ミドルリーダーが創るこれからの学校

大脇康弘

ミドルリーダーが創るこれからの学校 最終回 ミドルリーダーの経験と成長

トピック教育課題

2019.07.23

ミドルリーダーが創るこれからの学校

最終回 ミドルリーダーの経験と成長
『新教育課程ライブラリ Vol.12』2016年12月

ミドルリーダーの成長の契機

 時代の転換期であり、教職員の世代交代期である今日、ミドルリーダーの役割と期待は大きい。教職経験10年前後の教員がこれまでベテラン教員が担ってきた役職に登用されることも珍しくない。そこには、教員構成が「ダンベル型」であることからくる学校現場の必然性が見え隠れする。ミドルリーダーがこれを成長の機会と捉え、難しい課題に挑戦しチームを形成して課題解決に向かう中で成長することを期待したい。それを先輩教員が支え、校長・教頭が指導し助言するサポート体制が必要である。そしてミドルリーダー自らが組織リーダーの取組みを振り返り意味づけることで、次の見通しや課題がみえてくる「良循環サイクル」を創り出すことができないだろうか。今回は、このミドルリーダーの経験と学習について考えてみたい。

 最近注目されていることだが、マネージャーが必要な能力・スキルを獲得するのは、仕事の経験であるという。仕事の経験を整理し振り返る中でその意味と課題を見出すという「経験の再構成」を行うことがポイントである。

 ロンバードとアイヒンガーLombardo and Eichinger(2002,2010)の研究によれば、マネージャーの成長は、①仕事上の直接経験、②他者の観察・助言、③読書・研修の三つによるもので、その比率は70%-20%-10%とされる。もちろん、この比率は平均値であり、仕事・職場・人により偏差は大きい。マネージャーは仕事の経験を通して学ぶこと(OJT)が基本であり、他者とのつながり(OJT)と読書・研修(Off-JT)が経験による学習と結びつくことが大切である。

 松尾睦北海道大学教授はマネージャーの経験と成長に関する研究の第一人者であるが、『経験からの学習―プロフェッショナルへの成長プロセス』(同文舘出版、2006年)『「経験学習」入門』(ダイヤモンド社、2011年)『成長する管理職』(東洋経済新報社、2015年)を刊行している。それによれば、マネージャーとして成長する契機は、「発達的挑戦」(developmental challenges)にあり、それは①変革に参加した経験、②部門を超えた連携の経験、③部下育成の経験の3種類の経験に類型化できるとする。

 松尾睦教授は「経験を通して学ぶ」には次の三つが大切だと指摘する。

 「適切な『思い』と『つながり』を大切にし、『挑戦し、振り返り、楽しみながら』(ストレッチ、リフレクション、エンジョイメント)仕事をするとき、経験から多くのことを学ぶことができる」(松尾睦、2011)。ここでいうストレッチは「高い目標に向かって挑戦する姿勢」を、リフレクションは「何かアクションを起こしている最中やアクション後に、何が良くて何が悪かったかを振り返ること」を、エンジョイメントは「やりがいや意義を見いだして、仕事を楽しむこと」を指している。マネージャーは職場で経験を通して学びながら成長することが、端的に表現されている。

 学校のミドルリーダーの場合、職場の多忙化の中で仕事に追われて振り返る機会が少なく、新たな挑戦を行うことも避けて仕事をやりくりすることになる。まして、仕事の意義を見出して楽しむ機会は限られているのではないだろうか。ミドルリーダーが組織リーダーとしての経験を意味あるものにする工夫が求められる。

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特集 見えてきた新学習指導要領─各教科等の検討内容

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大脇康弘

大脇康弘

大阪教育大学連合教職大学院教授

教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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