直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~  [第1回] 持続可能な社会は、持続可能な学校づくりから

トピック教育課題

2022.07.29

直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~
[第1回] 持続可能な社会は、持続可能な学校づくりから

学校法人湘南学園学園長 
住田昌治


『教育実践ライブラリ』Vol.1 2022年5

 学習指導要領に初めて前文が設けられ、これからの教育には「持続可能な社会の創り手」を育むことが求められていることが明記された。持続可能な社会の「担い手」ではなく「創り手」となっているところがポイントだ。では持続可能な社会とは? 小学校6年理科・社会の教科書には、「将来生まれてくる人々がくらしやすい環境を残しながら、今を生きる人々も豊かにくらす社会のこと」と記されている。簡単に言うと「だれもが長く快適に暮らしていくことができる社会」と言うことができるだろう。

 漠然とした不安や違和感、世界に蔓延する暴力の連鎖、排他的な自国中心主義、コミュニティの対話力・多様性受容力・共感力の欠如、非寛容な社会が広がってきていると感じる現代社会。このような持続不可能な社会のシステムを引き継いで子どもたちに担わせるのか? いや、持続可能な明るく豊かな未来を創っていく子どもを育みたい。しかし、これから先、子どもたちが今までと同じように豊かな生活を過ごせる保証はない。貧困や飢餓、ジェンダー平等、平和や人権、安全な生活、気候変動、生物多様性、持続可能な生産と消費、少子高齢化……山積する問題がもたらす不安は、未来をつくる子どもたちへの負債となる。今、私たちが目の前の問題に真剣に向き合わなければ、これからの時代を生きる子どもたちにすべてのツケを払わせることにもなるのである。

再現のための教育から変容のための教育へ

 そうならないためには、覚えたことをはき出すような再現のための教育から、自分で考え、自分で問題解決する変容のための教育への転換が求められる。従順に言われたことをこなすだけでは、充実した豊かな生活を営めない。批判的な思考力を高め、すぐに答えを求めるのではなく、急がず、ゆっくり考えて、多様な考えを尊重し合う学校文化に変えていかなければならない。そんな学校の体質改善を行う時、授業に主体性・多様性が求められているのに、学校そのものが受け身・画一的で変わろうとしないのであれば、ますます体質は悪化する。先生が変わらなければ、授業も変わらない。それどころか、主体性のない、疲れ果てた先生を毎日見続けなければならない子どもたちは、こんな大人になりたくないと思うだろう。「子どもは言うようになるのではなく、大人がするようになる」と言われる。特に長い時間、行動を共にする学校の先生の影響は受けやすい。

 私たちが日々の生活の中でどんな選択をするか。これまでの集大成が、今の社会である。これからはどんな選択をするか、様々な出来事にどう関わるかで未来が創られる。すべての人が持続可能な社会の創り手である。「誰一人取り残さない」というのは「誰一人取り残すことなく、すべての人が自分事として取り組む」ということでもあると思う。持続可能性(サスティナビリティ)を意識した暮らしをしていかなければ、持続不可能性が増してきた私たちの生活を次世代に引き継ぐことになってしまう。そうならないように今のうちにやっておいた方がいいこと「SDGs」17の目標で示し、その実現に向けた教育「ESD」を推進していくことが学校現場には求められていると考えている。

 この連載では、各学校において学校経営そのものをSDGsの視点で捉えなおし、持続可能な学校(サスティナブルスクール)をつくるためのスクールリーダーの在り方について考えていきたいと思う。

持続可能な学校をつくる

 さて、持続可能な学校とは、どんな学校だろうか? 「誰もが長く快適に過ごせる」学校だとすると、「教職員はずっとこの学校で働きたい」「子どもは毎日学校に行くのが楽しい」「保護者はこの学校に通わせてよかった」「外部の人からはこの学校はいい学校だと言われる」というようなことではないだろうか。私が小学校長を務めた学校は2校だが、1校は「元気な学校」「明るい学校」「行きたくなる学校」「カラフルな学校」と言われた。もう1校は「安心感のある学校」「雰囲気のいい学校」「自由な学校」と言われた。ESD(持続可能な開発のための教育)を基盤として学校経営をしてきたので、周りから見える持続可能な学校は、このような学校と言えるのかもしれない。

 学校全体が持続可能になっていくためには、ここ数年話題になっている教職員の働き方も重要なテーマになる。「元気な学校は、元気な教職員から」「持続可能な学校は、持続可能な教職員の働き方から」である。

 最高のパフォーマンスのために「不眠不休、寝食を忘れて働くのが美徳、長時間労働は当たり前」とする働き方から、「寝食を忘れず、自分で1日の生活をマネジメントする」働き方に変革することが重要だ。旧態依然としたやり方を変えようとしない前例踏襲が学校文化の特徴だが、今まで通りという習慣にとらわれず、「変えることができた」という経験を積むことで自己肯定感・自己有用感も高まる。

 教職員の負担が減って「ゆとり」ができれば、教職員が元気になって教育活動が充実し活性化する。反対意見もあるかもしれないが「教職員が幸せになる」という視点が大切である。子どもは、疲れ果てて元気のない先生ではなく、元気で楽しそうに授業をしてくれる先生を求めている。

 多様性が求められる社会において、ブラックであろうがホワイトであろうが画一的に一色にしようとすることは避けなければならない。私たちが目指すのは、一人一人の個性が尊重され、それぞれの色が輝くカラフルな学校である。持続可能な社会を創っていくためには、一人一人が自分らしさを発揮し、活躍することができる持続可能な学校にしていかなければならない。子どもたちを「可能性に満ちた存在」と信じて成長を見守る教職員のまなざしは、職員室でも職員同士に向けられ、「成長し続ける可能性に満ちた存在」として信じ合うことにつながる。持続可能な社会を実現するために大事なこと、「話そう、聴こう、考えよう、学び合おう、分かち合おう。そして行動に移そう。まず自分から。」

 このテーマでの連載は年間6回になるので、次回からは具体的な取り組みについてお知らせしたいと思う。

 

 

Profile
住田昌治 すみた・まさはる
 1980年より横浜市立小学校に勤務。2010〜2017年度横浜市立永田台小学校校長。2018〜2021年度横浜市立日枝小学校校長。2022年度より現職。ホールスクールアプローチでESD/SDGsを推進。「円たくん」開発者。ユネスコスクールやESD・SDGsの他、学校組織マネジメント・リーダーシップや働き方等の研修講師・講演や記事執筆を行い、元気な学校づくり、自律自走する教職員集団づくりで知られる。かながわユネスコスクールネットワーク会長、所沢市ESD調査研究協議会指導者、オンラインサロン「エンパワメント」講師、「みらい塾」講師、横浜市身にバスケットボール連盟参与他。単著に、『「カラフルな学校づくり」〜ESD実践と校長マインド〜』(学文社、2019年)、『管理しない校長が、すごい学校組織をつくる!「任せる」マネジメント』(学陽書房、2020年)、共著に、『校長の覚悟』『ポスト・コロナの学校を描く』(ともに教育開発研究所、2020年)、『ポスト・コロナ時代の新しい学校のマネジメント』(学事出版、2020年)。「日本教育新聞」連載他、多くの教育雑誌や新聞等で記事掲載。最新刊/単著『若手が育つ「指示ゼロ」学校づくり』(明治図書出版、2022年)好評販売中。

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