学校改革の新定石Ⅱ
学校改革の新定石Ⅱ[第10回]子供版研究協議会のすすめ
トピック教育課題
2019.08.30
学校改革の新定石Ⅱ
[第10回]子供版研究協議会のすすめ
(新教育課程ライブラリII Vol.10 2017年10月)
授業研究の見直し
学習指導要領が変わるたびに趣旨説明がある。理念を誰しも口にして学校の変容を目指す。だが、学校は変わりきれなかった。学習指導要領が校門や教室の前で止まってしまうことがあるからだ。今回の改訂は、そうしたことはもう許されない。これまでの学習指導要領の在り方そのものが見直されたからだ。特に総則は学びの指南書と言われるぐらいの内容になっている。章立ての見直し、教育課程の編成の進め方等が丁寧に記述されている。具体的な進め方として、アクティブ・ラーニング、カリキュラム・マネジメント、学びの地図等も示された。これで学校が変わるはずだが果たしてどうなるだろう。
これらの具体策の根底にあるのが「主体的・対話的で深い学び」の学び方だ。この解釈には様々な考え方がある。私なりに解釈すれば、「主体的」とは、子供全員が自分事として学びに積極的に参加することだ。その具体策の一つが全ての子供による「アウトプット」の機会を増やすことだ。また「対話的」とは、単なるペア学習や班学習等の話し合い活動ではない。対話をする中で子供同士が「教え教えられる活動」を行うことだ。「深い学び」とは、単に学ぶ内容を全ての子供で深く掘り下げることではない。子供が仲間と学び合う中で、メモをしたり、自らの考えをまとめる「振り返り」を確実に行うことこそ深い学びだ。
こうした考えから研究授業や研究協議会等を見直すと、子供の存在を強く意識するようになる。どの学校でも行われている子供抜きの教師だけの授業のシミュレーション、教師だけで話し合う授業研究会等は、このままでよいだろうか。これまで当たり前と思われた授業研究や協議会を見直す必要がある。
教師だけで行う研究協議会の問題点
多くの教師が研究授業を教材開発・授業展開・指導目標と評価の作成等を経て行うものととらえてきた。授業者が考えた内容を同僚と吟味し、模擬授業等を経て本番の授業を行う。その後、協議会を済ませて終了という構図だ。こうした過程の中にある研究授業は、果たして有効であっただろうか。また、従来の研究協議会は、授業者を誉め合うことで終えることが多かった。発言者が偏り、若手が発言できないといったこともあった。課題について意見が出されても論点を絞りきれず、改善策を見いだせないまま終えることもあった。私自身、そうしたことの改善のためにワークショップ型の研究協議会を取り入れた。だが、授業の質の転換までには至らなかった。それは、教師の論理だけで研究授業や研究協議会を進める学校常識があったからだ。
学習指導要領の趣旨である子供の主体的な学びは、教師だけの研究授業や研究協議会だけでは達成できない。学習指導要領が変われば、当然、授業運営や指導方法の改善も変えなくてはならない。
子供版の研究協議会
素晴らしい授業を行う教師には、共通なことがある。授業づくりに子供たちを参加させていることだ。ある授業で「先生が話す授業より、みんなで話し合う授業が楽しい」と発言をした子供がいた。子供が一人の授業運営者として意識をした言葉だ。こうした子供の言葉の出る授業を創るには、何を大切にすればよいだろう。前述した教師の例が参考になる。それは、教師だけで授業を創るのではなく子供参加型の授業だ。
このような子供参加型の授業を行うためには、子供たちに授業の責任を持たせるとよい。教師は、授業の中で子どもに任せるところは任せる。子供たちは教師を頼るのではなく、仲間で学び合いながら課題を解決していく授業だ。
研究協議会も教師だけで話し合うのではなく、子供自身が授業反省会を行う形も考えられる。全国では、すでにこのことを実践している学校がある。熊本県や高知県津野町では、授業後に授業評価という形で子供同士が協議するようになっている。子供版の研究協議会だ。子供たちが自ら授業を振り返るのですぐに次の学習へその反省を活かすことができる。その具体的な取組み方法をご紹介する。まず、ある学校では、子供たちが「成果・課題・改善策」を評価項目にして話し合う。また、「アウトップトができたか、教え教えられる授業であったか、振り返りの記述ができたか」等で話し合う場合もある。子供たちが自分自身や学級全体で授業を振り返るので、改善策をすぐに実行することができている。教師は、子供たちの授業反省会を参観するため、主体的に学ぶ子供の姿を間近に見ることができる。教師と子供が協働して授業を創り、それぞれが反省会を行う。私はこれば当たり前のことと思っている。なお、子供たちが授業反省会を行うので、教師だけの研究協議会は短時間で終えている。これが当たり前と思う教師が増えてきたのも一つの成果だ。
多くの学校では、まだまだ教師だけの研究協議会が多いと思う。これでは、教師同士で話し合った内容が子供には見えない。そこで、内容を公開(付箋の公開)するとよい。情報開示と同じように、教師の考えた改善策等の付箋を授業学級の子供に届けるとよい。次の朝、教師が話し合ったことを子供に公開すれば、こぞって読むだろう。それが子供たちを励ますことにも繋がる。こうしたことが全国へ波及すれば、教師が主体的な授業はなくなると思う。学習指導要領が変わる今日、研究授業や研究協議会の在り方も見直す時期ではないだろうか。
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西留安雄
にしどめ・やすお 東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。大岱小では校長在任中に当時学力困難校といわれた同校を都内トップ校に育てた。現在、高知県・熊本県など各地の学力向上の指導に当たり、授業・校務の一体改革を唱える。主著に『学びを起こす授業改革』『どの学校でもできる!学力向上の処方箋』など。新刊『アクティブな学びを創る授業改革』が好評刊行中。