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「こども哲学」入門[第2回]学校で「哲学」をするということ

NEWトピック教育課題

2021.10.25

「こども哲学」入門[第2回]学校で「哲学」をするということ
立教大学教授 
河野哲也

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月

学校教育で大切なこと

 なぜ、私は、こども哲学を学校で行うことを推奨しているのでしょうか。それは、アメリカの哲学者、マシュー・リップマンがP4Cを始めた動機と似ています。リップマンは、もともと名門、コロンビア大学で哲学を教えていました。しかしそこに入学してくる学生に、二つの問題を感じたのです。

 一つは、大学生が勉強に意欲を感じていなかったことです。もう一つは、自分で考える力が弱かったことです。学習意欲と思考力、一見すると、まったく別の心の働きのように思いますが、実は、この二つの弱さは深いところでつながっています。リップマンは、この二つを大学生になる前からしっかりと養っておく必要があると考えたのです。

学ぼうとする動機

 こどもは、ある程度の年齢になると「なんで、この勉強をしなければならないの」と問いかけてきます。こどもが、そうした質問をする理由は、一つには、学校での学びが面白くないからです。学びが面白くないのは、すでに正解が分かっていることを学ばせようとするからです。人間を惹きつけるのは「謎」です。まだ誰も分かっていない、自分も友だちも大人たちも分かっていない謎を追求するからこそ、面白いのです。知る喜び、知らないことを探究する好奇心が、学びを動機付けるのです。

 二つ目に、学校で学ぶことが、世の中のどのようなことと結び付いているのか、自分の将来とどのように結び付いているかが見えてこないからです。

 今の学校の勉強は、残念ながら、学校の中で閉じています。この計算ができるようになると、どのようなことができるようになるのか。この知識を知ると、どんなときに役に立つのか。自分が学んでいることと世界や実際の社会とのつながりが見えてこないと、学ぶ意味が分からないのです。意味が分かるということは、関連性が分かるということです。学校では、先生は、教科書や授業をそのものとして学ばせることばかりに注意を向けていて、その内容を学ぶことの意味についてほとんど説明しません。ですから、ただ与えられたことを学ぶのに疑問を抱いて、モチベーションがあがらなくなってしまうのです。

 さらに、自分のためだけに何かをする活動というのは、飽きてしまうものです。自分がこれをやると何かの役に立つ、誰かを喜ばせることになる。他の人とつながっていく。こうした人間同士のつながりから切れてしまった作業は、あまり強い動機をもてないものです。大人も同じではないでしょうか。今の自分のやっているこの作業が、最終的にどのような形で、人の人生にどんな影響を与えているのかを知らなくては、単調な作業には耐えられないのではないでしょうか。学校教育の最大の使命は、こどもに学ぶことの面白さとその意味を感じてもらうことです。

思考力とは何か?

 今の世の中では考える力が大切だといいますが、思考力とは何でしょうか。コンピュータと同じ演算や集計の能力なら、人間がやる必要もありません。いえ、コンピュータは考えることをしません。なぜなら、「考える」ことは、「問い」が生まれて初めて生じるからです。

 日常生活が習慣どおりに進んでいるときには、私たちはあえて考えません。何か不都合が生じたとき、何かの問題が現れたときに、私たちは初めて考えはじめるのです、どうしたらよいかと。突然立ち現れた問題になんとかして解決しようとするのが、思考力です。だから、思考は、パソコンの計算のようにスイスイいきません。その逆に、ああだ、こうだと仮説を立ててみる。仮説どおりにうまくいかないので、発想を変えてみる。偶然でもうまくいくまで修正をくりかえす。調べ直して、人ともディスカッションしてみる。こうしてさまざまに試行錯誤をしながら、粘り強く課題を探究することが、「思考力」と呼ばれるものなのです。思考力は、PCのアプリのようにインストールできる能力ではありません。それは、課題に食らいつき、取り組みを続ける総合的な力なのです。ですから、思考力にとって最も大切なのは、挑戦し続けるモチベーションなのです。

 こう考えるならば、思考力と意欲が密接な関係にあることがお分かりだと思います。

探究の共同体

 こども哲学の本質は、こどもたち自身が提起する問いを、「探究の共同体」というグループを作って、対話しながら考え、考えながら対話していくことにあります。あるテーマについて、皆で話し合うことによって、自分以外のさまざまな考えに触れることができます。一つの物事が多様に捉えられます。

 「昆虫には心はあるか」。こんなテーマで話してみると、こどもからいろいろな意見が出てきます。そうしたなかで、生命や知能、感情について、今まで自分では当たり前に思っていたことが問い直されています。自分の親しい友人の、自分とは異なった意外な意見に、こどもたちは目を見張り、耳を澄ませます。「なんであの子はそんなふうに考えるのだろう」「どっちが正しいのだろう」「どうしたら、どの意見が正しいか確かめられるだろう」「もっとうまい質問の仕方はないかな」。こうした問いが次々に生まれてきます。謎が謎を呼び、問いが問いを呼びます。

 こうした過程が「探究する」ということです。現代社会では、クイズ番組のような即答できる答えを憶える学びにはほとんど意味がなくなりました。そういうことならAIの方が得意でしょう。こどもの教育でも、社会や生活における本当に重要な課題に、グループでじっくりと取り組んでもらうことが大切です。自分にとって意味のある課題なら、こどもはやる気を見せます。そして、他者との対話は、自ずと探究する思考を呼び込むのです。

 

 

Profile
河野 哲也 こうの・てつや
 立教大学文学部・教授、博士(哲学)、慶應義塾大学。日本哲学会理事、日本学術会議連携委員。専門は、現代哲学と倫理学、近年は環境問題を扱った哲学を展開している。「こども哲学」を、未就学児から高校生まで対象として、全国の教育機関や図書館で実践している。著作『人は語り続けるとき、考えていない:対話と思考の哲学』(岩波書店、2019)、『じぶんで考えじぶんで話せる:こどもを育てる哲学レッスン・増補版』(河出書房新社、2021)など。

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