学校改革の新定石Ⅱ
学校改革の新定石Ⅱ [最終回]卒業式のリニューアル
トピック教育課題
2019.08.30
目次
学校改革の新定石Ⅱ
[最終回]卒業式のリニューアル
(新教育課程ライブラリII Vol.12 2017年12月)
学習指導要領の特別活動の儀式的行事のねらいに、「学校生活に有意義な変化や折り目を付け、厳粛で清新な気分を味わい、新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと」と、ある。儀式は、この文面の通りに行うことが重要だ。だが、卒業式は、厳粛だけでは、最後の授業の場とはならない。そこで、学習指導要領の総則が示す言語活動、式に関しての「見通し」「振り返り」などの要素を組み込むことも大切である。かつての勤務校は、その要素を組み入れた卒業式を行った。卒業式の中で子供が話す言葉を自ら考え、発表する場を卒業式に取り入れた。これまでは、その卒業式が「呼びかけ調」となっていた。大人満足の式であった。それを変えるために、子供たちが自分の生き方を発表する場とし、最後の学びをさせた。
それは、何よりも卒業生が個々に発表することに自信をもたせたかったからだ。そこでねらいを、①卒業生は、小学校生活を振り返り、自分の成長と、これからの生き方を自分の言葉で発表する、②在校生は、卒業生を心から送る気持ちをもつとともに、卒業生の発表を学ぶ場とした。具体的には、式次第の中に「自分さがし」の発表を取り入れた。
なお、「自分さがし」は、総合的な学習に位置づけた。単元の目標を、①振り返りノートを読み、これまでの経験から自分の生き方の課題を見つける(課題設定の能力)、②自分の課題を解決するために、具体的にどんなことをすればよいかを考える(問題解決の能力)、③自分のよいところを探す(自己の生き方)、④自分の思いや考えを文章と言葉で分かりやすく伝える(自己表現能力)、⑤6年間の全ての学習および総合的な学習の授業の場とする、⑥これからの生き方に希望をもつ(進路指導)とした。
指導計画は、12時間扱いとした。第1時「今までの自分を振り返り、自分の生き方の課題に気付く(振り返りノートを全て読み返す)」。第2時「自分を振り返り、課題を設定する(成功体験、失敗体験を思い出す)」。第3時「『自分さがし』について、言語で表現することをまとめる計画を立てる(家族とも相談をする)」。第4~10時「『自分さがし』を文章で表現する、『自分さがし』の文章を暗記する、こけしに入れる『20歳の私へ』の手紙を作成する、こけしを作成する、20歳の時に学校へ取りに来るはがきを作成する」。第11時「自分の発表する課題が自己の課題解決につながるかをまとめる(発表への心構えを自分で確立する)」。第12時「『自分さがし』の言葉を発表する(卒業式当日)」などだ。
発表の形式として、「私はこの6年間で、~ということを学びました(課題設定)。それは、~という経験から学んだものです(自分の経験)。はじめ、私は、~でした。そこで、私は、~を行いました。すると、私は、~になりました。この経験から、私は、~ということが分かりました。だから、私は、これから~のように生きます」を提示した。
子供たちへ説明した校長の言葉である。「これまでの卒業式は、6年生が考えた言葉を先生が手直しして、『呼びかけ調』で発表をしてきました。また、卒業生の一人一人が話す場合もありました。『大きくなったら、野球選手になりたい』『〇〇になりたい』と、一人一人が夢や希望を発表しました。聞いている人には、上手な発表に映りました。しかし、自分の生き方を自分の言葉で発表することではなかったと思います。それは、『呼びかけ調』だったからです。卒業式は、6年間で最後の授業の場です。自分の生き方を発表する『自分さがし』の場なのです。そこで自分の言葉を発表する場に変えます」
「自分さがし」が中心となった卒業式は、子供たちを大きく成長させた。個人練習を多く積み重ね責任をもち発表したからだ。これまで、大人(教師)が作り上げた卒業式の常識を変え、子供たちが主体的に動き自信をもち発表し卒業していったことが今でも心に残っている。
「自分さがし」の中には、こけしの製作も取り入れた。小学校6年で作成し、20歳の成人式の日に受け取る形式だ。ねらいは、①これから生きていく上で、自分への支えを作成する、②学校で学んだ友と8年後に再会し心を通わせる、③学校をふるさとにするなどである。教育課程の位置づけは、総合的な学習の単元「自分さがし」の時間とした。製作物のこけしには、自分の顔と名前と着る物を描いた。なお、自分への手紙「20歳の私へ」を書き、こけしの中に入れさせた。
校長が集会でこけしに関して説明した言葉だ。
「6年生の皆さんは、もうすぐ卒業です。この学校から飛び立っていきます。これから楽しいこと、大変なこと、いろいろあるでしょう。そこで6年生を応援するためにこの学校には、『こけし制度』があります。皆さんがこけしを作成するのは、これから生きていく自分の支えとなるからです。また、8年後に友達と再会し、心を通わせて欲しいからです。それまで学校は、皆さんを見守っています。こけしの中には、自分への手紙『20歳の私へ』を入れます。8年後の成人式の日に取りにきます。その場所で校長先生と担任の先生で『こけし渡し式』を行います。8年後は、校長先生も担任の先生もこの学校にはいないと思います。しかし、卒業生の成長を見守るためにも必ず会いに来ます」
学校は、卒業生を出せば終わりではない。子供たちへ応援をし続けることも学校の仕事である。ふるさとの学校のこけしが見守り続けていることを支えに、活躍して欲しいと願うばかりだ。
Profile
西留安雄
にしどめ・やすお 東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。大岱小では校長在任中に当時学力困難校といわれた同校を都内トップ校に育てた。現在、高知県・熊本県など各地の学力向上の指導に当たり、授業・校務の一体改革を唱える。主著に『学びを起こす授業改革』『どの学校でもできる!学力向上の処方箋』など。新刊『アクティブな学びを創る授業改革』が好評刊行中。