直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~ [第4回]SDGsは事務室から
トピック教育課題
2023.02.15
直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~
[第4回]SDGsは事務室から
学校法人湘南学園学園長
住田昌治
あなたの学校にも必ずあるSDGs
先日、横浜市公立学校事務職員研究協議会の役員の方々が湘南学園にいらっしゃいました。全体研修会での講演の依頼と打ち合わせが目的で、その講演内容が「ESD/SDGs」に関することでした。
なぜ、「ESD/SDGs」なのかと会長に尋ねると「学校事務職員の仕事は、経理、管財、文書・情報、給与、就学、福利厚生など多岐にわたっていますが、その領域における専門性をより一層高めるとともに、広い視野で積極的に学校運営に参画することが重要です。物品購入に日常的に関わっていても、その物品を教員が何のために必要としているのか、他に必要なものはないのか、代用できるものはないのか、自分たちが直接関わることはないのか…と考える必要があると思うのです。特に、最近はESD/SDGsに関する物品購入の依頼が増えていて、事務職員もSDGsについて知っておいた方がいいのではないかと思うのです。前回、SDGsの研修会をやった時に参加者が多かったのは、事務職員の間でもニーズが高まっているからだと思います」という回答でした。
また、子どもたちが知っているのに、自分たち大人が知らないというのは恥ずかしい、ぜひ一緒に考えられるように学びたいという声もありました。「ESD/SDGsはやらない」という選択肢は、もはやないのではないでしょうか。世界には持続不可能性が蔓延し、待ったなしの状況を呈している社会において、「やらねばならない」というくらいの危機感があるのかもしれません。現在では小学生、もしかしたら幼稚園児まで、SDGsを知っているかもしれません。子ども番組でもSDGsのロゴや話、取組みが紹介されることがあります。もちろん、教科書にも出てきますので、子どもたちの認知度は高く、自分にできる活動をすることで、SDGs達成に向けた意識も高くなってきています。大人が子どもに教えるのではなく、子どもから大人が教えてもらう、または、一緒に学び合ったり、活動したりするという特徴があるのがESD/SDGsであり、そこに、年齢制限はないのです。
さて、事務職員の方々に向けて何を話すか?──できるだけ分かりやすく、自分事にしてもらいたいと思います。そこで、「皆さんが今までやってきたことは、SDGsであり、皆さんは既にSDGsの実践者です。横浜でやってきたESDの特徴にも目を向けてみてください」という話をしようと考えています。
SDGsには、17のゴールごとに10個程度のターゲットがあり、具体的な数値やどのようにゴールを解決していくかが説明されています。例えば、ゴール4には、7番目のターゲットとして「2030年までに、持続可能な開発と持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和と非暴力の文化、グローバル市民、および文化的多様性と文化が持続可能な開発にもたらす貢献の理解などの教育を通じて、すべての学習者が持続可能な開発を推進するための知識とスキルを獲得するようにする。」とESDに取り組むことが示されています。
全部で169あるターゲットを意識してみることによって、事務職員の皆さんがやってきたことが、持続可能な社会づくりに役立ってきたことを伝えたいと思います。ESDについて知ることで教育活動への関心を高め、授業づくりについても関わっていけるようになると、より円滑な学校運営に資することができるようになります。「ESD/SDGs」は決して他人事ではなく、遠い世界の話でもなく、新たに出てきた話でもなく、ずっと身近にあった話なのだと気づき、すべての人が当事者になることが大事なのだと思います。
かながわSDGsパートナー
私が勤めている学校法人湘南学園は「かながわSDGsパートナー」に登録して活動しています。幼稚園・小学校・中学校・高等学校の総合学園として登録している教育機関は他にはありません。そして、その窓口を務めているのが事務局です。事務局長を中心に事務局、幼稚園・小学校・中学校・高等学校が協力して活動しています。しかも、湘南学園カフェテリアを運営している「NPO法人湘南食育ラボ」も「かながわSDGsパートナー」に登録して活動しています。一つの敷地内で二つの団体が登録されている、SDGsへの意識が高い学園とも言えます。
その取組みの一つに「フードドライブ」があります。10月は「食品ロス削減月間」です。学園では昨年に引き続き、フードドライブを実施することにしました。各家庭で消費しきれない食品等を持ち寄り、フードバンクに寄付することで、食品ロスの削減、子どもの貧困の解消につながるというSDGsアクションの取組みの一つです。「もったいない」「分かち合い」「ありがとう」をキーワードに、フードバンクふじさわを通して支援を必要とされている方にお届けします。ESDでは、「分け合えば足りる」と言われてきましたが、食品ロスを減らし、食べ物の価値を活かすこと、フードバンクを通じて、地域の助け合い・支え合いを実現すること、生活に困っている人・社会的に弱い立場にある人々の食のセーフティーネットを目指すことの必要性を改めて確認することができました。学校法人としてのSDGsの取組みの窓口が事務局になっていることは、ESDが授業の中だけ、教員だけで行うのではないということを示しています。
「ESD/SDGs」の取組みは、教室の中だけでやるものではなく、学校全体でやるものです。ですから、教員、講師、事務職員、学校図書館司書、用務員、調理員、警備員、支援員…、さらにPTA、地域コーディネーター、学校運営協議会…、さらに地域、企業、行政、NPO…と広がりながら、つながりながら、進めていくのです。
Profile
住田昌治 すみた・まさはる
学校法人湘南学園学園長。島根県浜田市出身。2010〜2017年度横浜市立永田台小学校校長。2018〜2021年度横浜市立日枝小学校校長。2022年度より現職。ホールスクールアプローチでESD/SDGsを推進。「円たくん」開発者。ユネスコスクールやESD・SDGsの他、学校組織マネジメント・リーダーシップや働き方等の研修講師や講演を行い、カラフルで元気な学校づくり、自律自走する組織づくりで知られる。日本持続発展教育(ESD)推進フォーラム理事、日本国際理解教育学会会員、かながわユネスコスクールネットワーク会長、埼玉県所沢市ESD調査研究協議会指導者、横浜市ESD推進協議会アドバイザー、オンライン「みらい塾」講師。著書に『カラフルな学校づくり〜ESD実践と校長マインド〜』(学文社、2019)、『「任せる」マネジメント』(学陽書房、2020)、『若手が育つ指示ゼロ学校づくり』(明治図書、2022)。共著『校長の覚悟』『ポスト・コロナの学校を描く』(ともに教育開発研究所、2020)、『ポストコロナ時代の新たな学校づくり』(学事出版、2020)、『できるミドルリーダーの育て方』(学陽書房、2022)、『教育実践ライブラリ』連載、日本教育新聞連載他、多くの教育雑誌や新聞等で記事掲載。