クレーム対応術

関根健夫

クレーム対応術 11 不当な要求にも応える必要がある?

キャリア

2019.04.04

今さら聞けないクレーム対応術 11 『不当要求かどうかをどうやって見分ければよいでしょうか?』

『ガバナンス』2015年2月号

不当なことでも要求する権利はある

 クレームでは、法律に適わないこと、常識を逸脱したことを要求されることがある。受ける立場としては、言われても仕方のないこと、解決策のないこと、無理難題、つまりは不当とも思われる内容の要求である。

 しかし、不当なことを要求されたからといって、必ずしも不当要求とは限らない。こちらにとっては“不当”と思えることでも、本人は“正当”と思っている場合もある。それはこちらが不当な“内容”と判断したのであって、不当な“行為”とは言い切れない。

 本人が正当と思うことであれば、それを要求する権利はある。こちらが受け入れることのできない内容であれば、こちらは勇気をもって断ればいいだけのことである。

 不当要求の意味は、不当なことを要求することではない。「不当な手段を使って要求する行為」をいう。ここを間違うと、お客さまが正当と思って主張しているにもかかわらず、それを十分に受けとめることができずに、時には嫌悪の感情をもって排除にかかるような応対になってしまう。相手方にそのような感情を抱かせてしまい、結果として状況が悪化することは、少なくない。

悩むビジネスマン

不当な行為とは

 では、不当な手段とは、どのようなものだろうか。役所の窓口を想像すると、常識的には次の五つの行為が考えられる。

①暴力行為
 殴る、蹴る、ものを投げるなどが相当する。体に直接に触れなくても、机を叩く、いすを蹴るなどの行為も不当な行為だ。

②脅迫行為
 「俺の言うことをきかないと……をするぞ!」といったように、危害を加えることを告知して他人を脅すことをいう。「夜道は暗いから気をつけろ!」といったように、具体的な内容でなくても、それを連想させる言い方も、状況によって脅迫と判断される。

③面会の強要
 「上司を出せ」「○○に会わせろ」程度では、非常識な要求であって、即不当な行為とはいえない。先に述べたように、こちらは断ればよい。しかし、断っているにもかかわらず、度を超えて要求がしつこく繰り返されると、強要として不当な行為といえる。

④誹謗中傷、名誉毀損
 個人的なことに対して悪口を言うなどの行為は、基本的にやってはいけないことだ。職員に質問する行為も、度を超えて詰問する状況になれば不当といえる。

⑤業務妨害
 こちらが通常の業務をするに当たって、それがしにくい状況に陥らされると妨害行為になる。相手方が妨害を意図していなくても、大声を出す、話を長引かせるなど、結果的にこちらの業務がしにくくなる行為も含まれる。

 お客さまから以上のようなことをされたら、それは不当要求行為だ。つまり、違法行為である。しかし、行政の窓口では、お客さまがつい大声を出してしまったなどというケースは、日常的にないことではない。これらのことを違法として、即刻排除すべきかどうかは程度問題である。その場で状況を判断するしかないのだ。その行為を違法として排除するならば、その手段は、例えば警察に通報することである。

どうなったら不当要求なのか

 どんな時に、どうなったら不当要求と断定して排除するのかについて、悩んでいる職員は多い。どうなったら同僚や上司に助けを求めてもいいのか、果たして警察を呼んでもいいのか、現実にこの見分け方がクレーム対応の重要なポイントになる。不当要求を判断するポイントは、警告にある。つまり「やめてください」と言うことだ。例えば、クレームを長々と述べてくる人がいる。相手が主張する以上は、まずは聞かなければならない(ポイント3・4参照)。

 しかし、それも程度問題である。永遠に聞く必要はない。こちらがすでに十分対応したと判断したら「すでに十分に説明しました。この話はここまでにさせてください」などと言う。正当な理由をもって「やめてください」と警告を発しているにもかかわらず、相手方が正当な理由なくそれを拒否して行為を続けると、それは不当といえる。これらの発言をするときは、こちらが十分な対応、説明をする責任とのバランスが重要だ。十分な説明をした上で、落ち着いて、穏やかに、詫びやへりくだりの気持ちを込めて伝えなければならない。

 事務的な印象や、門前払いされたという印象を与えると、それが原因で感情論になるケースも多いので注意が必要である。「お詫び」「感謝」「ねぎらい」のマジックフレーズを活用することがポイントだが、その感覚は経験とセンスによるところが大きいだろう。いずれにしても、クレーマーの行為を迷惑だと思っていても、それを止めるよう警告として発しなければ、不当な行為とは言いにくい。警告を繰り返し、それでもやめてもらえない場合には、上司に報告し、警察への通報を判断してもらうのが現実的である。

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関根健夫

関根健夫

人材教育コンサルタント

1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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