事例とQ&Aで理解する内部通報・行政通報の実務

日野 勝吾

第3回 「公益通報」と「内部告発」はどう違う?

地方自治

2022.12.06

1.トナミ運輸事件

 皆さんは、ニュース等を通じて「内部告発」という用語を聞いたことがあると思います。「内部告発」と「公益通報」はそれぞれ意味が異なりますし、法的な保護要件と法的効果が異なります。もちろん「内部告発」と「内部通報」は表記上、「内部」は同一ですが、意味は相違しています。報道機関によっては、公益通報に該当するケースであっても、内部告発と誤記するケースがあります。一般的に公益通報よりも内部告発の用語のほうが、認知度が高いといえ、内部告発はどちらかといえばネガティブなイメージがつきまとっているように思います。
 ところで、内部告発は、公益通報者保護法が制定される2年前である2002(平成14)年、「現代用語の基礎知識選ユーキャン新語・流行語大賞」 (第19回)の授賞語に選定されました。トナミ運輸事件の原告であるAさん(Aさんは、ご著書である『ホイッスルブローアー=内部告発者―我が心に恥じるものなし』(2002年、桂書房)においてトナミ運輸事件に係る訴訟に至る経緯等を執筆されています)が授賞式に登壇されました。
 Aさんは、勤務していたトナミ運輸において違法運賃の実態を新聞社等へ告発した結果、研修所勤務を命じられ、長年にわたって研修生の送迎の雑務等、閑職を強いられるなどの嫌がらせを受けたり、昇給・昇格もありませんでした。Aさんはこうした処遇は内部告発したことを嫌悪してなされた差別的な不利益取扱いである旨を主張して、2002(平成14)年に損害賠償等を求めて出訴しました。その結果、富山地方裁判所は、Aさんの請求を一部認めています(慰謝料200万円、財産的損害約1047万円、弁護士費用110万円)。
 トナミ運輸事件(富山地判平成17年2月23日労判891号12頁)の他にも、2002(平成14)年は、食品の安全性を揺るがす事件やリコール事件、医療過誤事件、牛肉偽装事件、原子力発電所トラブル隠し事件など、数多くの不祥事を明らかにする発端となったのが内部告発でした。なお、この頃は、内閣府の国民生活審議会消費者政策部会「消費者に信頼される事業者となるために―自主行動基準の指針」(平成14年4月)において「公益通報者保護制度」について言及されていた頃であり、通報者保護に関する議論がようやく緒に就いた頃でした。

 

2.内部告発とは何か?

 そもそも内部告発とは、自ら従事している事業者に属する労働者等が、事業者内部の不正行為や違法行為を、外部機関(例えば、報道機関)等の第三者に対して、公益のために開示することをいいます。この「ぎょうせいオンライン」もインターネット上で配信されていますが、近時は内部告発の手段としても、インターネットを介して行われることがあります。最近では、飲食店内の不衛生環境に関する問題をインターネット上での書き込み(SNSへの投稿)を通じて告発したケースが喧伝されましたが、こうしたケースも内部告発に該当することになります。ただし、後述する通り、すべての内部告発が法的保護に値するわけではなく、告発内容や方法等によっては、事業者から告発者に対して損害賠償を請求される場合があります。
 このように内部告発は、外部の第三者に対して、告発者が属する事業者内部に関する不正行為や違法行為を開示する行為を指します。公益通報者保護法の対象法律や通報先の各要件に関わらず、告発するものですが、内部告発の内容等によっては、公益通報者保護法上の公益通報(2条)の他、行政通報(3条2項)や外部通報(3条3項)に重なり得るケースがあり得ます。したがって、外部の第三者に告発したこと自体をもって内部告発であると即断するのではなく、公益通報者保護法上の公益通報(行政通報、外部通報)に該当するか否かも検討することが求められます。

 

3.内部告発の正当性判断に関する判例法理

 内部告発は一般法理(判例法理)によって保護されています(「内部告発の正当性判断に関する判例法理」といいます)。裁判所において内部告発の正当性を判断する際には、主に①告発内容の真実性、②告発目的の正当性、③告発手段・方法の妥当性の3つの考慮要素に基づき判断しています(大阪いずみ市民生協事件・大阪地堺支判平成15年6月18日労判855号22頁他)。なお、③告発手段・方法の妥当性については、労働者が事業者内部において不正行為・違法行為等の是正努力を考慮しているケースもあります(学校法人田中千代学園事件・東京地判平成23年1月28日労判1029号59頁他)。事業者内部の通報(内部通報)を誘導させるものの(内部通報前置)、公益通報者保護法のように対象法律(法益)を限定することはありません。
 つまり、裁判例によれば、内部告発は、原則として労働契約上の誠実義務や使用者の企業秩序維持の観点から懲戒権行使の対象となりますが、言論・表現の自由(憲法21条)等に鑑み、告発内容が企業の利益に反する場合であっても、公益を一企業の利益に優先させる見地から、一定の範囲内において内部告発者を保護しています(首都高速道路公団事件・東京地判平成9年5月22日労判718号17頁他)。
 言い換えれば、公益通報者保護法上の公益通報(行政通報・外部通報)に当たらないケースであっても、内部告発の正当性判断に関する判例法理により保護される場合があるということになります。特に、外部通報の場合は、公益通報者保護法が求めていない点、つまり、内部是正に向けた努力を前提とした③告発手段・方法の妥当性を考慮する必要があります。そのため、内部告発の正当性判断にあたっては、内部是正を期待しがたい事情の他、通報内容の公共性や重大性、通報先の限定性等を検討することになろうかと思われます。

 

4.内部告発と公益通報の共通性・類似性

 内部告発は以上のとおりですが、「公益通報」は、第1回で述べた通り、公益通報者保護法2条で詳細を定めています。つまり、労働者等(労働者、退職から1年以内の退職者、役員、公務員を含みます)が、不正の目的でなく、役務提供先等について、通報対象事実が、生じ又はまさに生じようとしている旨を、通報先に通報することをいいます。通報先は、事業者内部への通報(内部(公益)通報)、通報対象事実の法令を所管する行政機関への通報(行政通報)、事業者外部への通報(外部通報)を指します。公益通報に該当した場合、法的効果として、公益通報をしたことを理由とする解雇の無効(3条)や不利益な取扱いの禁止(5条)、公益通報者が派遣労働者である場合は公益通報をしたことを理由とする労働者派遣契約の解除の無効(4条)や不利益な取扱いの禁止(5条)、公益通報者が役員である場合、公益通報をしたことを理由として役員から解任された場合の損害賠償請求(6条)や不利益な取扱いの禁止(5条)が挙げられます。
 なお、先述の通り、内部告発と公益通報(行政通報、外部通報)は重複するケースがあり得ますので、実務上、注意が必要となります。

 

【参照】拙著『2022年義務化対応 内部通報・行政通報の実務~公益通報体制整備のノウハウとポイント~』167頁以下

 

【内部告発と公益通報の相違点】

 

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