「主体的・対話的で深い学び」とカリキュラム・マネジメント 村川雅弘(甲南女子大学教授)
トピック教育課題
2019.05.28
目次
カリマネで学校を大改革
次の事例、私が今まで関わった学校の中で、ナンバーワンのカリキュラム・マネジメントをしていた小学校です。
なんと、この学校は、1月7日に公開研究会を開いていました。全学級公開です。しかも、前日は始業式。この学校は、かつて授業公開どころか日々の授業も困難な学校でした。生活の決まりが昇降口に掲示してありましたが、その中に「学校にエアガンを持ち込まない」といった項目まであった学校です。こんな掲示が平成23年くらいまで貼ってありました。テレビドラマに出てくる荒れた中・高校の小学校版です。3年以内の経験の浅い教師も半数を占めていました。
この学校が大改革を行います。
まず、子どもに学習技能を身に付けさせます。子どもが自ら学ぶためのガイドブックを作成します。発言のときに使うことばや順序、相互指名の仕方など学習のルールを徹底させ、自分たちで授業を進められる技術を身に付けていきます。それは対話的で協働的な学習のスタイルであり、今で言う「アクティブ・ラーニング」となっていました。授業では、誰でも安心して発表ができる、聞いてくれる、ちゃんと話し合える。こうした学習の基盤を、私は“学びのインフラ”と呼んでいますが、これは、新しい学習指導要領の総則にも「学習の基盤」という言葉が出てくるように、大変重要なことです。
子どもが学ぶためのガイドブックは、この学校がどのような授業をするのかということを、分かりやすい形で子どもたちに伝えるものであり、子ども自身が授業を創っていくことにつながります。なので、教師が授業中多くを語りません。子どもたちによる対話的で協働的な学習によって授業が創られていきます。
一方で、教師たちはというと、子どもと関わる時間と授業研究の時間を確保し、それ以外の研修はできるだけ短くしたり、研修もどんどん削減しました。その代わり、授業研究は徹底させます。ワークショップ型の研修を行い、授業の中の子どもの動きに対して、自分はどう考えているかを伝え、それをきちっと検証した上で、話し合う。これはまさにアクティブ・ラーニング的な研修なので、若い教師たちも伸びていきます。
例えば、あの先生は、めあてをちゃんと子どもに伝えてから授業に入っている。私はあまりできてないな、と。そうすると他の先生から、めあての確認は、前の時間の振り返りをやってから伝えないと、という意見が出てくる。そうすると若い先生は、めあてを伝えるだけでなく、前の授業とちゃんとつなげてないといけないし、そのためには、前の授業で振り返りをきちんとやっておかなければいけない、ということに気付いていきます。授業というのは1時間1時間で見るものでなく、つながりで見ていかなければならないということを学んでいくわけですね。授業づくりが教師全員の課題となっていきます。こうした研修を積み重ねていくと、若い教師でも研究主任を任せられるようになっていきます。
こうなると、授業研究が、授業者だけに焦点をあてたものにとどまらず、むしろ授業者自身が自分の研究授業を踏まえて、学校全体の今の取組みの成果と課題、改善策を明らかにすることが、今日の私の役目だということを自覚できるようになります。授業を通して学校全体の取組みの見直しを図っていくという発想ですね。これが、カリキュラム・マネジメントの一つの姿なんです。
それからこの学校に行って驚いたことがあります。校長室に行って、校長先生のソファに私が座っていると、目の前にさりげなく修学旅行のしおりが置いてある。「そういえば校長先生、先週修学旅行でしたね」言うと、校長先生は、ちょっとにやっとしている。怪しいなと思って、しおりを見たら。来年度のものになっていました。「校長先生、これ年度が間違っていますよ」と言うと、「村川先生、これ来年のしおりです。修学旅行が終わってすぐに改善プランを立てて来年のものをつくってしまうんです。やって終わりといった行事でなく、振り返りをして直後に次のプランを立てる。そうすれば、次の修学旅行のための打合せをしないですむんですよ」と言われました。
この学校では、こうした取組みを「直後プラン」と呼び、PDCAのCAからPまでを実施直後にやることによって、反省を生かし、改善し、次につなげるということを実に合理的に行っていたわけです。校長は、それをDCAPプランと呼び、学校の教育活動のあらゆるところで実践していました。Dを起点にCAPを有機的につないでいたわけです。
このように、子ども自身が授業を創れる指導と教師たちが切磋琢磨しながら成長できるシステム、そして、Dを起点としたマネジメント・サイクル。これらすべてがカリキュラム・マネジメントとして機能し、底辺をさまよっていた小学校を都内有数の学力トップ校へ導いたわけです。
つまり、カリキュラム・マネジメントは学校にイノベーションを起こすものとなりうるということをぜひ、ご理解いただきたいと思います。
学びを変えるカリマネとアクティブ・ラーニング
最後に、自己の学びのカリマネということについてお話をさせていただきたいと思います。
私はカリキュラム・マネジメントの最終ゴールは、子ども一人一人が学びを通して身に付いた資質・能力を意識的・自覚的に振り返ることを繰り返していく過程で「自己のキャリア」が形成されること、そのことによって変化の激しい社会を生き抜くために生涯にわたって学び続ける主体者として育てていくことにあると思っています。
自分の学びを振り返ることに関しては、この単元で、自分はどんなことが分かったか、できるようになったか。そして、振り返りの中で、自分はどうしてこのような考えになったのかを振り返ったりする。例えば、まず、自分が考えて、友達と話をして、何が分かったか、そしてその後、課題をどう解決していくか。このように、学びを振り返りながら次なる学びへの意欲をもつこと。学びに向かう力を自ら育てること。つまり、学びを振り返ることによって、次の学びへと進んでいったり、学びに向かう力という資質・能力を育てていくことが大事だと思うんです。要するに、子どもたち自身が自分の学びをマネジメントしていくことが大切なポイントだと思うんです。子どもが自分の学びについてPDCAを実践していけるような学びのサイクルをつくっていけるようにするということです。
これからの資質・能力は、やはり子どもたちが自らの成長を自覚して、次の学びにつなげていくことによって育成できると考えます。あえて振り返りをさせることによって、子どもたちが自分の中に眠っている成長を引き出し、それを自ら自覚していけるような学びにしていくこと、そうしたサイクルをつくっていくのがカリキュラム・マネジメントであるし、そこに向けてとるべき手立てが「主体的・対話的で深い学び」であると思います。
(構成/編集部)
甲南女子大学教授
村川雅弘
Profile
むらかわ・まさひろ 大阪大学人間科学部大学院博士課程を就職中退。鳴門教育大学教授等を経て平成29年度より現職。専門は教育工学、カリキュラム開発、総合的な学習、教員研修等。日本カリキュラム学会(理事)、日本教育工学会(理事)、日本生活科・総合的な学習教育学会(理事)に所属。中央教育審議会専門部会委員、教育研究開発企画評価会議協力者などを歴任。編著に『「カリマネ」で学校がここまで変わる!』『学びを起こす授業改革』『実践 アクティブ・ラーニング研修』(ぎょうせい)、『「ワークショップ型校内研修」充実化・活性化戦略43』(教育開発研究所)など。