政策形成力の磨き方 - その5 発想力

キャリア

2024.02.13

★本記事のポイント★
1 「政策形成の職人芸」では、原因を見つけて、原因と結果の因果関係を把握する中で解決策を模索するという政策案の発想の手順あるいは枠組みについて考察した。 2 発想の技法として、ブレインストーミング法(BS法)やKJ法などが開発されおり、政策形成の実務にも活用されている。発想することは、発散と収束という思考を織り交ぜてアイデアを出すこと。 3 因果関係の流れを構成する個々の要素である原因や解決策の発想には、発散の技法であるBS法が参考となる。BS法には、①批判禁止、②質より量の追求、③突飛な意見歓迎、④他の意見に便乗というルールがある。

 

1.政策案の発想

 今回は、政策案の発想の仕方を考えたいと思います。
「政策形成の職人芸」の第6回で、解決の方向性のイメージを基にして、原因の分析、因果関係の把握により、政策案が思い浮かんでくるのではないかとしました。つまり、原因を見つけて、原因と結果の因果関係を把握する中で解決策を模索するというものです。
 次に、原因から解決策を検討するためには、望ましい状況を思い浮かべて、その状況に到達するような手段を考える必要があります。望ましい状況は、社会的正義・公共性に適合する状況を考えることにより導かれるものなので、法令の目的規定、理念規定などの理解を深めておくことにより、具体的な問題における望ましい状況を思い浮かぶようにすることが重要だともしました。そして、望ましい状況に到達する手段については、「政策形成の職人芸」の第15回第16回で示した手段に関する知識が役立つでしょう。
 これらは、政策案の発想の手順あるいは枠組みと言ってよいと思います。問題は、その枠組みの中で、具体的に原因や解決策をどのように発想するかということです。

2.発想の技法

 ところで、発想の技法として、ブレインストーミング法(BS法)やKJ法などが開発されおり、政策形成の実務にも活用されています。このような発想の技法から、ヒントを探ってみます。
 「創造技法」に関する書物では、次のような発想の技法があるとされています

発散技法 発散思考を用いて事実やアイデアを出す方法
収束技法 発散技法で出した事実やアイデアをまとめる方法
統合技法 発散と収束を繰り返して行う方法で、発散技法と収束技法の両技法が含まれている技法
態度技法 主に創造的態度を身につける方法

 ここから、発想することは、発散と収束という思考を織り交ぜてアイデアを出すことでしょうか。
 ところで、前述の原因を見つけて、原因と結果の因果関係を把握する中で解決策を模索するという政策案の発想の手順あるいは枠組みというのは、因果関係の流れを構成する個々の要素である原因や解決策を関係性をつけて適切に配置するもので、KJ法とプロセスが類似する収束の技法と言えるでしょう。
 そうすると、この因果関係の流れを構成する個々の要素である原因や解決策をどのように発想するかが問題となりますが、発散の技法を参考に考えましょう。

 

3.発散の技法からのヒント

 発散の技法の代表的なものが、BS法です。BS法は、思いつくままに自由にアイデアを述べていく自由連想法と言われています。
 そして、BS法には、次のルールがあるとされています
①批判禁止(判断を持ち込まない) ②質より量の追求(できるだけたくさんのアイデアを出す) ③突飛な意見歓迎(無理そうなアイデアでも言う) ④他の意見に便乗(他人のアイデアをヒントにアイデアを出す)

 

4.事例で考えましょう

 <事例>
このBS法のルールから、発想に役立つヒントを検討しましょう。

 <考察>
⑴ 他人の意見を自分の判断を加えず受け取る
 他人の意見を批判すれば意見を出すのを躊躇することにつながります。他人の意見を自分の判断を加えず受け取ったうえで、その意見の意義や問題点を考え、自分の意見をまとめることが重要だと思います。
⑵ 法的思考のような批判的な思考を控える
「政策形成の職人芸」の第12回で、政策形成には政策を構想する創造的な思考方法が必要であるのに対して、法的検討には法律(条例)事項の検討、他の制度との整合性の検討など政策を型にはめるような批判的な思考方法が必要であるとしました。これが、法令立案における政策思考と法的思考の特徴かもしれません。政策案を模索する場合は、法的思考のような批判的な思考を控えて、創造的な政策思考をとるべきでしょう。
 また、批判的思考をとると、イメージが浮かばないことにつながる気がします。
⑶ 思いつきを表明する
 イメージなどが思いついたらすぐに表明することです。イメージを理路整然と文章化して表明することは難しいですし、時間もかかります。イメージを不正確でもよいですから、表現にこだわることなく表明すればよいと思います。
 また、政策デザインをする場合は、絵画を描く手順のように、全体のデッサンを描いたうえで細部を描くことが重要で、細部にこだわると、政策案の発想を妨げるかもしれません。
⑷ 解決策だけでなく原因、現状についても意見を出す。
 政策案の発想ということですから、設定された問題の解決策を模索するのが本筋だと思いますが、問題設定の前提となった現状の違った側面や考えていなかった原因もあるかもしれませんので、解決策だけでなく、このような現状や原因にも言及することは意義があると思います。特に、問題が大きければ現状や原因も広範囲に広がっていることが多いので、この意義は大きいと思います。
 また、人により問題の見方、思い浮かぶ解決策が異なり、問題の捉え方も異なることがありますので、設定された問題を完全に固定することも控えた方がよいかもしれません。
⑸ 一つ浮かべばそれから連想して別の案を発想する
 全く何もないところから発想することは難しいので、発想のスタートとなるアイデアを見つけて、そこから別のアイデアを連想することが重要だと思います。
 この点では、先行事例は発想のスタートとなるアイデアとしては、有力なものでしょう。ただ、条件の整備状況を無視して先行事例をそのまま持ち込むことは妥当ではありません。もし条件が整備されていない場合は、整備された条件に相応しい案として修正する必要があります。
 次に、「政策形成の職人芸」の第6回で、解決の方向性のイメージや政策案については、行為の禁止、給付など目的達成のために直接的な効果があるものが最初に思い浮かぶことが多く、それをたたき台として、問題があれば別の政策案を考える方法が、実用的かもしれないとしました。これも連想の一つの形かもしれません。

 皆さんには、以上のヒントも参考にしていただき豊かな発想力を発揮していただくことを期待します。

 

1 日本創造学会監修・高橋誠編著『実例で学ぶ創造技法』(日科技連出版社、2020年)本書の使い方参照。 2 前掲書36頁。
※ なお、『政策思考力入門』では、仮説思考方法として、BS法、KJ法などが紹介されています(同書138頁以下)。また、彩の国さいたま人づくり広域連合が発行している「政策形成の手引」の参考資料編には、発想の技法だけでなく分析の手法などが要領よく記載されています。
http://www.hitozukuri.or.jp/wp-content/uploads/tebiki_R4_08shiryou02_20221122.pdf

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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