドルリーダーである主幹教諭・指導教諭と一体となって学校の運営をしていく必要があります。

 もう一つ、重層的な学校経営をする上で、重要な役割を果たしていくのが、学校における事務職員です。学校で行われるほぼすべての教育活動については、事務職員の下支えがあって成り立っています。学校段階や学校規模等によって分掌事務は様々ではありますが、学校の物品管理、施設・設備の保全(営繕を含む)、文書の収受・保存、在学証明など各種証明書の発行、調査統計、児童生徒の入学、転出、卒業、学校徴収金、教科書の給付、学校給食に関わることなど実に多岐にわたります。そして、このような事務を行う職員を束ねるのが学校における事務長であり、副校長、教頭やミドルリーダーとしての主幹教諭・指導教諭と同様に学校経営に深く関わりますので、教員と職員が両輪で学校経営に携わることが重要です。

校内ガバナンスの見直し

 教師の働き方改革という側面でみると、学校という組織としての意思決定、執行、監督に係る仕組み、いわゆるガバナンスの見直しが極めて重要なことがらと言えます。ガバナンスの見直しにおいては、校長・副校長と教頭、主幹教諭等のミドルリーダーや事務長を中心とした管理体制の構築が不可欠です。前号でも紹介しましたが、東京都では、職員会議ではなく、校長、副校長、経営企画室長(事務長)とミドルリーダーである主幹等を構成メンバーとする「企画調整会議」を中心とした学校経営に軸足を変えています。所掌事項に権限をもたない教員が大多数を占めた職員会議での議論による学校経営ではなく、学校管理職と権限のある教員が議論して、校長の学校経営の方針に基づいて校務の遂行の基本を定め、すべての教員がこれに基づき教育活動を展開することが、効率的な学校経営と言えます。

 都内の学校では、すべての主幹教諭が短時間集まり「主幹ミーティング」を行うことにより分掌間の横の連携を図る取組を行ったり、校長が、毎朝、経営企画室長と副校長、主幹教諭を集めた短時間の「打合せ」を行ったりして、学校経営の「経糸」と「横糸」を結び付けるなどして、管理職とミドルリーダーのチーム化を意図的・計画的に行い、効果的・効率的で、しかも機動的な学校経営を実現した学校もあります。

 ただ、残念ながら、国の調査によると、こうした主幹教諭の数は、まだまだ少なく、例えば、すべての学年に学年主幹がいる学校、教務・進路・生徒指導等の部のすべてに主幹教諭がいる学校は極めて少ないのが現状です。国及び任免権者としての都道府県教育委員会においては、ミドルリーダーとしての主幹教諭等の数を必要数配置するよう努めることが期待されます。

 

Profile
明海大学副学長
高野敬三

たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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