講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II [第2回]形成的評価──フィードバック
授業づくりと評価
2021.10.22
講座 子どもを伸ばすこれからの学習評価 Part II
[第2回]形成的評価──フィードバック
一般社団法人教育評価総合研究所
代表理事 鈴木秀幸
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月)
評価結果のフィードバック
形成的評価が効果を上げるために必要な工夫として、前回は教師の質問を取り上げた。教師の質問は、生徒の考えていることを聞き出し、誤った理解や不十分な理解を見つけだして、指導するために使うことのできる最も手っ取り早い評価方法である。
形成的評価に関する次の課題は、生徒の学習状況について得られた情報を生徒に伝える方法である。評価の結果として役に立つ情報を得られても、その情報をもとに生徒自身が学習の改善に生かさなければ、形成的評価として機能しないこととなる。今回は、必要な工夫の第二として、評価結果を生徒に伝える方法について考えてみたい。教師が生徒に評価結果を伝えることをフィードバックという。このフィードバックとしてどのような方法を用いるかによって、形成的評価の効果は変わってくる。そのため今回は、形成的評価の実践研究から分かってきた効果的なフィードバックのあり方を考えてみたい。
効果に乏しいフィードバック
(1)点数を知らせること
通常、学校ではテストを実施して、その結果を点数で示すのが普通である。これも一種のフィードバックではあるが、点数で示すことのできるのは「よくできた」または「よくなかった」などということになる。
このようなフィードバックは生徒の自尊感情に訴えるだけであり、悪い結果のフィードバックの場合には、自尊感情を損ない、逆に学習への意欲を阻害する(よい結果の場合は、自尊感情を高めることで学習への意欲を高める効果はある)。点数を知らされた生徒は、自分の点数が他者と比べてどうであったかに関心を向けてしまいがちとなる。そのため、点数を示すことは、学習の改善に関してほとんど効果がないことが分かっている。点数だけでなく、定期テスト等の結果を知らせる場合に、教科ごとや全教科を合算した順位を知らせることもあるが、これも点数をフィードバックするのと同じである。
(2)「よくできました」「がんばりました」などのコメント
フィードバックの別の方法は、言葉によるフィードバックである。言葉によるフィードバックを、ここではコメントとして考えてみる。前記の点数を示すことに加えて、「よくできました」とか「がんばりました」というような賞賛のコメントや、努力を称えるコメントを付け加えることがしばしば行われる。また、生徒が仕上げた課題を返却する際に、これらのコメントを述べたり、書いて返却したりする。しかし、これも点数と同様に形成的評価としての効果は乏しいことが分かってきた。
(3)生徒が理解できないコメント
教師のコメントに関して、これを受け取る生徒がどのような感想を持つかについての調査によると、教師のコメントが理解できないことが多いという結果が示されている。例えば「もっと詳しく書くように」とか「多面的に考えること」などのコメントは、一般的過ぎて生徒には理解できないという。また、同じようなコメントを繰り返されることが多いので、コメントを真剣に受け取らなくなるという。
また、教師のコメントが「きれいに書けています」などというものだと、きれいに書くことを学習の目標と受け取る生徒もいる。そのため、きれいに書くことを常に心がけるようになるという。
なお一部の生徒は、自分の作品等に赤字でコメントを書かれると、何か棄損されるように感じるという。作品そのものに書くのではなく、別の紙に書き作品に添付したほうがよいし、赤字も避けたほうがよい場合もある。
(4)点数とコメントの組み合わせ
点数とコメントを組み合わせる場合には注意が必要である。たとえ後で述べるような適切なコメントであったとしても、点数が並置されていると、生徒の関心は点数に行ってしまい、コメントをしっかり読まなくなる傾向がある。そのため、コメントと点数を並置しないことが必要である。
効果的なフィードバック
これまで述べてきたことから、効果的なフィードバックのためには、逆効果をもたらすフィードバックをできるだけ避けることが必要である。なかなか難しいことであるが、できるだけ点数で評価結果を知らせることを避けることがまず第一歩となる。結局のところ点数は形成的評価として機能しないため、総括的な評価となるのである。点数を示し続けると、学習の目的や評価の目的は、高い点数を取りよい成績をあげることであると考えるようになり、学習を進歩させるものであると考えなくなるのである。このような評価に対する生徒の考え方をまず転換する必要がある。
効果的なコメントの内容は何かというと、学習の目標に照らして、どこが適切であり、どこが改善を要するかをできるだけ具体的に示すことである。
先の例でいえば「……のところをもっと詳しく書くように」と詳しく書くところをピンポイントで指摘したり、「……の見方以外の見方もあることを述べたうえで、どちらが重要であるか述べるように」などとコメントしたりすることである。
このようなコメントを繰り返し行うことで、生徒は評価の目的は成績を付けることではなく、学習の向上のためのものであると少しずつ考えるようになる。さらに教師自身もこのようなコメントができるような課題を工夫するようになっていく。保護者にとっても、点数を示されるだけよりは、改善すべき点を示された方が、支援すべき内容が具体的に分かるのである。
Profile
鈴木 秀幸 すずき・ひでゆき
一般社団法人教育評価総合研究所代表理事。2000年教育課程審議会「指導要録検討のためのワーキンググループ」専門調査員、2009年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員、2018年中教審教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」専門委員等を歴任。主な著作に『スタンダード準拠評価』(図書文化社)、『新指導要録と「資質・能力」を育む評価』(共著、ぎょうせい)『新しい評価を求めて』(翻訳、論創社)など。