事例とQ&Aで理解する内部通報・行政通報の実務
第1回 これって公益通報?-①
地方自治
2022.11.22
0.はじめに
自治体職員向け記事サイト「ぎょうせいオンライン」をご覧になっている皆さん、公益通報者保護法をご存じでしょうか。「法律名は聞いたことがあるが、具体的内容は知らない」「内部通報は総務や監査が担当しているので関係がない」「通報者にとっては必要な法律であるが、特に自治体職員は知らなくても良いのではないか」等、多種多様な業務に従事されている自治体職員の皆さんより様々な感想を寄せられるものと思います。
公益通報者保護法は、消費者の信頼を失墜させる不祥事の多くが組織内の労働者等からの通報を契機として明るみとなったことを踏まえ、2004(平成16)年に制定され、2006(平成18)年に施行されました。その後、通報しやすい環境整備や公益通報者の保護の強化、事業者による内部(公益)通報体制整備等を求めた改正公益通報者保護法が2020(令和4)年6月に成立し、2022(令和4)年6月から施行されています。現在、消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室が公益通報者保護法を所管しています(全22条)
(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/)。
公益通報者保護法にいう事業者とは、「法人その他の団体及び事業を行う個人」(2条)をいい、いうまでもなく自治体も法人ですので(地方自治法2条1項)、事業者に含まれます。ちなみに、株式会社等の営利目的の法人の他、公益社団法人、公益財団法人、協同組合、特定非営利活動法人(NPO)、個人事業主等も含まれます。
また、公益通報者保護法にいう公益通報者とは、「公益通報をした者」(2条2項)をいい、労働者や退職者(退職後1年以内の者)のほか、法人の役員も含まれます。一般職の地方公務員も、公益通報者に該当します。一般職の地方公務員に関しては、身分保障や分限・懲戒事由について地方公務員法によって定められていますので、最終的には同法の定めによることになりますが、公益通報者保護法は公益通報をしたことを理由として地方公務員に対して免職その他不利益な取扱いがなされることのないよう、公益通報者保護法が確認的に定めています(9条)。
さらに、外部の労働者等からの公益通報(行政通報(3条2項))が寄せられた際、処分や勧告等をする権限を有する行政機関に該当する場合は、その行政機関は適切に公益通報に対応しなければなりません(13条)。
こうした規程を踏まえますと、自治体職員の皆さんは、通報を受け付ける内部通報窓口及び行政通報窓口担当者として、また、行政通報に係る違法行為の調査の担当者として、あるいは、通報者として、改正された公益通報者保護法を適切に理解しておく必要があります。
今回より、「事例とQ&Aで理解する内部通報・行政通報の実務」と題して、「ぎょうせいオンライン」において、Q&Aや事例の形式により、実務上の留意点等を平易な表現を用いながら連載することになりました。公益通報者保護法や内部通報・行政通報制度の詳細については、拙著『2022年義務化対応 内部通報・行政通報の実務~公益通報体制整備のノウハウとポイント~』(ぎょうせい、2022年6月)(https://shop.gyosei.jp/products/detail/11150)も併せて参照いただきたいと思いますが、この連載を通じて、公益通報が寄せられた際に迅速に対応できるスキルを身につけていただきたいと願っております。
1.公益通報者保護法の存在価値とは?
私たちの生活の安心や安全を損なわせる不祥事の多くが、労働者をはじめとした事業者内部の関係者等からの通報を契機として相次いで明らかになったことを踏まえて、公益通報者保護法の立法化が進められました。公益通報を通じて、組織の不祥事の早期発見や自浄作用の機能向上、そして法令遵守の体制整備につなげるためには、公益通報者に不利益を被ることのない環境整備が不可欠であることから、法律名の通り「公益通報者の保護」(公益通報者の解雇無効や損害賠償請求の民事免責等)が法律構造の主軸になっています。
つまり、事業者による国民の生命や身体の保護、消費者の利益の擁護等にかかわる法令遵守を確保(=コンプライアンス体制の強化)することとともに、公益のために通報を行ったことを理由として労働者が解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、公益通報者の保護制度が整備されました。
公益通報者保護法が制定される前は、労働契約上の解雇権の濫用禁止(労働契約法16条)の他、個別法(労働基準法、労働安全衛生法、原子炉等規制法、鉱山保安法等)による保護に留まっていました。公益通報者保護法は、他の法律と異なり、公益通報を通じて「国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資する」ことを究極目的と位置づけ、そのために公益通報者の保護と事業者による法令遵守の促進を求めています。
他の個別法に掲げる通報者保護規定との関係も、公益通報者保護法の目的に定める「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守」に該当して、重複するものの、個別法以外の領域をカバーするためにも公益通報者保護法は存在しているといえます。なお、公益通報者保護法は、同法と各個別法との重複が生じた場合であっても、各法令の適用を妨げない旨を定めています(8条)。
2.公益通報とは?
公益通報者保護法は、労働者等が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇や降格等の不利益な取扱いを受けたり、通報に伴って損害賠償責任を負うことがないように、「誰が、どこへ、どのような内容の通報をすれば保護されるのか」を明確にした法律です。この法律の目的は、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することにあります(1条)。
いうまでもありませんが、この法律で法的に保護されるには、「公益通報」(2条)に該当する必要があります。誰が、どのような事実について、どこに通報するか等、一定の要件を充足するものが保護対象になります。
公益通報とは、労働者や退職者(退職後1年以内)、派遣労働者(役務提供終了後1年以内)、役員(法人の取締役、執行役等)が、不正の目的でなく、所属する役務提供先等での通報対象事実(通報の対象となる法令違反)が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、役務提供先等(内部通報)、処分・勧告等権限を持つ行政機関(行政通報)、通報することにより被害拡大を防止するために必要であると認められる者(外部通報)のいずれかの通報先に通報することをいいます(2条)。つまり、公益通報は、①労働者等(通報主体=公益通報者)が、②不正の目的でなく(違法性≠公益性)、③役務提供先等の不正行為(通報内容=通報対象事実(通報の対象となる法令違反))を、④3つの通報先のいずれかに通報すること(通報先ごとの保護要件)、ということになります。次回から、順に確認していきましょう。
【参照】拙著『2022年義務化対応 内部通報・行政通報の実務~公益通報体制整備のノウハウとポイント~』86頁以下