教育Insight

渡辺敦司

教育Insight 技術革新と高校改革で教育再生実行会議が11次提言

トピック教育課題

2019.09.15

教育Insight
技術革新と高校改革で教育再生実行会議が11次提言

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.3 2019年7月

 政府の教育再生実行会議(座長=鎌田薫・前早稲田大学総長)は5月17日、第11次提言「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について」をまとめた。1月に発表した19ページの中間報告に比べ、33ページに拡充。ICT(情報通信技術)を学びの「マストアイテム」(必需のもの)と位置付けてSociety5.0を担う人材育成を推進するとともに、生徒の7割が通う高校普通科に国が「類型の枠組み」を示して各校が選択できるようにすることを提言している。提言の具体化は、4月に初等中等教育の“包括諮問”があった中央教育審議会に委ねられる。

Society5.0の立ち遅れに危機感

 第11次提言は昨年8月、「技術革新」「高校改革」の二つのワーキンググループを設けて各7回の会合を開催。5月14日にまとまった自民党「教育再生実行本部」の第12次提言も参考にした。

 第11次提言では総論として、急速な人口減少や少子高齢化が進む中、地方創生に国を挙げて取り組むことが喫緊の課題だと強調。人生100年時代には、一人一人が生涯を通じて社会に貢献するため能動的に学び続けることが重要だとした。

 さらに、人工知能(AI)やロボティクス、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)といった技術革新でSociety5.0と言われる「超スマート社会」が到来する中、日本が世界に先駆けて「課題解決先進国」にならなければならないと訴えている。

 一方で、AIやIoT分野では最先端諸国に比べて大きく立ち遅れていることを認めるとともに、国内の地域間格差も大きいことから「我が国は内外ともに危機的な状況にあり、国内外で一歩を踏み出すべき瀬戸際に立っている」との危機感を示し、専門人材の育成やデータサイエンス等のリテラシー向上には、教育再生を「大胆にスピード感を持って」進めるべきだとしている。

個別最適化とともに直接体験も

 一つ目のテーマ「技術の進展に応じた教育の革新」では、Society5.0の変化のスピードや姿は誰にも予測することができないものの、世界ではAIなどの先端技術を活用したイノベーションが創出されつつあり、開発と利活用の双方から先端技術を適切かつ積極的に使いこなしていくことが不可欠になるとの認識を示した。

 教育では学習状況のビッグデータである「スタディ・ログ」を活用した「公正に個別最適化された学び」の実現が期待されるが、個別最適化された学びだけでは今後の社会を生きていくために必要な力のすべてを育むことはできないと注意を喚起。「直接体験」の機会を充実することにより、自分の価値を認識しつつ他者と協働する機会を設けることが不可欠だとしている。

 その際、教師の資質・能力の向上や、「脆弱」なままの学校のICT環境の整備も求めている。

 具体的には、新学習指導要領で充実されたプログラミングやデータサイエンス、統計教育については全児童生徒に基盤的学力を習得させた上で、高度専門人材を育成する必要性を改めて強調。国には児童生徒の情報活用を客観的に測定・把握するための手法を検討することを求めるとともに、STEAM教育(科学、技術、工学、芸術、数学の教科横断的な教育)を推進するために、総合的な学習の時間や総合的な探究の時間、理数探究等で問題発見・解決的な学習活動の充実を図るべきだとしている。

 その上で、技術革新の急速な変化を見据え、学習指導要領や解説の一部改訂など教育課程の不断の見直しを進めたり、特に高校の情報や工業、商業など教科書の一部訂正制度の積極的な活用を推進したりすることも求めた。

 教師の在り方では、育成指標や研修計画でICT活用指導力を明確化するとともに、研修等を受講した場合に人事評価で考慮することを求めた。また、教職課程の改善だけでなく、産業界とも連携して教員養成を先導する「フラッグシップ大学」を創設することも提言した。

 ICT環境整備としては、地方自治体ごとに整備状況等を「見える化」して格差が生じている要因・背景をきめ細やかに分析し、阻害要因への必要な対応を「可及的速やかに行う」としている。

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